No.1614 群馬県内社会福祉施設におけるヒトメタニューモウイルスによる集団感染事例について

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:群馬県衛生環境研究所
発生地域:群馬県
事例発生日:2013年5月2日
事例終息日:2013年6月3日
発生規模:
患者被害報告数:発症者数56名(検査確定例4名)
死亡者数:0名
原因物質:ヒトメタニューモウイルス
キーワード:ヒトメタニューモウイルス、社会福祉施設

背景:
ヒトメタニューモウイルスは、ウイルス性呼吸器感染症の中で小児では5~10%、成人では2~4%の原因とも推測されており、乳幼児では喘鳴をきたす急性呼吸器感染症の原因ウイルスであることが多い。乳幼児・高齢者・免疫不全状態の患者では重症化の危険があるが、確定診断に至るまでには時間を要する場合もある。国内における流行のピークは春である。

概要:
県内社会福祉施設において、2013年5月2日から5月23日までの期間に咳、咽頭炎、発熱をともなう風邪様症状患者(入所者46名、職員10名)の発生があった。医療機関の検査ではインフルエンザ、マイコプラズマ肺炎、レジオネラ症等は全て陰性であったが、その後群馬県衛生環境研究所が行った検査で、ヒトメタニューモウイルスが検出された。当該施設では、保健所の指導の下で感染予防対策を講じた結果、5月24日以降に新規患者の発生は見られず、6月3日に終息を宣言した。

原因究明:
患者4名から検出されたヒトメタニューモウイルスサブグループB2の遺伝子型一致

診断:
ヒトメタニューモウイルスによる集団感染

地研の対応:
患者6名の咽頭ぬぐい液を検査したところ、4名からヒトメタニューモウイルスが検出された。パラインフルエンザウイルスは検出されなかった

行政の対応:
(1)保健所による施設への積極的疫学調査の実施。感染症対策の確認と消毒方法等や感染拡大防止策の指導。患者発生状況の報告依頼。(2)県の関係部局(健康危機管理部門、感染症対策部門、福祉施設管理部門)と保健所による不明疾患集団発生に係る検討会議。(3)衛生環境研究所感染制御センターと保健所による共同の実地指導。(4)衛生環境研究所による病原体検査実施。(5)保健所と感染症防止対策地域連携カンファレンス主催病院によるインフェクションコントロールチーム(ICT)の施設派遣による再発防止策の確認。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
衛生環境研究所で検査する病原体選択時における病院検査結果や積極的疫学調査の重要性。保健所や施設の入院患者の受け入れ先でもある地域の感染症防止対策地域連携カンファレンス主催病院との協力体制強化の重要性。

現在の状況:
2013年5月24日以降新規患者の発生なし(6月3日終息宣言)

今後の課題:
当初推定した病原体のPCR検査で不明であった場合は、可能な検査を順次行う予定で対応していたが、ヒトメタニューモウイルスが陽性となったため、その後の検査は行わなかった。今後は、医療機関での迅速診断キットの活用や、不明疾患による集団発生時の病原体の検査項目の選択方法を、体系化またはシステム化する必要がある。更に、特定の病原体に限定しない網羅解析などの、検査手技の開発も、必要と思われる。
またヒトメタニューモウイルスは、4~6日の潜伏期間、患者のウイルス排出期間が7~14日間程度であるが、1週間程度で臨床症状が軽減すること、ウイルス排出ピークが4~7日であることから、患者のコホート管理や感染防止対策の徹底がすでに取られたことにより、今回は、終息期間を「最終新規患者発生後一定期間」の約10日間(潜伏期間の2倍程度)とした。今後は終息期間や経過観察期間の指針等も必要と考える。

問題点:
なし

関連資料:
全国保健所長会/日本公衆衛生協会 公衆衛生若手医師・医学生サマーセミナー(PHSS)2014(平成26年8月30~31日)「ケースメソッド 施設内感染症集団発生(群馬県安中保健福祉事務所 武智浩之)」