No.1321 牧場での「ふれあい体験」が感染源と示唆される腸管出血性大腸菌O157感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:青森県環境保健センター
発生地域:青森県D保健所管内
事例発生日:2006年7月7日
事例終息日:2006年8月1日
発生規模:4グループ(参加者228名)及び家族
患者被害報告数:有症者15名,無症状病原体保有者1名 計16名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌 O157:H7(VT1、VT2)
キーワード:腸管出血性大腸菌O157、「ふれあい体験」、小学校、催事

背景:
動物とヒトとのふれあいは、人格の形成や情緒面に、好ましい効果をもたらすとして、特に小児を対象とした「ふれあい体験」が推奨されている。しかし、ヒトの健康に問題を起こす可能性についての予防対策が、十分になされているとはいえず、各地で健康被害が発生している。このため、厚生労働省では、2006(平成18)年7月4日付、健感発第0704002号「動物展示施設(動物とのふれあい施設を含む。)における動物由来感染症対策について」で感染症予防のため、必要な動物由来感染症対策の実施を要請した。

概要:
2006年7月上旬~下旬にかけて、青森県D保健所管内において、腸管出血性大腸菌O157感染症の発生届出が続発した。保健所調査の結果、いずれの患者も患者自身もしくは患者の家族が、牧場での「ふれあい体験」に参加していたことがわかった。「ふれあい体験」は4グループあり、その内訳は6月16日(金)A小学校59名、7月1日(土)催事約100名、7月6日(木)B小学校50名、7月11日(火)C小学校19名であった。参加者228名および家族の健康状態を調査したところ、有症者15名、無症状病原体保有者1名、計16名からO157:H7(VT1、VT2)が分離された。疫学的調査では、共通する要因は、本人もしくは家族が「ふれあい体験」に参加していたことに限られることが判明したため、感染源は当該牧場での「ふれあい体験」であると示唆された。

原因究明:
7月3日(月)、医療機関からD保健所あてに腸管出血性大腸菌O157による患者の発生届が提出された。患者はA小学校の社会科見学実習で、6月16日(金)に管内の牧場において「ふれあい体験」に参加していた。このことから、A小学校児童の健康状態を確認するため、家族の了解を得て、A小学校を訪問し、健康調査及び感染拡大防止のための保健指導を実施した。
患者発生の期間中に、厚生労働省から2006(平成18)年7月4日付、健感発第0704002号「動物展示施設(動物とのふれあい施設を含む。)における動物由来感染症対策について」通知があり、県担当課より早速に市町村等の関係機関への周知が行われた。

診断:
7月7日(金)、H保健所よりH大学病院から腸管出血性大腸菌感染症の届出があった旨、D保健所へ連絡があった。患者の住所地はD保健所管内であるが、症状が改善されないためH大学病院へ搬送されたものである。家族への聞き取り及び検便を実施した結果、患者の兄弟が当該牧場での「ふれあい体験」に参加していたこと、その後水様性下痢を発症していたことが判明した。さらに、患者に付き添っていた家族からO157:H7(VT1、VT2)が分離された。この付き添い家族は、無症状病原体保有者であった。その後、7月31日(月)にかけて患者発生の届出が続発した。疫学的調査の結果では、患者や保菌者に共通する要因が、本人もしくは家族が「ふれあい体験」に参加していたことに限られることが判明した。さらに、分離菌株のPFGEによる遺伝子解析の結果、制限酵素Xba 及びBln Iによる切断パターンは、Xba Iで1株、Bln Iで2株を除いて、すべて同一であった(3株の違いは、いずれもバンド1本程度であった。)ことから、感染源は当該牧場であると示唆された。牧場では当面の間「ふれあい体験」を自粛し、感染症対策を講じることとなり、衛生部局と畜産部局が指導を実施した。

地研の対応:
分離された菌株のH型別、PCR法によるVT1、VT2遺伝子の確認及びパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析を実施した。PFGEを用いた解析の結果、制限酵素Xba I及びBln Iによる切断パターンは、XbaIで1株、Bln Iで2株を除いて、すべて同一であった。(3株の違いは、いずれもバンド1本程度であった。)また、同時期及び同地域で発生した散発事例分離株との比較も行った。散発事例分離株中で、集団事例と同一のパターンを示すものもみられたが、当該牧場との関連は不明であった。

行政の対応:

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
動物等取扱業者への動物由来感染症対策についての周知徹底は当然のことであるが、利用者への動物由来感染症についての注意の喚起、さらには、一般住民への動物由来感染症についての広報、啓発に努めることも重要であると思われた。

現在の状況:
牧場では「ふれあい体験」を自粛し、牛舎の清掃・消毒・保菌牛への生菌製剤の投与を実施した。さらに、手洗いや踏み込み消毒槽の不備を改善した。しかし、2007年11月末現在、「ふれあい体験」再開の予定はない。

今後の課題:
「ふれあい体験」等、に関連して起こる可能性のある、動物由来感染症発生の未然防止。

問題点:
安全・安心な「ふれあい体験」のため、施設の運営者・担当者・利用者に、動物との接触に伴う感染症発生の可能性を正しく理解させ、対処させる教育をどこがどう担っていくか。感染症対策部門と動物愛護管理担当部門の十分な連携が必要である。

関連資料:
病原微生物検出情報 Vol. 28 No.4(2007)116-118