No.1579 神奈川県の高齢者施設で発生した血清型3による肺炎球菌性肺炎の集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:神奈川県衛生研究所
発生地域:神奈川県
事例発生日:2013年3月
事例終息日:2013年4月
発生規模:発症者数37名
患者被害報告数:8名(確定患者数)
死亡者数:1名
原因物質:肺炎球菌
キーワード:肺炎球菌、肺炎、高齢者施設、集団発生、上気道炎

背景:
肺炎球菌は高齢者肺炎の主要な呼吸器病原菌であり、肺炎球菌性肺炎の多くは散発性に発生するが、保育所や病院、軍隊などの閉鎖空間において集団発生する事例が報告されている。

概要:
2013(平成25)年3月28日から約1カ月間に、県内の高齢者施設の同一階に入所していた31名のうち10名が肺炎で入院し、ほかに16名が上気道炎症状を発症した。同期間中に施設職員30名中11人にも上気道炎症状が認められた。10例の肺炎症例中5例の喀痰から肺炎球菌が分離され、ほか2例の尿中から肺炎球菌抗原が検出された。また、同期間中に上気道炎症状を呈した入所者16例中3例から咽頭ぬぐい液を採取したところ、1例から肺炎球菌が分離された。肺炎球菌分離株6株はいずれもペニシリン感受性(PSSP)で血清型3、ST180であった。制限酵素Sma Iを用いたPFGEパターンは同一であった。

原因究明:
患者分離6株のPFGEパターン、血清型、MLST型の一致

診断:
肺炎球菌性肺炎

地研の対応:
咽頭ぬぐい液1例から肺炎球菌を分離同定した。さらに、患者由来の肺炎球菌分離株5株を収集しこれらの肺炎球菌株(n=6)について、微生物学的検査を行ったところ、いずれもペニシリン感受性(PSSP)で血清型は3型であった。また、制限酵素Sma Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法では、同一のDNAパターンを示し、Multilocus sequence typingによる遺伝子型はST180であった。

行政の対応:
全入所者および職員の基本情報を、標準調査票を用いて収集し、肺炎入院症例については病院診療録から臨床情報を収集した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
肺炎球菌分離株の血清型別、Multilocus sequence typingを国立感染症研究所に依頼した。

事例の教訓・反省:
本事例は、高齢者施設で発生した肺炎球菌血清型3の同一株による集団発生であるが、1カ月という短期間に、同一階の入所者の8割以上が上気道炎症状を発症しており、呼吸器ウイルスの集団感染が先行していた可能性が考えられた。

現在の状況:
3か月後入所者と職員全員を対象とした肺炎球菌の保菌調査を行ったところ、職員1名の鼻腔ぬぐい液より肺炎球菌が分離同定されたが、血清型は38であった。また、入所者に対して23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPV23)の接種を施行した。

今後の課題:
高齢者の肺炎、とくに肺炎球菌性肺炎は生命予後に影響するだけでなく、日常生活動作(ADL)低下および介護負担の増加につながる。超高齢化社会を迎えるわが国において、肺炎球菌感染予防対策は重要な課題であり、PPV23接種率の向上を含め、有効な公衆衛生対策が必要である。

問題点:
本事例の入所者の87%に2012/13シーズンのインフルエンザワクチンが接種されていたが、PPV23は入所者の7%にしか接種されていなかった。

関連資料:
神奈川県の高齢者施設で発生した血清型3による肺炎球菌性肺炎の集団感染事例(IASR Vol.34p.270-271:2013年9月号)