[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪府I市およびT市
事例発生日:2006年3月5日
事例終息日:2006年3月29日
発生規模:I保健所管内34名 T保健所管内21名
患者被害報告数:
死亡者数:10名
原因物質:ヒトメタニューモウイルスと肺炎球菌
キーワード:ヒトメタニューモウイルス、肺炎球菌、呼吸器感染症、集団発生
背景:
春先の高齢者等施設ではヒトメタニューモウイルスによる肺炎の集団発生が起こる可能性が指摘されつつある。
概要:
I保健所管内の高齢者施設で平成18年3月5日から3月15日までに発熱性呼吸器疾患の集団発生があり、保健所に届け出があった。発病日不明者3名を含めて、患者合計は34名(うち職員3名)であった。このうち11名が入院し、そのなかの1名が死亡した。病原体検索をするために3月15日に喀痰、咽頭拭い液、尿が採取された。検査をした全例でウイルス分離は陰性であったが、11名の咽頭拭い液からヒトメタニューモウイルスの遺伝子をRT-PCRによって検出した。同時に行ったRSウイルスのRT-PCRは全て陰性であった。さらに2名の喀痰、1名の咽頭拭い液から肺炎球菌が分離され、6名の尿から肺炎球菌抗原を検出した。また他に、インフルエンザ菌および緑膿菌・大腸菌を各々1名から分離した。
T保健所管内の社会福祉施設で平成18年3月29日から咳を初発とし、肺炎を主症状とする集団発生がおこった。患者発生は4月3日までに21人みられ、うち2名は入院したが、4月4日においてそのほとんどは軽快した。患者の回復は抗生剤の投与と一致しているように思われた。病原体検索するために4月4日に8名の患者から検体が採取された。ウイルス分離は全例陰性であったが、6名の咽頭拭い液からヒトメタニューモウイルスの遺伝子をRT-PCRによって検出した。また、細菌培養検査によって3名から肺炎球菌を分離した。検査した5名の尿中抗原(レジオネラ・肺炎球菌)はいずれも陰性であった。
ヒトメタニューモウイルスの侵淫状況は不明な点が多いため、症状が全快した5月16日に、前回の有症者から再び咽頭拭い液を採取した。検査の結果、試験した全例はヒトメタニューモウイルスに対するRT-PCRは陰性であったが、少なくとも2名から肺炎球菌を分離した。なおMRSAは全例陰性であった。
原因究明:
ヒトメタニューモウイルスの遺伝子をRT-PCRによって検出した。また、細菌培養検査により肺炎球菌を分離した。
診断:
確定診断はできないが、ヒトメタニューモウイルスと肺炎球菌の重複感染が原因であると思われる。
地研の対応:
ウイルス検査および細菌検査
行政の対応:
保健所による指導
地研間の連携:
大阪市立環境科学研究所(改田厚先生)との共同研究
国及び国研等との連携:
特記事項なし
事例の教訓・反省:
春先の高齢者等施設ではヒトメタニューモウイルスによる肺炎の集団発生が起こる可能性がある。さらに細菌との重感染は症状を悪化させる可能性がある。そのような場合は、ウイルス学的検査だけでなく細菌学検査も同時になされるべきである。
現在の状況:
ヒトメタニューモウイルスに関してはRT-PCRで対応している。細菌検査は通常検査で対応。
今後の課題:
ヒトメタニューモウイルス(単独および肺炎球菌との重感染を含めて)の病原性が確定していない。そのため事例収集が重要である。
問題点:
ヒトメタニューモウイルス分離を行った方がより詳細な分析が可能となるが、ウイルス分離に関する知識が不十分である。
関連資料:
Kaida A, Iritani N, Kubo H, Shiomi M, Kohdera U, Murakami T.
Seasonal distribution and phylogenetic analysis of human metapneumovirus among children in Osaka City, Japan.
J Clin Virol. 2006 Apr;35(4):394-9.
白石博昭 豊村研吾 平泰子 宮川春美 三浦久 吉田中浩二 山野眞由美 守真奈美 都留陽子 千々和勝己 江藤良樹 石橋哲也 世良暢之 吉村健清 佐野正 中山宏
高齢者福祉施設におけるヒトメタニューモウイルス集団感染事例 福岡県病原微生物検出情報月報 Vol.27,No.7,p.178-179(2006)