No.1401 腸管出血性大腸菌O111の集団発生事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:長崎市保健環境試験所
発生地域:長崎県長崎市
事例発生日:2008年6月9日
事例終息日:2006年6月21日
発生規模:有症者数67名、死亡者数0名
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:腸管出血性大腸菌 O111:H-VT1&VT2産生株
キーワード:腸管出血性大腸菌、EHEC、O111、院内感染

背景:
腸管出血性大腸菌は、少量の菌により人または食品からの感染が成立することから、その予防・感染拡大防止には徹底した衛生管理が必要とされる。本菌による感染者の届出は近年漸増傾向にある。昨年は大規模な食中毒事例も発生し、その予防対策等について各機関より注意喚起がなされている状況にある中で、長崎市において初めてEHEC O111による集団感染事例が発生した。

概要:
2008年6月13日、市内の病院Aから、同病院の職員6名が下痢・血便等の症状を呈し、入院させている旨の届出があった。長崎市保健所の調査の結果、病院A及び病院Aと同一法人が経営する併設された病院Bの両施設において、6月9日から職員等が腹痛・下痢・血便等の症状を呈していることが判明し、6月21には有症者の総数が67名(病院Aの医療スタッフ38名、病院Bの医療スタッフ15名、調理従事者8名、病院Aのデイケア利用者3名及び有症職員の家族3名)に及んだ。当所で行った細菌学的検査の結果、両施設の職員から腸管出血性大腸菌O111(VT1&VT2) が検出された。
両施設は、1つの厨房と職員食堂を共有し、厨房で患者と職員の給食1,200食を調整後、職員分を職員食堂で盛付けている。職員は、食器具に配分された当日の昼食のメニューに加え、前日に調理したメニューに余剰分があれば、これを再加熱したものの中から自分で取り分けるというバイキング方式で摂食していた。
探知当初、発症者が職員のみで入院患者からの発症者がなく、その後の喫食・疫学調査から、感染源として、6月7日に職員食堂で提供された給食(282食)などの食品が疑われた。

原因究明:
有症者67名のうち、調理従事者6名を含む職員29名及び無症状の調理従事者3名からO111:H-(VT1&VT2)を検出した。職員以外の患者及び家族等接触者からは、症状を訴えた者もいたが、O111は検出されなかった。検食等食品及び厨房ふきとりのうち、原因として疑われた6月7日の検食1検体とふきとり1検体がVT陽性であったが、O111は分離できなかった。但し、これらの検食は厨房において採取されているものであり、職員食堂への搬入後の汚染について証明できるものではなかった。
分離株10株のPFGEの結果、1株が2バンド異なるパターンを示したが、調理従事者を含む9株が同一パターンを示した。また、薬剤感受性試験では、全株がほぼ同様なパターンを示し、耐性株は認められず、これらは同一起源であると推察された。本事件において、2つの施設全体で偏りなく感染者が発生し、その大半が13日までに発症した職員のみにO111が検出されるという疫学的特徴が見られた。職員給食が原因として疑われたが、食品及びふきとり検査から感染経路の特定には至らなかった。また、摂食者数に対して発症者及びO111検出者の割合が少なく、少量の菌による食品・食器具の汚染または散在的な汚染の可能性が示唆された。
[資料参照]

診断:

地研の対応:
調理従事者全員、有症の医療スタッフ及びデイケア患者、リアルタイムPCRでVT産生遺伝子が検出された者の家族等接触者の糞便合計222検体、厨房等ふきとり22検体及び検食等食品47検体を検査した。分離されたO111株については、VTEC-RPLAでVT産生試験を行い、分離株のうち10株について、PFGE法による解析及び16薬剤の感受性試験を実施した。

行政の対応:
1)職員食堂の利用自粛要請2)有症職員の業務従事の自粛提案3)環境整備・衛生的な食品取扱い及び手洗いの励行・入院患者や職員の健康観察の継続徹底等の感染予防対策に関する衛生指導4)病院利用者等への情報公開の勧め

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
医療施設におけるバイキング方式による食事の提供は、患者と接する医療スタッフからの取分け器具や食品への汚染の危険性を考慮する必要があり、また、特にEHECのような少量で感染を引き起こす病原体に対しては、標準的感染予防策の遵守の重要性が認識された。
今回、菌分離と併行して、スクリーニングとして増菌液を用いて、リアルタイムPCRによるVT検索を行ったが、O111を分離した中で1検体がVT陰性であったものの、両者の結果の一致率は高く、多量の検体の処理及び感染拡大防止への迅速な措置に有効な方法と思われた。

現在の状況:

今後の課題:
今回、厚生労働省通知「腸管出血性大腸菌O157及びO26の検査法」に基づいてリアルタイムPCRによるVT検索を行ったが、VT1に比べVT2のCt値が高い傾向がみられ、また、VT2遺伝子陰性の検体が認められるなど、VT2に対する感度がやや悪かった。その原因として、使用したプライマーや増幅条件などに対しての反応の特異性の低さ、またはVT2の変異型の可能性などが考えられ、今後、リアルタイムPCRについては、反応傾向を見ながら使用する必要性があると思われた。

問題点:

関連資料: