No.1499 幼稚園におけるShigella sonneiの集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡市保健環境研究所
発生地域:福岡県福岡市
事例発生日:2011年2月17日
事例終息日:2011年3月15日
発生規模:検便対象者293名
患者被害報告数:12名
死亡者数:0名
原因物質:Shigella sonnei
キーワード:Shigella sonnei,幼稚園,集団感染事例

背景:
日本における細菌性赤痢の発生届出数は,1999年以降,年間1,000例以下で推移しており,海外渡航者などの国外感染事例が50~80%を占め,その感染地域の多くはアジア(インド,インドネシア,ベトナム)であり,分離株の大半は,Shigella sonneiである.しかし,この数年,国内感染事例として,保育施設や福祉施設におけるS. sonneiの集団感染が複数の自治体から報告されており,今回,市内の幼稚園において本菌による集団感染事例が発生したのでその内容を報告する.

概要:
2011年2月21日,市内A医療機関より4歳女児,2月24日に市内B医療機関より4歳男児の細菌性赤痢の発生届が管轄保健所へ提出された.保健所がこれら2名の家族の聞き取り調査および検便を実施し,4歳女児の家族2名からS. sonneiが検出された.これら2名の4歳児は同じ幼稚園の同じクラスに通園していたため,保健所は,当該幼稚園の聞き取り調査を行うとともに,園児,職員および給食提供業者の検便を実施した.その結果,新たに6名の園児とその家族2名からS. sonneiが検出された.最終的には計293名(延べ504検体,園児については2回の検便を実施)の検体が当所に搬入され,3月15日に本事例は終息した.

原因究明:
今回の集団感染事例において,S. sonneiが検出された園児の共通食は,業者が納入する給食および当該幼稚園で提供されたお茶とスープであった.この納入業者は,他の幼稚園にも同じメニューを提供していたが,他園からは健康被害の報告はなく,従業員14名の検便結果も全て陰性であった.全園児はこれらの共通食を喫食していたが,S. sonneiが検出されたのは1階のクラスに所属する園児らのみであった(教室は1階と2階に点在).
S. sonneiが検出された8名の園児についての聞き取り調査の結果,2月8日と14日にそれぞれ1名,17日に5名(医療機関からの届出2名を含む),19日に1名が発症していたことが判明した.医療機関から届出があった2名の園児の発症日は2月17日であり,8日に発症した1名の園児が初発患者と考えられ,この園児が発症後も登園を続けていたため,この園児から園内におけるヒト-ヒト感染が発生したものと推察された.なお,初発患者とその接触者には海外渡航歴はなく,喫食調査からも感染源を特定することはできな

診断:
今回の集団感染事例では,園児8名と園児の家族4名の計12名からS. sonneiが検出された.本事例で分離されたS. sonnei 12株は,いずれも同一の生化学性状を示し,Ewingらの生物型分類では,ONPG(+),マンニット(+),D-キシロース(-),オルニチンデカルボキシラーゼ(+)の性状を示し,ipaH遺伝子とinvE遺伝子を保有していた.また,いずれの株も,薬剤感受性試験の結果,NA,TC,SMおよびSTの4薬剤耐性であり,PFGEにおいても同一パターンを示した.これらの解析結果から,本事例は同一の感染源であることが明らかとなった.

地研の対応:
赤痢菌の検査は,SS寒天培地,DHL寒天培地およびHektoen Enteric寒天培地による直接分離培養に加えて,PCR法によるTSB増菌液からのinvE遺伝子とipaH遺伝子の検出を併用した.S. sonneiと同定された株については生物型分類,薬剤感受性試験(アミノベンジルペニシリン(ABPC),セフェピム(CFPM),ナリジクス酸(NA),ノルフロキサシン(NFLX),テトラサイクリン(TC),ストレプトマイシン(SM),カナマイシン(KM),クロラムフェニコール(CP),ST合剤(ST),フォスフォマイシン(FOM),セフォタキシム(CTX),セフタジジム(CAZ)の計12種類)およびパルスフィールド・ゲル電気泳動法(以下PFGE)を実施した.

行政の対応:
保健所は,当該幼稚園や接触者の聞き取り調査,当該幼稚園の調理室への立ち入り調査,当該幼稚園児や家族等接触者検便の実施および保護者への説明会を行った.

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報システムを通じて,国立感染症研究所および各地方衛生研究所の検査情報について,情報交換を実施.

事例の教訓・反省:
細菌性赤痢は腸管出血性大腸菌と同様に,微量の菌により感染が成立するため,感染が拡大しやすく,特に保育園,幼稚園などの小児関連施設での集団発生が報告されており,これらの事例の中では患者発生に伴う家族内の二次感染も多く発生している.したがって,二次感染のリスクが高い幼稚園などにおいては,排便後や食事前の手洗い,汚物の適切な処理,園内の定期的な消毒など,二次感染防止対策を厳格に実施することが必要である.

現在の状況:
細菌性赤痢の発生届が提出されたら迅速に聞き取り調査や接触者検便等の検査を行っている.

今後の課題:
なし

問題点:

関連資料:
病原微生物検出情報,32,171~172,2011