No.1349 グロリオサによる食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:高知県衛生研究所
発生地域:知県高知市
事例発生日:2006年8月
事例終息日:
発生規模:被害者数1名 死亡者数1名
患者被害報告数:
死亡者数:0名
原因物質:グロリオサ塊茎に含有されるコルヒチン
キーワード:グロリオサ、コルヒチン、塊茎、観賞用、LC/MS/MS、誤食

背景:
グロリオサは、イヌサフラン科の観賞用植物で土中に細長い塊茎(球根)を形成する多年草である。季咲き栽培すると、夏に開花し秋から冬に地上部は枯れて塊茎を形成する。また、グロリオサは高知の花卉(かき)園芸を代表する花である。グロリオサの塊茎は、アルカロイドであるコルヒチンを含有する。コルヒチンは痛風の治療薬であるが、過量に摂取すると呼吸不全等により死亡することもある。グロリオサの塊茎は、ヤマイモに酷似しているため誤食による食中毒報告事例が発生した。患者宅にあったグロリオサ塊茎等についてコルヒチンの分析及びグロリオサ植物体の部位別コルヒチン含量等の分析を行ったのであわせて報告する。

概要:
食中毒内容について高知市保健所からの情報を記載
2006年8月29日高知市在住のAさん(70代、男性)は自宅の庭に自生していたヤマイモを採取した際、観賞用として栽培していたグロリオサの球根(塊茎)を誤って一緒に採取し同日の昼食にすりおろして喫食した。午後5時頃から下痢を呈し、8月30日高知市内の医療機関で受診後、入院し治療を受けていたが9月18日コルヒチン中毒を原因とする多臓器不全により入院先の病院で死亡した。

原因究明:
上記の状況から、「Aさんの自宅の庭で観賞を目的に栽培されていたグロリオサの塊茎を誤ってヤマイモと一緒に調理し喫食したためコルヒチンによる食中毒症状を呈することとなった。」と推定された。

診断:
概要及び地研の対応欄に記載。

地研の対応:
入院先の医療機関からの要請を受けてLC/MS/MSにて摂取後3日目の患者尿、患者宅にあった別のグロリオサ塊茎のコルヒチン含量を分析し、尿中に1.5mg/L、塊茎中に0.14%のコルヒチンを検出した。さらに、患者死亡後剖検の腎臓及び肝臓(摂取後20日)のコルヒチン含量を分析したが、定量限界以下であった。(定量限界10ng/g)
また、栽培しているグロリオサ植物体の各部位別・市販されている塊茎・露地栽培している塊茎中のそれぞれのコルヒチン含量を分析した。
グロリオサ植物体中のコルヒチンは全草に分布しているが全量の95%以上が塊茎部分に存在していた。
また市販のグロリオサ塊茎とハウス栽培または露地栽培されていたグロリオサの塊茎のコルヒチン含量は、平均値で500~1,200μg/g程度の含量であった。平均値では、市販のグロリオサ塊茎が最も多く、次いで露地栽培、ハウス栽培の順であったが、露地栽培及びハウス栽培のグロリオサ塊茎が水分を多く含んで瑞々しかったのに対し、市販されていたものは乾燥していたため水分含量によってコルヒチン含量が変動すると考えられた。

行政の対応:
高知市保健所の対応:高知市保健所ホームページでの誤食防止等の啓発、農水部と連携し高知の代表的花卉園芸産品であるグロリオサの塊茎が誤食されないようグロリオサ生産農家と協議し余剰の塊茎の廃棄について高知市清掃工場で焼却することとした。

地研間の連携:
今回の事例については特に連携を図らなかったが、生体試料のコルヒチン含量分析については、本県警察本部科学捜査研究所による分析法上のアドバイスを受けて分析を実施した。また、塊茎等のコルヒチン含量分析については、北海道衛研所報等を参考とした。

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:

現在の状況:
コルヒチンについては迅速に対応できる。

今後の課題:
自然毒については、その成分分析法の検討及び標準物質の確保が必要であり、毎年必要に応じて検討を進めていく。

問題点:
入院先医療機関からは、当初血清と尿の測定依頼があり血清についても分析した。当所保存のブランク血清にコルヒチンを添加した予備試験では良好に定量できたが、患者血清では、他のピークと重なり検出限界が0.1mg/Lとなったため検出できなかった。

関連資料:
高知県農業技術センターニュース第39号、内藤宏道:高知市医誌11(1).123~126,2006、石沢淳子:月刊薬事,Vol.40,No3(1998)、佐藤正幸:道衛研所報,54,107-108,2004、製品安全データシート:ナカライテスク株式会社、二宮千登志ら:園学研6(3):417-423.2007