No.1468 福岡市におけるサポウイルス集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡市保健環境研究所
発生地域:福岡県福岡市
事例発生日:2010年4月24日
事例終息日:2010年4月28日
発生規模:食中毒様症状を呈した患者16名
患者被害報告数:16名
死亡者数:0名
原因物質:サポウイルス
キーワード:サポウイルス、SV、下痢症ウイルス、ノロウイルス、感染性胃腸炎

背景:
乳幼児の散発性下痢症の起因ウイルスとして知られているサポウイルス(SV)は、ノロウイルスと比べ検出報告数が少ないため、福岡市で初めて発生したSVの集団発生事例を報告する。

概要:
福岡市内の飲食店で会食した1グループ31名のうち16名が、4月26日4時頃から下痢、嘔吐などの食中毒様症状を呈した。このグループは大学のサークル仲間で、2日前の4月24日、17時頃から会食し、その2時間後には、全員が別の飲食店で二次会を行っていた。
主な臨床症状は、下痢が11名(68%)、嘔気が11名(68%)、腹痛が10名(63%)、発熱
が8名(50%)、嘔吐が7名(44%)であった。患者発生は4月26日の午後がピークであった。

原因究明:
患者5名中4名からSV遺伝子を検出した。2施設の飲食店で飲食した2日後に発症のピークがあることから、上記のいずれかの施設においてSVの単一曝露が発生したものと推定された。当該2施設の従業員に体調不良者がおらず、従業員検便からSVが検出されなかったこと、患者らのグループ以外から苦情がないこと、二次会の施設のトイレで当該グループが嘔吐していたとの情報があることから、本事例は人―人感染の可能性もあり、食中毒とは断定できなかった。

診断:
患者4名から検出されたSVのPCR産物についてはダイレクトシークエンス法を用い、capsidの領域約400塩基の配列を決定した。そして、Hansmanらの参照株を用い、NJ法による系統樹解析を実施した。その結果、患者4名から検出された4株はHu/SLV/Stockholm/318/97/SE(AF194182)に類似し、遺伝子型G Iに分類され、4株とも塩基配列が完全に一致した。

地研の対応:
保健所より患者5名の便が搬入され、各食中毒菌およびノロウイルスの検査を実施したが、いずれの病原体も検出されなかった。そこで、感染性胃腸炎の原因となるSV・アストロウイルス・アイチウイルスの遺伝子検出を行った。

行政の対応:
保健所による疫学調査、検体採取および衛生指導を行った。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
病原微生物検出情報オンラインシステムを通じて、国立感染症研究所および各地方衛生研究所の検査情報について、情報交換を実施。

事例の教訓・反省:
ノロウイルスが陰性であっても、その他の下痢症ウイルスの可能性があるため、原因究明のためにも臨機応変に検査を行うことが大事である。

現在の状況:
食中毒集団発生が起こり、ノロウイルス検査で陰性だった場合、必要に応じてSVを含む下痢症ウイルスの検査を行っている。

今後の課題:
SVは、ノロウイルスと比べ検出報告数が少ないため、見落とされやすいが今後はSVの発生動向に注意が必要である。

問題点:

関連資料:
病原微生物検出情報 月報Vol. 31 p.213-214(2010)