[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:広島市衛生研究所
発生地域:広島市及びその近郊
事例発生日:2008年1月8日
事例終息日:2008年1月14日
発生規模:発症者数 749名、死亡者 なし
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、事業所用給食弁当
背景:
ノロウイルスを原因とする食中毒事件は、他の食中毒菌と比べ患者数が多く大規模食中毒事件となるケースが多い。最近は従事者からの二次汚染によるものが多く、1事件あたりの患者数も多くなっている。
今回の原因施設は、事業所給食弁当を400~450事業所に約2,000食、中学校への給食弁当を4校に約1,600食提供しており、市内でもかなり大規模な事業所給食施設でのノロウイルス食中毒事例であった。
概要:
2008年1月7日から1月9日に事業所給食弁当を喫食した135事業所の492名、及びデリバリー給食を喫食した4中学校の257名が嘔吐、下痢などの症状を呈した大規模食中毒事件が発生した。調査の結果、患者らの共通食はこの事業所給食弁当のみであり、症状も一致していた。また、患者を診察した医師から食中毒の届出があったことから、この弁当を原因とする集団食中毒事件と判断し、1月10日に営業の禁止を命令した。1月10日の検査により、事業所給食及びデリバリー給食の患者便からノロウイルスを検出し、病因物質をノロウイルスと断定した。施設内の消毒の確認、従事者の衛生教育、改善指導事項の確認を行った後、1月22日に営業の禁止を解除した。
原因究明:
患者の発生状況の調査から、デリバリー給食と事業所弁当は、メニューが別であり、別々の原因食品に因るものと考えられ、ノロウイルス食中毒の潜伏時間・発症のピークから、デリバリー給食では7日・事業所給食では8日が主な暴露時点と推定された。また、X2検定から、それぞれの日のメニューの幅広い汚染が推定されたが特定には至らなかった。微生物検査の結果、ノロウイルスは検食(1/7~1/9までの34品目)からは検出されず、トイレのドアノブのふきとりのみ検出された。このことから汚染の原因としては、ノロウイルスを保有した従事者が、調理施設内トイレの手洗い設備で温水が出なかったことや、蛇口を手指で操作しなくてはならなかった等の理由により、用便後の手洗いが不十分となり、その状況のまま調理業務を行ったり、トイレで汚染を受けた他の調理員が調理盛付工程等で食品汚染をさせたと推測された。ただ、従業員が経常的に当該施設で調理した弁当を食べており、1月11日から1月12日の間に検査をした結果、15名の調理従事者からノロウイルスが検出されたため、index case(発端者)や食品汚染ルートは解明できなかった。
診断:
リアルタイムPCRの結果、患者便は1g当たり10の6乗~10乗(平均10の8.4乗)コピー、従事者便は10の3乗~10乗(平均10の7.1乗)コピーのノロウイルス遺伝子が検出された。ドアノブのスワブは1ml当たり10の2乗コピーの定量値であった。
患者便7検体、従事者便3検体由来のNVのG IISKF/SKR領域(282bp)のシークエンスの結果、全てGII/4で9株は100%一致し、従事者1株のみ1塩基異なっていた。その後、P2ドメインを含む領域(571bp)の解析でこの従事者1株とその他の株が100%一致することを確認した。
以上の結果より、同一ノロウイルスG II/4による集団発生であると判断した。
地研の対応:
1月10日から1月12日の間に、衛生研究所は保健所から検査依頼を受け、有症者便20検体、従事者便36検体、食品34検体、ふきとり12検体、合計102検体の検査を行った。検査の結果、有症者便20検体、従事者便15検体、ふきとり1検体(調理施設内のトイレのドアノブ)、合計36検体(35.3%)からノロウイルスG IIが検出された。
行政の対応:
保健所は原因施設に対して1月10日に営業の禁止を命令した。営業禁止期間中に施設の改善命令[食品の取扱方法、手指の洗浄消毒方法、手袋の使用方法、調理従事者の健康チェック、施設・器具の洗浄消毒、便所のドアノブ等の消毒、従事者の検便等]、改善事項の確認、従事者の健康確認・衛生教育の実施等を行い、1月22日に営業の禁止を解除した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
当該施設は県の食品自主衛生管理認証制度の認証施設であった。また、衛生管理マニュアルも整備されており、衛生的に優良な施設であった。
しかし、調理従事者15名からノロウイルスが検出され、今回の場合も体調不調をチェックする「健康チェック簿」が形式的になっており、体調不良について申告していなかった可能性が高いものと考えられた。下痢等の体調不良は他人からは確認しにくいものであり、本人の申告がない限り、表に出ないことも多いと考えられる。
また、トイレのドアノブのふきとりからノロウイルスを検出したことを踏まえ、同様な食中毒事件を起こさせないためには、次の対策を徹底する必要があると考えられる。
(1)手洗い消毒設備は、自動式とする。また、必要に応じて温水が使えるものとする。
(2)トイレの入退室には、調理衣類を着脱する専用の前部屋を設けること。
(3)体調不良のチェック表については、本市で作成した「健康管理チェック表」を用いて、家族を含めてチェックする体制とすること。
(4)従業員の衛生教育には、実地研修を必ず行うこと。
現在の状況:
営業は再開されず、休業状態にある。
今後の課題:
問題点:
関連資料:
特になし