No.1392 伊賀保健所管内の医療機関で発生した事案(セラチア属菌感染症)について

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:三重県保健環境研究所
発生地域:三重県伊賀市
事例発生日:2008年6月
事例終息日:
発生規模:当該医療機関で5月9日~6月10日に有症者と共通した処方で点滴を受けた人数386名(のべ667名)
患者被害報告数:29名
死亡者数:1名
原因物質:セラチア属菌
キーワード:院内感染、点滴、セラチア属菌

背景:
平成20年6月9日伊賀市内A病院の医師から、「B整形受診後、4名の患者が発熱、吐き気などの症状を訴え、救急搬送されてきた」と保健所に通報があった。その後、保健所の聞き取りにより同様の患者が、6月2日にA病院で2名、5月23日にC病院で3名入院していることが判明した。また、6月10日にB整形を受診した1名が自宅で死亡していたことが確認された。
B整形では点滴の作り置きが常態化しており、医療に対する責任感及び危機管理意識のいずれにおいても希薄であり、医療法が求める医療安全管理や院内感染防止対策が不十分であったうえに、それらを改善していこうという意識も無かった。

概要:
保健所等が当該医療機関で5月9日~6月10日に有症者と共通した処方で点滴を受けた386名に安否確認を行ったところ、異常ありと答えた患者が64名あり、うち死亡者1名を含む29名が入院等により治療を受けた。A及びC病院で患者6名の血液からセラチア属菌が検出された。当保健環境研究所で検査した182検体のうち、血液1検体、使用済み点滴パック7検体及び消毒綿1検体からもセラチア属菌を検出した。これらの検体から検出された15株のセラチア属菌のパルスフィールドゲル電気泳動パターンが一致した。B整形で回収したアンプル薬剤及び未使用の点滴パックは、7日間の増菌において、菌の増殖は確認されなかった。以上のことから今回の事案は、B整形で調合された点滴液を原因とするセラチア属菌による院内感染と特定した。

原因究明:
消毒綿に患者のアルコールかぶれ対策として、アルコールの代わりに使用していたグルコン酸クロルヘキシジンの濃度が低く、手指を介した汚染により侵入した細菌が増殖した。点滴液を準備する際に、細菌汚染された消毒綿を使用したため、点滴パックが汚染され、さらに作り置きの間に菌の増殖があった。

診断:
DHL寒天培地又はドルガルスキー改良培地で分離し、API20及びAPI50でSerattia liquefaciensと同定した。

地研の対応:
6月10日の第一報を受け、衛生研究課(理化学的検査)、微生物研究課にて検査対応することを決定し、速やかに試薬等を手配した。また、疫学情報課にて同様事例の情報収集を行った。

行政の対応:
B整形で点滴治療を受けた患者の安否確認、関係者の聞き取り調査及び検体の採取。

地研間の連携:
東京都健康安全研究センター疫学情報室から過去の院内感染事例の報告書の提供を受けた。

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所細菌第二部より院内感染原因菌及びエンドトキシンショックに関する情報提供を受けた。

事例の教訓・反省:
色々な事例に対応するために、実際に微生物を使用した訓練は困難と考えるが、情報収集とそれらに目を通しておく等のことだけでも、危機発生時には役に立つと思われた。今回マスコミ対応は県庁に一本化したため、当所がマスコミに振り回されることは無かったが、1社においては当所から菌を検出したという情報を得たと虚偽の話をして、県庁からさらなる情報を得ようとした。

現在の状況:
・ 微生物研究課7名(課長1名、細菌担当3名、ウイルス担当3名)及び非常勤業務補助員2名(先天性代謝異常検査も含む)
・ BSL2対応実験室6室、BSL3対応実験室1室

今後の課題:
食中毒等感染症検査を担っている津総合検査室との連携。保健所、県庁対策本部とのリアルタイムな情報共有。

問題点:
当所では食中毒等感染症の細菌検査を実施していない。そのため本事例の検査で使用する培地をはじめとする試薬類の多くを緊急に手配する必要があった。幸い今回は支障をきたさなかったが、原因微生物によっては検査に要する充分な試薬が常に準備できるとは限らず、その対策について津総合検査室と協議していく。

関連資料:
なし