[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪府内
事例発生日:2012年
事例終息日:2013年
発生規模:日本全国
患者被害報告数:風しん患者:3,198名, 先天性風しん症候群患児:5名(2014年1月7日現在)
死亡者数:0名
原因物質:風しんウイルス
キーワード:風しん、先天性風しん症候群(CRS)、先天性風しん感染(CRI)
背景:
風しん(rubella)は、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症である。症状は不顕性感染から重篤な合併症併発まで幅広いが、比較的予後がよい疾患とされる。しかし、妊娠初期の女性に感染すると胎児に先天性風疹症候群(CRS)を引き起こすために、日本が属するWHO西太平洋地域事務局(WPRO)においても、2015年を目標に風疹のコントロール(人口100万人当たり10例以下)とCRSの予防(100万出生当たり10例以下)の促進が提唱されている。
概要:
大阪府内の風しん患者報告数は、全数把握が始まった2008年から2010年までは年間10〜20例程度で推移していた。その後、2011年は54例、2012年は408例(全国2番目)と報告数は次第に増加し、これに伴い2013年はCRSの発生も5例報告された。通常は報告数の少ない冬季も患者報告が持続的に続き、2013年の大阪府内累積報告患者数は3,198例と東京に次いで全国2位で、人口比にすると人口100万人あたり361例で全国1位の患者報告数を記録した。全患者のうち男性が2,354例(73.6%)、女性が844例(26.4%)を占めた。男性は20〜30歳代が、女性は20歳前半を中心に10歳代後半から20歳代後半が多数を占め、20歳から30歳代の男性を中心とした流行が見られた。患者のワクチン接種歴は2回が30例(0.9%)、1回が159例(5.0%)、接種歴なしが913例(28.6%)、不明が2,096例(65.5%)であった。
原因究明:
診断:
風しん報告患者3,198例の風しん診断方法は、臨床診断例1,042例(32.6%)、検査診断例2,156例(67.4%)であった。検査診断例における検出方法は、風しん特異的IgM抗体の検出79%、RT-PCR法による風しんウイルス遺伝子の検出13%、ペア血清による特異的抗体の上昇7%、ウイルス分離同定1%であった。
地研の対応:
大阪府においては、麻しん疑い症例として検体の搬入を受け、麻しん否定事例について風しんの検査を実施した。また、大阪府管内で発生したCRS疑い症例については行政依頼検査として検査対応を行った。先天性風しん感染(CRI)疑い症例については、感染症法における法的根拠が無い為、大阪府立公衆衛生研究所の独自の判断で検査対応した。
行政の対応:
大阪府は、「風しん対策について(要望)」を近畿圏各都道府県と共同で厚生労働省に対し、
1. 風しんの流行及び風しんの流行によるCRSの発生を防止するため、国民への情報提供及び予防接種の重要性等について普及啓発に一層努めること。
2. 妊娠を予定している女性や妊婦の夫へのワクチン接種など必要な対策を早急に国の責任において実施すること。併せて定期予防接種の機会がなかった年齢層に対する啓発等の必要な措置を講じること。
3. CRSに対する支援を国において検討することを提案した。
また、大阪府は、「風しん流行緊急事態宣言」を出すと共に、CRSの更なる発生を防ぐ為、「風しん流行緊急事態宣言及び市町村に対する補助制度」を創設し、ワクチン接種の助成を行う大阪府下の市町村に対してワクチン接種補助費用の助成制度を開始した。
地研間の連携:
CRSと確定診断された患児及び家族の転居により、他県の地方衛生研究所が患児のウイルス排泄陰転化の確認のフォローアップ検査を担当することとなった。これまでの検査結果の状況やその後のフォローアップ検査の状況について、情報の共有化を図った。
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所とはできるだけ情報を共有できるようにメールなどで密に連絡を取り合っている。
事例の教訓・反省:
大阪府内でも平成23年に風しんの成人層を中心とした地域の小流行を観察した。この時、将来の大流行を予測し、感染症対策を行うべく積極的な行動を取るべきであったと感じている。
現在の状況:
大阪府内の各地方自治体におけるCRS、CRIの検査対応に対する姿勢は様々であった。大阪市と堺市を除く大阪府内については、当所が最終的な窓口になることで、CRS、CRIに対する検査を実施している。CRIやCRSの児のウイルス学的フォローアップ検査についても、当所の独自の判断で行っている。
今後の課題:
1.風しんの診断方法について
風しん報告患者3,198例の風しん診断方法は、臨床診断例1,042例(32.6%)、検査診断例2,156例(67.4%)であった。検査診断例では、風しん特異的IgM抗体の検出が汎用されるが、発症早期では、IgMが上昇していないケースもあり、発症早期における風しん特異的IgM抗体の検出に基づく診断には注意が必要である。また、風しんと修飾麻疹の臨床診断に基づく鑑別診断は難しく、2013年の風しん流行下で、我々は風しんと臨床診断されたが後に検査診断で麻しんと確定した事例を経験した。
2.風しん罹患患者の把握について感染症法において、「風しん」および「先天性風しん症候群」はいずれも全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届けなくてはならない。しかし、2013年の流行においては、診断されても保健所への届け出が出されていない事例が散見され、正確な発生数の補足は困難な状況であった。よって、風しんの流行を正確に把握するには、医師に対して、感染症法に基づき届出する義務があることを周知徹底する必要があると考えられる。
3.先天性風しん感染(CRI)の把握の必要性について感染症法において、上記の通り、「風しん」および「先天性風しん症候群(CRS)」に関して、全数報告対象と定めている。2013年に我々は、CRIと考えられる事例を経験し、CRIにおいても、CRS患児と同様に持続的にウイルスを排泄することを明らかにした。CRI患児においても、継続的にウイルスを排泄することから、感染拡大防止の観点から、ウイルス排泄の陰転化の確認が必要である。行政には積極的なフォローアップ検査を行うよう求めていかねばならないと思われる。
4.風しん排除に向けた取り組みについて
2012~2013年に見られた風しんの流行の原因はワクチン未接種世代の存在であると指摘されている。現在は、2回のMRワクチン接種制度に切り替わっているが、未接種世代への対策は遅れている。よって、風しん排除に向けて、ワクチン未接種世代に対する対策を考えていく必要性があると考えられる。
5.地方衛生研究所間の連携について
2013年大阪府において、フォローアップ中のCRS患児が転居する事例を経験した。また、近隣の府県でもCRSの発生が報告され、症例やフォローアップ検査の現状、予算的措置・法的根拠を含めた問題点などの情報が共有できる場があれば、より良い検査態勢の構築や国に対する働きかけができるのではないかと考えている。
問題点:
関連資料:
1)風疹診断後に麻疹と判明した一症例
倉田貴子、上林大起、駒野淳、加瀬哲男、高橋和郎(大阪府立公衆衛生研究所)松井陽子、福村和美、松本治子、大平文人(大阪府健康医療部保健医療室地域保健感染症課)
有村亜弥子、久保弘美、野田昌宏、津田信子、高林弘の(大阪府守口保健所)病原微生物検出情報(Infectious Agents Surveillance Report)2013年10月国立感染症研究所
2)大阪府内における2012年の風疹患者発生状況倉田貴子、上林大起、駒野淳、西村公志、加瀬哲男、高橋和郎(大阪府立公衆衛生研究所)大平文人、松井陽子、伊達啓子、熊井優子(大阪府健康医療部地域保健感染症課)久保英幸、改田厚、後藤薫、長谷篤(大阪市立環境科学研究所)廣川秀徹、吉田英樹(大阪市保健所)内野清子、三好龍也、田中智之(堺市衛生研究所)森嘉生、大槻紀之、坂田真史、駒瀬勝啓、竹田誠(国立感染症研究所)病原微生物検出情報(Infectious Agents Surveillance Report)2013年4月国立感染症研究所
1)大阪府における風疹流行の現状と疫学解析駒野淳、倉田貴子、上林大起、西村公志、大平文人、松井陽子、福村和美、松本治子、高橋和郎、入谷展弘、久保英幸、長谷篤、廣川秀徹、吉田秀樹、塩見正史、信田真理、八木由奈、宮浦徹、内野清子、田中智之
第72回日本公衆衛生学会総会2013年10月日本公衆衛生学会
2)大阪府における風疹の流行状況と先天性風疹症候群患児への支援体制について加瀬哲男、倉田貴子、上林大起、永井沙織、西村公志、松本一美、大平文人、松井陽子、福村和美、松本治子、高橋和郎、駒野淳、玉井圭、北島博之
第45回日本小児感染症学会総会・学術集会2013年10月日本小児感染症学会
3)風疹ウイルス感染ハイスループット評価システムの確立と中和抗体価測定への応用上林大起、倉田貴子、片山雄大、駒野淳、加瀬哲男、高橋和郎
第61回日本ウイルス学会学術集会2013年11月日本ウイルス学会
4)先天性風疹症候群(CRS)および関連症例について上林大起、倉田貴子、高橋和郎、駒野淳、加瀬哲男
第17回日本ワクチン学会学術集会2013年11月日本ワクチン学会
5)麻疹における家族内2次発生について
加瀬哲男、倉田貴子、上林大起、高橋和郎、駒野淳
第17回日本ワクチン学会学術集会2013年11月日本ワクチン学会