[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:横浜市衛生研究所
発生地域:神奈川県、東京都、北九州市、千葉県、埼玉県、静岡県、群馬県、岩手県、
事例発生日:2006年12月9日
事例終息日:2006年12月14日
発生規模:
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、NV、G II、デザート、杏仁豆腐、拭き取り、シーケンス、塩基配列、系統図、食中毒
背景:
今回の事件の原因施設となった中華料理店は、中華街のメインストリートに面した大規模店で、全国から観光客が訪れ、12月8日から12月10日に利用した224グループ1,174名のうち227人が食中毒症状を呈する全国的な広域食中毒事件となってしまった。
また、原因推定食品の残品はなく、直接的にノロウイルスを検出することができなかったが、杏仁豆腐にトッピングするフルーツを切るまな板とシンク蛇口の取手の拭き取りから間接的にノロウイルスを検出し、シーケンス等の総合的な解析から杏仁豆腐を原因食品の一つと推定した事例である。
概要:
平成18年12月8日から12月10日に中区内の中華料理店を利用した224グループ1,174名のうち、227名が嘔吐、下痢等の症状を呈するという広域な食中毒事例が発生した。当該飲食店を所管する中福祉保健センターが調査した結果、17グループ40名の患者便及び従業員38名中8名の便からノロウイルス(G II)が検出されたため、当該飲食店を原因施設とする食中毒事件と断定し、12月13日から12月15日まで営業を禁止した。
なお、原因究明に際して、12月8日利用の患者2名、12月9日利用の患者1名、12月10日利用の患者1名、初発のデザート担当調理員、炒め物担当調理員から検出されたノロウイルスについて遺伝子解析したところ、すべてGenogroup II Genotype4に分類され、塩基配列の相同性は100%であった。
また、1)杏仁豆腐のトッピング用包丁2)同じくまな板3)デザート調理用シンクの蛇口取手4)杏仁豆腐の冷却用冷蔵庫取手5)同じく冷蔵庫内部6)調理従事者用トイレドアノブの拭き取り検体のうち、2)及び3)からノロウイルスが検出された(遺伝子型別判定不能)。
以上の結果から、本件の発端は、12月7日に最初に発症したデザート担当の調理従事者にあったと考えられた。調理従事者は調理場に隣接した専用のトイレを利用しているが、トイレ内の手洗設備を撤去しており、トイレを使用した後は調理場内の手洗設備で手洗いしていた。また、点心・デザートの調理場では、手洗設備があるにもかかわらず、シンクで手洗いしていた。このような状況から、調理場内の数箇所がノロウイルスで汚染されたと推察された。また、デザートを食べていない発症者が9グループ12名おり、そのうち4名は検便からノロウイルスが検出されたため、他の食品にも汚染があったことが推察された。
原因究明:
原因究明のための患者便のウイルス検査は、迅速な診断をするために国からの通知に準拠して、リアルタイムPCRで検査開始後数時間以内に結果が判明できるようにしている。また、原因食品の残品等の検体がなかったために、拭き取りの検体を感染源の究明に用いた結果、塩基配列の解明にまでは至らなかったが、8検体中2検体でノロウイルス(G II)を検出することができた。
診断:
地研の対応:
衛生研究所には広域食中毒事例のために市内13箇所の保健所より検査依頼があり、患者便36検体、原因施設の調理従事者等の検便43検体、拭き取り8検体が持ち込まれた。検査の結果、患者便30検体、調理従事者等の検便10検体、拭き取り2検体からノロウイルスのGenogroup II(G II)遺伝子が検出された。このために患者便4検体、調理従事者2検体、拭き取り2検体の陽性検体について、塩基配列を解析した。拭き取り検体はシークエンスができなかったが、それ以外の便検体における塩基配列の相同性は100%一致していた。
行政の対応:
行政における対応として、平成18年12月13日から平成18年12月15日までの営業禁止処分とした。また、指導事項として、1)食材を整理し、残品を廃棄。2)施設の整理整頓や清掃および洗浄消毒を実施。3)調理従事者等の検便の結果、ノロウイルスが陰性だったもののみが調理等を行う。4)手洗設備の設置等、施設を改善。5)衛生教育の受講等を実施した。
地研間の連携:
今回は、特になかった。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
食中毒事例における感染ルートの究明に際して、残品や検食がない場合にでも拭き取り方法を工夫することでノロウイルス検出を可能にし、感染源を推定することができた事例である。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
「ノロウイルス等の検出率を高める拭き取り方法の検討について」、平成19年度全国食品衛生監視員研修会研究発表会