No.15008 ジャガイモ摂食による食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:北海道立衛生研究所
発生地域:北海道千歳市
事例発生日:2014年12月19日
事例終息日:2014年12月19日
発生規模:接触者147名
患者被害報告数:93名(5名救急搬送)
死亡者数:0名
原因物質:ソラニン
キーワード:ソラニン、ジャガイモ、小学校

背景:
ジャガイモ中に含まれる有毒成分であるソラニン類は、新芽や緑色部分に多く含まれ、摂取することによる健康被害は、下痢、嘔吐、発熱、腹痛などである。ジャガイモによる食中毒事例は、昭和45年~平成22年までの間に全国で合計23件報告され、そのうちの21件は学校で発生している。

概要:
道内小学校において、1、2年生児童及び教員、保護者等合わせて147名のうち、93名が腹痛及び嘔吐等の症状を訴え、うち25名が同市内の医療機関を受診した。当該グループは、学校内で実施した行事において学校敷地内で栽培したジャガイモを茹でて摂食していた。保健所の聞き取り調査の内容等から、ジャガイモに含まれるソラニン類が原因と疑われた。北海道立衛生研究所が確保されたジャガイモ(調理前、調理後、食べかけ)を検査した結果、ソラニンが通常より多く検出されたことから、原因食品は茹でたジャガイモと断定、公表した。

原因究明:
搬入された当該3試料を、可食部位と皮周辺部位に分け、衛生試験法に記された方法に準じ行った。可食部位はホモジナイズ、皮周辺部位は超音波処理にて各々メタノール抽出を行い、逆相系ミニカラムにより精製し、HPLCで分析した。その結果、ソラニンが可食部位で100 gあたり20~47 mg、皮周辺部位で30~36 mg検出された。ソラニン含量が通常(100 gあたり平均7.5 mgのソラニンやチャコニン、農林水産省HP)より多く検出されたことから、原因食品は茹でたジャガイモと断定、公表した。

診断:

地研の対応:
千歳保健所が確保した当該ジャガイモを北海道食品衛生課の依頼により、北海道立衛生研究所が鑑定した。

行政の対応:

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
検査依頼時に当所で保有していたジャガイモの毒成分標準品はソラニンのみであったことから、ソラニンについて定量試験を行った。ジャガイモの有毒成分であるソラニン類にはソラニン以外にチャコニンも含まれることから、今後は両毒成分について分析体制を構築する必要があると考えられた。
ジャガイモによる食中毒は学校等で発生した場合、患者が多くなる傾向にある。学校教育の現場のみならず、一般家庭にも正しい知識と調理法等を今一度徹底する必要があると考える。

現在の状況:
北海道立衛生研究所では有毒植物による食中毒を防止する啓発活動として、北海道健康安全局食品衛生課及び札幌市保健所と「春の山菜展」を共催している。このイベントでは、毎年、数百名を超える市民が訪れることから、今回発生した事例を踏まえ、ジャガイモを調理する際の注意点など(芽は除去する、緑化したものは食べない、表皮は厚めに剥く、未熟なものは避ける)を啓発していく必要がある。

今後の課題:
道内で植物性自然毒による食中毒が発生した際に、より簡便で迅速な化学的鑑定が出来るようにMS/MS等による分析法を検討する。

問題点:

関連資料:
1) 登田美桜,畝山智香子,春日文子:食衛誌,55, 55-63(2014)
2) 本薬学会編:衛生試験法・注解2010, pp.272-273,金原出版,東京(2010)