No.1427 新築小学校におけるシックハウス症候群の発症

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:北海道立衛生研究所
発生地域:北海道紋別市
事例発生日:2007年1月
事例終息日:2007年2月14日
発生規模:当該小学校の全児童17名中10名、及び教職員9名中3名がシックハウス症候群に似た症状を訴えた
患者被害報告数:13名
死亡者数:0名
原因物質:水性塗料の成分である1-メチル-2-ピロリドン及びテキサノールが原因として疑われた
キーワード:シックハウス症候群、水性塗料、1-メチル-2-ピロリドン、テキサノール、学校

背景:
化学物質による室内空気汚染に伴う健康影響が「シックハウス症候群」として社会問題となった。これを受けて、厚生労働省は13物質について、室内濃度指針値を設定した。また、学校環境衛生の基準では指針値のある物質の中でホルムアルデヒドとトルエンについては測定を義務づけ、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンについては必要な場合に実施することとした。平成15年には建築基準法が改正され、ホルムアルデヒドの使用制限、防蟻剤であるクロルピリホスの使用禁止、機械換気装置の設置義務等を定めた。これらの措置により、指針値の設定された化学物質については、建材に使用することが控えられ、室内空気中濃度は改善されるようになった。しかしながら、指針値の設定された化学物質のみがシックハウス症候群の原因と考えられる傾向になり、「代替物質」による室内空気汚染は、一部の専門家を除いて一般に軽視されている。

概要:
新校舎は2006年11月末に完成し、1ヵ月後に行われた学校環境衛生の基準に定められた6物質の検査で異常がないことを確認した後、冬休み終了後の1月半ばから使用開始した。新校舎で授業を始めて間もなく、目、鼻、喉の痛みや、頭痛・吐き気を訴える児童や教職員がでてきて、その人数が徐々に増加した。症状の改善が思わしくなかったため、約1ヵ月後、近くの地区センターに移転し授業をすることにした。移転後、原因解明のため民間検査機関で調査したが、原因がわからなかったので、当該市の教育委員会は2007年5月末に当所に原因調査を依頼した。同年6月初旬に、健康被害が発生した新校舎と避難先の地区センターの空気質を調査して比較した結果、新校舎からのみ、2種類の化学物質(1-メチル-2-ピロリドン及びテキサノール)が比較的高濃度で検出された。これら以外の化学物質濃度は非常に低いレベルであった。2種の化学物質は、新校舎の教室や体育館の壁に塗られた水性塗料の成分として使用されていたことが判明した。換気の徹底とベークアウトを行うことにより、10月下旬には化学物質濃度を十分に低下させることができた。新校舎を仮使用し、症状が出ないことを確認した後、新年度の4月から新校舎での授業を再開した。

原因究明:
室内空気中化学物質濃度の測定により、高濃度で検出された1-メチル-2-ピロリドン及びテキサノールが原因物質として疑わしいと考えられた。また、MSDS(化学物質等安全データシート)と現場での化学物質放散量の測定からこれらの発生源を校舎内壁面の塗装に用いた水性塗料であることを明らかにした。

診断:
小学校で検出された水性塗料成分の放散量と放散挙動をスモールチャンバー試験法により測定した結果、低温では減衰速度が遅く、長期間塗装面に残留する可能性が示唆された。また、教室使用開始時に、室温を上げたことにより、室内空気中の水性塗料成分濃度が急激に上昇した可能性が推定された。
健康影響が現れた児童・教職員のうち希望者は大学病院のシックハウス専門外来で診察を受けたが、1名を除いて、症状は軽度であった。

地研の対応:
1)当該市の教育委員会の要請により校舎内の化学物質の検索を行うと共に、低減化対策を指導した。
2)同教委が2007年7月と10月に開催した父母・教職員への調査結果の説明会で分析結果を説明した。

行政の対応:
市の教育委員会で対策委員会を設置して対応した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
行政部局から厚生労働省に報告した。

事例の教訓・反省:
一般に指針値の設定された13物質以外は問題にしない風潮がある。安全性が高いと見なされている水性塗料も、塗装後は十分に養生期間を設ける必要がある。また、気温が低い冬季においては、塗装後はベークアウト等により、入居時の室内濃度を低下させることが、健康被害の未然防止のために重要であることが考えられた。これらのことから、13物質以外にも健康被害をもたらすおそれがある物質が存在することについて、知識の普及を図ると共に、関係機関への働きかけを強化する必要がある。

現在の状況:
室内濃度指針値が設定されていない化学物質が代替物質として使われ、その健康影響が顕在化しつつある。問題が明らかになった物質については、指針値の設定が望まれる。また、未規制化学物質にも対応できるようTVOC測定法の標準化などの整備が必要と考える。

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1)シックスクールで検出された未規制化学物質(1-メチル-2-ピロリドン及びテキサノール)濃度の推移と発生源の探索:小林智、高橋哲夫、武内伸治、小島弘幸、神和夫、平成19年度室内環境学会東北大会学会講演要旨集、2007年12月、仙台
2)シックハウス症候群が発生した小学校で検出された水性塗料成分(1-メチル-2-ピロリドン及びテキサノール)のスモールチャンバー試験法による放散量測定:小林 智、秋津裕志、伊佐治信一、神 和夫、平成20年度室内環境学会総会講演集、2008年12月、東京