No.1033 特別養護老人ホームでのウエルシュ菌集団食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:京都府保健環境研究所
発生地域:京都府N市特別養護老人ホーム
事例発生日:2002年5月19日
事例終息日:2002年5月23日
発生規模:喫食者160名
患者被害報告数:有症者89名(男15名,29~94歳,女74名,35~103歳:住人,従業員,ショ-トステイ含む)
死亡者数:
原因物質:ウエルシュ菌(Clostridium perfringens
キーワード:ウエルシュ菌、老人ホーム、毒素遺伝子、毒素、PCR、常在菌、下痢

背景:

概要:
平成14年5月19日に特別養護老人ホーム内で、昼食後約5時間たって、喫食者160名のうち89名が下痢を主徴とする症状を呈した。直ちに、老人ホーム担当保健医が食中毒を疑い保健所へ通報した。保健所は本庁、保健環境研究所と適切な連携を取り、京都府は検体採取、検査、行政判断を行なった。
患者便35検体中、34検体から1×106CFU/g以上のウエルシュ菌(Clostridium perfringens)が、また、金時煮豆から1×104CFU/gのウエルシュ菌が分離された。これにより、5月23日に行政処分を行い適切に指導した。

原因究明:
喫食後5時間頃より下痢を主徴とする症状が集団で発生していることから、原因菌としてウエルシュ菌、セレウス菌等が考えられた。
検査の結果、5月21日には12検体中11検体から1×106CFU/g以上のウエルシュ菌が分離された。他の病原菌のコロニーが認められないことから、ウエルシュ菌による食中毒が強く疑われた。22日にはPCRによる分離されたウエルシュ菌の毒素遺伝子検査の結果が陽性、金時煮豆のPCR遺伝子結果が陽性、更にウエルシュ菌の疑いは強くなった。23日には食材の中で金時煮豆のみからウエルシュ菌が分離され、21日に搬入された検体からも1×106CFU/g以上のウエルシュ菌が分離された段階で、本件はウエルシュ菌による食中毒であると判断された。

診断:

地研の対応:
平成14年5月20日に保健所より事件発生入電と同時に糞便12検体が搬入された。直ちに検査を開始し、5月21日に11検体からウエルシュ菌1×106CFU/g以上、1検体からウエルシュ菌1.2×104CFU/gを分離した。5月22日にPCRによりこれらのウエルシュ菌から毒素産生遺伝子が検出された。後にRPLAにより毒素産生性も確認している。
また、食材5検体(むし鶏のごまだれ、煮物スープ、金時煮豆、つけもの、フライドポテト)は5月21日に搬入され、直ちにストマッカー処理を行い、PCRにより検査した。その結果、金時煮豆のみから遺伝子が検出された。食材について全て分離培養を行ったところ、5月22日に金時煮豆のみから4×102CFU/gのウエルシュ菌が検出された。5月23日にPCRにより毒素遺伝子を確認した。後にRPLAにより毒素産生を確認した。
更に、5月21日に糞便23検体が搬入され、これについても検査を行なった。その結果、1検体から1.2×104CFU/g、1検体から3.5×104CFU/g、1検体は検出せず、その他の20検体からは全て1×106CFU/g以上のウエルシュ菌が分離された。

行政の対応:
平成14年5月20日に施設の担当保健医から保健所へ食中毒疑いの通報があった。直ちに保健所は本庁、保健環境研究所へ連絡するとともに、検体採取を行い、検査に適切な糞便12検体を確保、5月21日には菌数検査に適切な糞便23検体、原因食品と疑われる食材5検体の採取に成功した。5月22日には施設関係者が保健所へ来所し、食中毒の可能性についての相談を行なった。また、施設の給食施設、配膳工程について施設側の説明を受けた。5月23日にはウエルシュ菌による食中毒と断定し、食品衛生法第23条に基づいて、ホーム内給食施設に対する行政処分を行うと同時に、新聞発表を行った。また、当該施設の調理従事者への衛生教育を行った。
京都府内連携
本事例は以下の点でスムースな行政対応が行なえた。
1) 老人施設の担当保健医の迅速な判断、京都府への正確な情報提供
2) 京都府生活衛生課、保健所、保健環境研究所の的確な連携ウエルシュ菌は常在菌であるため、当該菌が原因菌と判断するには、三公所間での正確な情報交換を適宜行うことが必要である。
例えば、保健環境研究所が行った初日の検査結果によりウエルシュ菌が疑われた。この情報をもとに、保健所は直ちに嫌気性菌の増殖が疑われる食材の重点的な回収・確保に努めた。これにより、事件発生から約24時間後には病因物質、原因食品、患者数、発症者数等々がほぼ完全に把握でき、その後の適切な処置を行うことができた。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
近年、食中毒事件が発生すると状況把握に多くの時間が取られ、又、得られた情報は必ずしも正確ではないことがあり、不要な検査を行なうことが少なくない。また、正確性を欠いた情報は必要な検体採取を困難にし、これらの結果、事件解決が大幅に遅れることもある。今回得られた教訓は、正確な情報が適切に管理されていれば、事件はスムーズに解決されることがわかった。
また、一般的にウエルシュ菌の場合、食材から直接にウエルシュ菌毒素遺伝子を検出す
る方法は十分に確立されておらず、いわば検査の参考として行われることが多い。今回は食材から直接にウエルシュ菌毒素遺伝子が検出され、事件の解決に有効な情報となった。
迅速な情報伝達の結果、本庁、保健所は検査結果をスムーズに行政対応に生かせた。改めて情報伝達の重要性を認識させられる事件であった。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料: