[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:宮城県保健環境センター
発生地域:宮城県、岩手県
事例発生日:1968年6月7日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:608名
死亡者数:4名
原因物質:サルモネラ・エンテリティディス
キーワード:さつま揚げ,サルモネラ,食中毒,集団発生,大規模
背景:
現在、全国で発生する食中毒の原因菌としてはサルモネラが第1位となっている。宮城県では、ここ数年のサルモネラによる食中毒は多い年で4件(患者数86名)発生しているが、1960年代は年1件内外で患者も数名にすぎず、食品の収去検査等においてもサルモネラは検出されなかった。しかし、1967年に都市下水からサルモネラを確認し、と畜場等の排水について実態調査を計画していた矢先に「さつま揚げ」を原因食品とする大規模な食中毒が発生した。
概要:
1)事件発生の探知
1968年6月7日に宮城県若柳保健所(現在は栗原保健所に統合)より宮城県環境衛生課に5日の15~17時に会食した者のうち13名が食中毒様症状を呈している旨の通報があった。さらに6月8日には岩手県北上保健所から宮城県環境衛生課へ、5日15時に間食し又は持ち帰った「さつま揚げ」を摂食した中で6日朝~7日朝にかけて食中毒患者30名が発生した旨連絡があった。又、同日、宮城県岩沼保健所より「さつま揚げ」が原因と推定される食中毒患者9名が発生したと連絡があった。
2)患者の発生状況
(1)発生場所
宮城県の2市10町1村(231名、死亡0名)、岩手県の2市6町3村(377名、死亡4名)で合計608名の患者が発生した。このうち、会食・給食などによる集団発生は9件、183名であった。
(2)性別、年齢別患者数
608名中342名が女性であった。これは、岩手県内の学園(女子寮)の給食において59名が発生したことや、田植慰労会などの会食出席者に女性が多かったためと考えられた。
年齢的には15~19才で117名と最も多く、5才未満においても30名が発症した。
(3)日別患者発生数と潜伏期間
6月6日から13日にわたり発生しており、8日に発症者165名と最も多かった。宮城県内の患者調査より、潜伏期間は18~24時間、平均20時間30分であった。
(4)症状および発病率
下痢症状が最も多く95.3%で、下痢回数は5回以上が55.5%(291/524)を占めていた。発熱は89.8%に認められ、このうち39℃以上が63.9%(315/493)であった。次に、発現率が高い症状は腹痛の89.1%で、その他嘔気、頭痛等の症状を示していた。発病率は宮城県で55.2%であったのに対し岩手県では91.5%と非常に高い値であった。この理由の1つとして、製造後から摂食するまでの時間が長く、その間に菌が増えていたことによると考えられた。
原因究明:
1)病因物質の検出
宮城県内の患者から採取した59名の糞便について検査を実施した結果、45名(76.3%)よりSalmonella Enteritidis(SE)が検出された。
2)原因食品
両県で実施した疫学的調査から宮城県塩釜市のかまぼこ製造業者で6月4日に製造し、5日から数日間にわたって中卸あるいは小売された「さつま揚げ(商品名大印揚かまぼこ)」を共通に摂食しており、原因食品と推定された。さらに、食べ残しや小売店より収去した「さつま揚げ」より患者便から検出されたと同じSEを確認した。検出された菌量は「さつま揚げ」の表面部で2.0×10~1.5×107/g、中心部で7.2×103/gであった。即ち、かまぼこを油揚げする前段階で菌に汚染された可能性が示唆された。又、工場内における汚染状況を調査したところ、油揚げする前のすり身を混ぜ合わせる容器より菌が検出されると共に、工場内で捕獲したネズミよりSEを分離した。即ち、製造過程の段階で汚染されたことが明白であったが、その実態解明までには至らなかった。そこで、実験室内においてSE混入すり身を用いて各種条件における菌の消長を確認した。その結果、すり身の厚さ、加熱時の中心温度、汚染した菌量によっては、油揚げされても菌が生残することが判明した。即ち本事例の「さつま揚げ」製造過程で、菌に汚染されたすり身が完全に加熱されず生き残っていたと考えられた。
診断:
地研の対応:
宮城県において食中毒の発生があった場合、当該保健所の検査室で材料を培地に接種し、37℃、20時間培養後センターに搬入する体制を、当時より整えていた。本事例においても通報後、速やかに原因菌の検出に取り組んだ。
行政の対応:
第3例目の通報後(6月8日12時30分)より対策が開始され、関係機関への連絡や報道機関へ公表し一般の注意を求めた。又、原因食品と推定された「さつま揚げ」の製造元(塩釜市)へは、6月8日に行政指導による製造中止、残品回収の通知が出された。さらに6月10日には営業禁止、製品の回収後加熱処分の命令、又、魚肉ねり製品製造業全般に対する監視の強化を実施した。
地研間の連携:
本事例において、地研間での連携は定かではない。
国及び国研等との連携:
事例確認後の6月8日(土)16時30分に厚生省乳肉衛生課および食品衛生課に電話連絡したが不在のため、翌日の報告となった。
事例の教訓・反省:
当時、そ族間によるサルモネラ流行下にあった魚肉ねり製品工場が、ネズミ防御を怠ったことによりすり身が汚染され、宮城、岩手両県にまたがり4名の死亡者が出る大規模な発生となった。即ち、異常な製造環境のため加熱による殺菌が継続的に不完全となり、一部の製品に生き残ったSEが流通において増殖の機会を得て、広範囲に食中毒が発生する結果となった。これらの点から、食品衛生上極めて原則的なことではあるが、そ族の防御の重要性を再認識させられた。更に製造時の加熱条件を製品の形態に応じて指導すること、製造年月日を表示させること、流通における保存温度を食肉製品なみに定めるなどの必要性が痛感させられた。
現在の状況:
本事例発生後、宮城県においては魚肉ねり製品工場等の行政指導の徹底がなされサルモネラを含め大規模な食中毒は発生していない。しかし、最近全国的には増加する傾向が認められ、その原因食品の解明、特に鶏卵の汚染実態を把握することがあらためて必要と考えられる。
今後の課題:
近年、食品流通の拡大やヒトの行動範囲の拡大により、食中毒事例が複数の都道府県にわたり広範囲に発生する可能性がある。これに対して、行政面では速報としてFAX等により情報交換がなされ、事件の探知は速やかになされている。しかし、検査を預かる保健所や地研レベルでの検査状況の情報交換が必ずしも満足できる状態ではない。今後、検査機関同志での情報交換を綿密に行い、原因物質、原因食品の解明が食中毒対策として重要であろう。
問題点:
関連資料:
さつま揚げによるサルモネラ食中毒事件:メディヤ・サークルVol.15 No. 21970