No.1463 児童会館改修工事で発生したトルエンによる健康被害

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:札幌市衛生研究所
発生地域:札幌市西区
事例発生日:2010年3月24日
事例終息日:2010年4月10日
発生規模:原因となった改修工事の実施から閉館までの11日間に、当該児童会館を利用した延べ約1,000名のうち117名が、鼻水、湿疹・かゆみ、のどの痛み・せき、くしゃみ等の体調不良を訴え、そのうち70数名が医師の診察を受けた(重篤者なし)。
患者被害報告数:117名(体調不良者)
死亡者数:0名
原因物質:トルエン
キーワード:トルエン、揮発性有機化合物、化学物質過敏症、公共建築物シックハウス対策指針

背景:
本市の公共建築物において従来、室内空気の安全対策が十分でないことが浮き彫りとなり、統一した取り決めが必要との判断がなされたことから、平成17年に札幌市公共建築物シックハウス対策指針(以下、「指針」という。)が策定され、指針に基づいた同取扱要領が各局に整備された。しかし、時とともにシックハウス対策に関する関心は希薄となり、指針及び取扱要領の周知等が十分とは言いえない状況であった。

概要:
市内の児童会館で床材の張替工事を行ったところ、職員が体調不良を訴えたため、室内空気の精密測定を行うこととなった。測定の結果、トルエンが指針値(260g/m2)の23~26倍で検出されたため、直ちに安全確認済みの床材及び接着剤により再工事を行い、検査で安全が確認されたため、運営を再開した。
本件では、体調不良者が117名にも上ったことから、札幌市公共建築物シックハウス対策緊急点検が全968施設を対象として行われるとともに、同対策指針が見直されることとなった。

原因究明:
健康被害の原因は、最初の測定調査結果及び健康被害者の体調不良の状況から、床材張替工事での使用が確認された、接着剤中のトルエンであるとの結論に至った。
被害者が多数発生した原因は、今回のような小規模修繕工事等について、施設の所管部局の公共建築物シックハウス対策取扱要領では、Fフォースター建材使用の場合は化学物質の測定を省略できることから、建材が安全であれば測定を省略できるとし、使用接着剤中の化学物質の確認を怠っていたことによる。
また、施設・所管部局においてシックハウス症候群に関する認識が希薄であったために、最初の健康被害を認知してから、十分な換気や閉館等の必要な措置が後手に回ってしまったことも原因の一つと考えられる。

診断:
トルエンについては、固相吸着・溶媒抽出法→ガスクロマトグラフ質量分析計で定量を行った。

地研の対応:
当該児童会館の所管部局からトルエンが指針値を超えた旨の相談を受け、直ちにシックハウス相談窓口である保健所に転送した。その後、MSDSにより安全が確認された床材及び接着剤による張替工事が行われることとなったため、工事後の十分な換気対策の必要性を所管部局に対して行うとともに、工事後には、指針で定める室内空気汚染対象6物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン)の測定を実施し、いずれも指針値未満であるとの報告を行った。
本件を受けて、さらに9施設において、基本的にサンプリング翌日の結果報告という迅速測定を実施し、いずれも全ての物質で指針値未満であることを確認した。

行政の対応:
当該施設で床材張替工事の実施・運営再開の2日後、職員が体調不良を訴えたことから、室内空気測定を実施することとし、3日後及び6日後に測定を実施した(民間検査機関による)。その結果、トルエンが指針値を超える結果であったため、翌日、すなわち職員の訴えから9日を経過してから閉館の措置をとった。
その後、利用者への電話等による状況説明と健康被害状況調査を開始するとともに、MSDSにより安全が確認された床材及び接着剤による再張替工事を閉館の2日後から行った。さらに、閉館から4日後、9局14部からなる札幌市公共建築物シックハウス対策連絡調整会議を緊急開催し、周辺2区の保健センター職員による健康相談の開始、市内の公共建築物シックハウス対策緊急調査・点検及び指針の周知徹底を図ることを決定した。再張替工事の実施から4日後に室内空気汚染対象6物質の再測定を実施し、翌日にすべてが指針値未満であったため、安全確認がなされたものと判断し、閉館から7日後に開館した。
開館翌日には利用者説明会(参加希望者対象)を実施した。
本件の重大性に鑑みて実施することとなった市内の公共建築物全968施設(市民一般利用628、学校340)のシックハウス対策緊急調査・点検については、前年度中に何らかの改修・修繕工事を行った193施設及び新規に大量の備品を搬入した83施設において、MSDSによる書類確認又は室内空気汚染物質の精密測定等により、すべての施設の安全を確認した。
また、再発防止の観点から、全32局・区のうち対象施設を有する25局・区の関係者を対象とした緊急説明会を開催し、本件の報告、指針改定案及び施設の日常管理について周知した。
その後、本市公共建築物シックハウス対策指針策定委員会専門部会である建築部局により、指針及び同解説が改定された。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
本件の事例を受けて、当所への室内空気調査の相談が増加したが、相談は初めから測定実施ありきでなされたものがほとんどであるため、化学物質低減対策(換気等)や測定調査実施の意義についての説明を行っていたとしても、十分に理解が得られていたかどうかは疑問が残る。

現在の状況:
本件のような緊急時には、室内空気汚染6物質を同時に複数箇所で行う必要があるが、サンプリングに不可欠なポンプ(2系統が1台であり、その都度他局から借りている。)、車両(所で保有していないため、他所の公用車及び営業車を利用)、分析機器(老朽化により、100%緊急時対応とは言いがたい。)の状況は万全ではない。

今後の課題:
年数の経過や人事異動により、シックハウス対策に関する認識や取りまとめ部局の責任感が徐々に希薄になり、本件のような事例が再発する可能性が十分にあるため、効果的な方法による定期的な周知(説明会等)を継続していかなければならない。

問題点:
公共建築物の改修・修繕工事及び大量の備品搬入などを行った際の室内空気環境の安全確認は、指針の中では6物質としているが、実際に健康被害相談があった際にも、一律にこれらの測定結果だけで施設が安全であるとの解釈がなされる可能性がある。

関連資料:
なし