[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡市保健環境研究所
発生地域:福岡県福岡市
事例発生日:2010年7月21日
事例終息日:2010年8月16日
発生規模:検便対象者14名
患者被害報告数:5名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌 O121
キーワード:腸管出血性大腸菌 O121,簡易プール
背景:
腸管出血性大腸菌は,微量の菌により感染が成立するため,感染が拡大しやすい.したがって,ヒト-ヒト感染も起こりやすく,汚染されたプールや井戸水を原因とする水系感染もしばしば報告されている.病原微生物検出情報(2011年6月22日作成)によると,日本において,2010年に2111株の腸管出血性大腸菌のヒトからの検出が報告されており,そのうち42株の血清型がO121であった.これは,O157,O26,O103に続き4番目に多く検出された血清型であった.今回,家庭の簡易プールにおいて腸管出血性大腸菌O121のヒト-ヒト感染事例が発生したのでその内容を報告する.
概要:
2010年7月30日に福岡市内において腸管出血性大腸菌O121:H-(stx2)による幼児の集団感染事例が発生した.初発患者は簡易プールで近隣の幼児らと一緒に遊んでおり,これらの幼児および家族の検便を行ったところ,幼児5名からO121が共通して検出され,これらの分離株のPFGEパターンは同一であった.菌の解析結果および保健所が実施した疫学調査の結果から,本事例は,簡易プールを通じてO121に集団感染したものと考えられた.
原因究明:
初発患者2名を含む5名から腸管出血性大腸菌O121:H-(stx2)が検出された.この5名は異なる幼稚園に通園しており,共通していた項目は,7月21日に簡易プールで一緒に遊んだ行動だけであり,本事例は簡易プールにおいてヒト-ヒト感染が発生したものと推察された.なお,湧水からは腸管出血性大腸菌O121は検出されなかった.
診断:
今回の集団感染事例では,簡易プールで一緒に遊んだ5名全員から腸管出血性大腸菌O121が検出された.これら分離株は,いずれも同一の生化学性状を示し,stx2遺伝子を保有しており,同じPFGEパターンを示した.したがって,これらの解析結果から,本事例は同一の感染源であることが推察された.
地研の対応:
接触者3家族14名の糞便検査と,初発患者の家庭で飲用していた湧水について腸管出血性大腸菌O121の検査を行った.糞便の検査は,マッコンキー寒天培地,亜テルル酸カリウム添加(2.5mg/L)ソルビトールマッコンキー寒天培地,クロモアガーO157培地およびCTクロモアガーO157培地による直接分離培養に加えて,マイトマイシンC添加(100μg/L)CAYE増菌液からのEIA法によるStxの検出およびTSB増菌液からのPCR法によるstx遺伝子の検出を併用した.湧水の検査は,検体をフィルターを用いて濾過処理し,そのフィルターの増菌液(TSB増菌液およびBPW増菌後のTSB二次増菌液)を用いて,stx遺伝子のPCR検出を行った.分離された腸管出血性大腸菌O121株については,医療機関から分与された初発患者2名の菌株と併せてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(以下PFGE)を実施した.
行政の対応:
保健所は,接触者の聞き取り調査や衛生指導を行った.
地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報システムを通じて,国立感染症研究所および各地方衛生研究所の検査情報について,情報交換を実施.
事例の教訓・反省:
腸管出血性大腸菌は,微量の菌により感染が成立するため,感染が拡大しやすい.したがって,簡易プールなど濃厚にヒト同士が接触する場合は特に注意が必要になると考えられる.
現在の状況:
腸管出血性大腸菌感染症の発生届が提出されたら迅速に聞き取り調査や接触者検便等の検査を行っている.
今後の課題:
なし
問題点:
関連資料:
なし