[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:京都府保健環境研究所
発生地域:宇治市炭山地区、宇治市池尾地区
事例発生日:2012年8月15日
事例終息日:2012年8月19日
発生規模:
患者被害報告数:106名(入院6名)
死亡者数:0名
原因物質:黄色ブドウ球菌
キーワード:洪水災害、食中毒、危機管理、健康危機管理、黄色ブドウ球菌
背景:
8月14日未明に記録的大雨が近畿地方を襲った。住宅が流され2人が不明となった
宇治市を中心に被害は京都府南部の広範囲におよび、計約2,100棟が床上・床下浸水した。冠水や土砂崩れで道路も寸断され、水没した車から救出される人も続出した。宇治市からの要請を受け、京都府は災害救助法の適用を決めた。宇治市災害対策本部は孤立した地区への救援物資としておにぎりを搬送することとなった。
概要:
平成24年8月15日(水)、宇治市内在住の食中毒様患者が30名以上緊急搬送されたと医療機関から通報を受け、食中毒の発生を探知した。現場は災害を受け、孤立地域となった炭山地区および池尾地区であった。山城北保健所が調査した結果、宇治市が救援物資として提供したおにぎりを原因とする食中毒の可能性が高いことがわかった。物資提供班は宇治市を10時30分に出発した。ヘリコプター等の輸送手段に不手際があり、現地到着が14時となり、また現地へ到着してからも冷蔵保存設備がなかったため、出発から夕食として住民が喫食するまで(最終喫食は21時45分)、おにぎりの衛生管理ができなかったことが原因とされた。当日は33.5度の猛暑であり、長時間炎天下におにぎりがさらされた時間もあったため、おにぎり中の黄色ブドウ球菌が増殖し、病因物質になったと結論された。
原因究明:
診断:
おにぎりから108CFU/g以上の黄色ブドウ球菌及びA型毒素が検出され、患者便からもA型毒素を産生する黄色ブドウ球菌が104CFU/g~108CFU/g検出された。製造所調理台のふきとり、製造所調理室蛇口のふきとり、従事者検便はいずれも陰性であった。
地研の対応:
山城北保健所から応援要請を受け2名が検査に従事した。
行政の対応:
疫学調査
・炭山・池尾地区の住民に対し喫食状況調査、行動調査、発症状況調査を実施
・提供された食品について、宇治市から状況の聴き取りや食品を納入した営業者への他からの苦情等の情報を収集
食中毒菌の検査
・8月15日に提供されたおにぎり残品及び有症者検便から黄色ブドウ球菌を検出おにぎり製造施設(宇治市内)の立入調査
・施設の衛生状態及び製造方法に特段の問題は認められなかった。
・当日調製した他の弁当等(51食)から苦情がなかった。
・おにぎり400食が製造され、350食が現地へ搬入された。喫食者数については災害発生中のため、詳細な調査できず。
・製造完了は15日2時、14.3℃に保存し、9時30分に市役所着。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
災害時(危機事例発生時)にはライフラインが切断され、通常の衛生環境を維持することが困難となり、さらに混乱する現場では担当者が通常の衛生観念を保持することが疎かになった。当然行うべく食品輸送に保冷容器を使用せず、炎天下に食品を放置するなどの事態が発生し、その結果、想定外の食中毒が当然の結末として発生したものである。災害対策と健康危機管理が連携し、このような状況下においても正しい対応ができるような体制を作ることが急務である。
現在の状況:
本庁生活衛生課で災害時における衛生対策としてA4、1枚の衛生関連パンフレットを作製した。災害発生時に対策本部等に配付予定している。
今後の課題:
災害対策と健康危機管理の具体的連携方法及び、より簡易な工夫で災害発生時の衛生対策が可能かどうかを模索すること。
問題点:
阪神大震災や東日本大震災は冬期に発生したため、ハイチ地震のようにコレラ感染症が発生することはなかった。そのため、災害対策において食品衛生管理のような一般的な健康危機管理が忘れ去られる傾向が見られる。
特に、今回は行政の災害対策本部が食品の衛生的保管を怠ったのが原因となったのは大きな問題である。
関連資料:
8月19日京都新聞等