[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
発生地域:沖縄県
事例発生日:2012年7月10日
事例終息日:2012年7月10日
発生規模:摂食者3名
患者被害報告数:発症者3名
死亡者数:0名
原因物質:シガトキシン類
キーワード:シガテラ、不整脈、シガトキシン類、CTX1B、52-epi-54-deoxyCTX1B、54-deoxyCTX1B、魚介類食中毒
背景:
熱帯、亜熱帯域で発生する魚介類食中毒シガテラの主な症状は、しびれやドライアイスセンセーションなどの神経系、下痢、嘔吐などの消化器系、血圧低下、徐脈などの循環器系とされているが、沖縄県におけるシガテラ事例の主な症状は、神経系、消化器系であり、循環器系は少ない。このような状況の中、2012年に循環器系症状を呈した事例が発生した。
概要:
2012年7月、女性が、親戚からもらった魚(推定:イッテンフエダイ)を三枚におろし、片側半身1枚を刺身に、アラを塩煮に調理し、夫、母親とともに夕食で摂食した。夫は刺身の約75%と塩煮(頭部)を、女性は残りの刺身と塩煮(中骨)を、母親は塩煮の少量の肉を摂食した。同日22時頃から深夜にかけて、全員が腹痛、水様性下痢、嘔吐など発症した。夫は、水様性下痢(20回)、吐き気、嘔吐(3回)の後、気分不良、歩行困難となり、翌日の早朝に医療機関を受診した。診察の結果、夫は血圧低下(70/30mmHg)および不整脈を発症していたことから入院治療となった。
原因究明:
魚の片側半身のマウス毒性試験の結果は、0.4 MU/gであった。また、LC-MS/MSによる分析により、魚の片側半身塩煮残飯ともにCTX1B、52-epi-54-deoxyCTX1Bおよび54-deoxyCTX1B が検出された。
診断:
食品衛生検査指針においては、シガテラ毒のマウス毒性値が0.025 MU/g以上の魚肉は食用不適とされている1)。
残っていた片側半身重量、患者2名の刺身および塩煮の喫食量および検査結果から、摂取したシガトキシン類の量を換算すると、夫は80 MU以上、女性は27 MU以上となり、シガトキシン類のヒトの推定最小発症量(10 MU)3)を超えた。特に、夫は多量のシガトキシン類を摂取したことから、血圧低下、不整脈を発症したと思われる。
地研の対応:
患者宅には、魚の片側半身1枚(270 g)および塩煮残飯が残っていたため、それぞれの魚肉を用いて、食品衛生検査指針に記載されているマウス毒性試験法1)およびLC-MS/MSによる分析法2)を実施した。なお、塩煮残飯中の魚肉は39 gと少量であったため、LC-MS/MS分析2)のみを実施した。
行政の対応:
管轄保健所は、医療機関からの食中毒届出を受けた後、直ちに食中毒調査を開始した。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
特になし
事例の教訓・反省:
本県の食中毒処理要領に基づく食中毒調査票は、主に病原性微生物を原因と想定した様式であるため、シガテラに特徴的な症状が項目化されておらず、これまでの症例においては循環器系症状の記録数が少なくなった可能性がある。
現在の状況:
当所でシガテラ専用の調査票を作成し、通常の食中毒調査票と併せて調査するよう、各保健所に依頼している。
シガトキシン類のLC-MS/MS分析の妥当性評価はまだ実施していないため、定量結果は参考値扱いとしている。
今後の課題:
シガトキシン類のマウス毒性試験では、多量の検体(240 g)を必要としており、食品残渣の少ない事例に対応するためにもLC-MS/MS分析法の妥当性評価を行う必要がある。その場合、現在のところ、市販のシガテトキシン類標準品がないため、魚類から精製したシガトキシン類を使用する必要がある。
問題点:
関連資料:
参考文献
1) 佐竹真幸(2005)シガテラ.厚生労働省監修.食品衛生検査指針理化学編 2005,社団法人日本食品衛生協会,東京都,pp.691-695.
2) Yogi, K., Oshiro, N., Inafuku, Y., Hirama. M., Yasumoto. T. (2011) Detailed LC-MS/MS Analysis of Ciguatoxins Revealing Distinct Regional and Species Characteristics in Fish and Causative Alga from the Pacific. Analytical Chemistry, 83, 8886-8891.
3) 安元健 (1980) シガテラ.医学の歩み,112:888-892.