[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:横浜市衛生研究所
発生地域:横浜市青葉区
事例発生日:2006年9月
事例終息日:2006年10月
発生規模:検便実施者数 131名、感染者数5名、死亡者数0名
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:腸管出血性大腸菌 O157:H7 VT1&2産生株
キーワード:腸管出血性大腸菌、搾乳体験、集団感染、O157
背景:
近年、動物の展示の仕方に工夫を凝らした動物園が全国的な人気を集め、また、ふれあい体験や搾乳体験等、動物との直接のふれあいができる施設も多く存在する。このように人と動物の距離が縮まることは動物とのふれあいを通して情操教育やレクリエーションの場としても重要である一方で、動物に由来する感染症に羅患する可能性がこれまで以上に高まっている。
今回、市内のふれあい動物施設の搾乳体験で腸管出血性大腸菌O157(以下、O157)に複数家族が感染した事例が確認されたので報告する。
概要:
2006年10月、市内の1歳児が、O157に感染したとの発生届け出が福祉保健センターにあった。その1歳児は家族5人で観光牧場で搾乳体験しており、当所の検査において、家族1名及びその牧場のウシ2頭の糞便、計3検体からO157が検出された。その後、23日に同牧場で搾乳を体験している他の家族2名の糞便からもO157が検出された。これらの分離株はパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を用いた遺伝子DNA断片多型性解析で同一のパターンを示したことからこの牧場の飼育動物からの感染が疑われた。
原因究明:
今回の事例は、10月2日、1歳女児がO157:H7でVT1,VT2に感染したとの発生届け出がA区福祉保健センターにあり探知した。家族の糞便からもO157:H7でVT1,VT2産生菌が検出された。この家族は9月に家族5人で隣のB区の観光牧場に遊びに行き搾乳体験イベントに参加をしたことが判明した。なお、家族の症状では9月27日に母親も下痢があった。
続いて、C区の3歳女児(保育園児)が10月14日にC区のクリニックを受診しO157:H7でVT1,VT2産生菌が検出された。家族からもO157:H7でVT1,VT2産生菌が検出された。この家族は、9月23日に同牧場の搾乳体験をしていた。
この牧場のウシ(搾乳体験用以外)2頭の糞便からO157:H7でVT1,VT2産生菌が検出された。これらのヒト由来とウシ糞便由来6株よりPFGEよる解析の結果、同一パターンを示した。また、後日、この牧場のウシ糞便36検体より分離された11株について家畜保健衛生所から分与されたO157:H7、VT1,VT2産生菌のPFGEによる解析の結果も1株を除いて同一パターンを示した。
今回の事例は搾乳用のウシからはO157が検出されなかったが、同牧場のウシ由来12株とヒト由来4株計16株についてPFGEよる解析の結果が同一パターンであったことから搾乳もしくはふれあい体験での感染の可能性が高いと思われる事例であった。
診断:
地研の対応:
原因物質究明のため、福祉保健センターから搬入された2家族の糞便と搾乳体験用のウシとその近くで飼育されていたウシの糞便、女児らの通っている保育園児と職員の糞便についてもO157の検査を行った。また、患者、家族、当該牧場のウシ由来の株および家畜保健衛生所で分離された同牧場のウシ糞便由来株を材料とし、PFGEを用いてXba I制限酵素による遺伝子DNA断片多型性解析を行った。
行政の対応:
1)搾乳体験の自粛
2)衛生管理面の改善(来園者への手洗い喚起のポスター掲示、全ての手洗い場に洗剤設置)
3)従業員の検便の実施
4)感染牛の隔離・治療
5)牧場の飼育牛の全頭検査(県家畜保健衛生所に要請)
6)全頭検査が終了するまでの間、牧場見学の中止
7)牛舎及び牛の放牧場に接する道路の遮断
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
特になし
事例の教訓・反省:
現在の状況:
今後の課題:
我が国での、動物との接触が発生要因である腸管出血性大腸菌感染症事例は、集団での発生を把握しない限り探知することが難しく全国的にも希であり報告例は1991年以降6事例と少ない。その内訳は動物とのふれあいや搾乳体験での感染が5事例、学校での動物の飼育事例が1事例である。このようなふれあい動物施設の搾乳体験等の動物に由来する感染症の防止には、ふれあい体験者側に動物に接するときの注意や、接触後の手洗いを徹底するよう啓発するとともに、施設管理者側には、体験者への注意喚起、手洗い設備の適切な設置、動物由来感染症の知識を有する係員の配置、会場の適切な消毒およびふれあい用動物の健康管理を指導していくことが必要である。
問題点:
関連資料: