[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:奈良県保健研究センター
発生地域:奈良県香芝市
事例発生日:2016年2月2日
事例終息日:
発生規模:摂食者612名
患者被害報告数:65名
死亡者数:0名
原因物質:ヒスタミン
キーワード:ヒスタミン、鰯つみれ団子、顔面紅潮、発疹、かゆみ、舌先のしびれ、給食、保育園、幼稚園
背景:
ヒスタミン食中毒発症の目安は食品として100mg/100gといわれているが、日本には明確な基準は無い。中毒発症はヒスタミン摂取量により、個人差も大きい。食中毒事例から発症者のヒスタミン摂取量を計算した例では、大人一人当たり22mg~320mgで食中毒が発生しており、乳幼児の場合、少量のヒスタミン摂取で発症した事例もある。ヒスタミンは、遊離ヒスチジンから、モルガン菌などが有する脱炭素酵素の働きにより生成される。摂食後すぐに、吐き気、下痢、顔面紅潮、発疹等の症状が見られるが、重篤化するケースは少ない。
概要:
2016年2月2日 18時30分に香芝市の保育園から「2月2日の給食を食べた直後、複数の園児に口の周囲が赤くなる症状や発疹が確認された」との連絡が管轄保健所にあった。給食の調理施設及び有症者を同保健所が調査したところ、申し出があった保育園の他にも、同じ食材を用いて給食を調理した保育園1施設及び幼稚園1施設でも同様の食中毒様症状を呈していることが判明した。
調査の結果、給食の喫食者612名(保育園① 155名、保育園② 170名、幼稚園 287名)のうち65名(保育園① 25名、保育園② 31名、幼稚園 9名)(2歳~34歳の男性22名、1歳~54歳の女性43名)が顔面紅潮(44名)、発疹・かゆみ(18名)、舌先のしびれ(ピリピリとした刺激)(17名)を呈していた。なお、医療機関を受診したのは3名のみで、入院患者及び重症者はなかった。食材及び症状などからヒスタミンによる食中毒が疑われた。
原因究明:
鰯つみれ団子から検出されたヒスタミン量は平均で84 mg/100gと、食中毒発症の目安である100 mg/100gより若干少なかったが、発症者の多くが感受性の高い乳幼児であることから、ヒスタミンによる食中毒を発症しうる十分量であったと考えられる。
診断:
下記、分析機器及び検査方法により、ヒスタミンの定量を行った。
分析機器:HPLC(蛍光検出器使用)
検査方法:検体を前処理した後、フルオレスカミンによる蛍光誘導体化後に測定。分離にはODSカラムを使用
また、併せてUPLCでも確認試験を実施しており、同程度のヒスタミンが定量されている。
地研の対応:
2月3日午前に保健所食品衛生監視員より保育園①、保育園②、幼稚園それぞれで提供された給食残食が搬入され、ヒスタミンを有すると推定される「鰯つみれ団子」及び「(鰯つみれ団子の)汁」、「ほうれん草のおかか和え」の3品目についてヒスタミンの検査を実施した。
各検体から5g採取し鰯つみれ団子3検体から93 mg/100g(保育園①)、76 mg/100g(保育園②)、82 mg/100g(幼稚園)のヒスタミンを検出した(平均値:84 mg/100g)。
※摂食状況
給食では鰯つみれ団子は成長段階に応じた個数、12~18ヶ月の乳児には1個、乳幼児には2個、幼児には3個が配膳された。
鰯つみれ団子の重量は約10g/個であることから、単純計算で12~18ヶ月の乳児では8.4 mg(1個)、乳幼児では16.8 mg(2個)、幼児では25.2 mg(3個)のヒスタミンを摂取したことになる。
ただし、摂食量は患者により様々で612名の全てを把握できていない(全量食べた人もいれば、半量食べただけの人もいる)。
行政の対応:
有症者の臨床症状がヒスタミンによる食中毒症状と合致すること、調理済保存食から食中毒が発生しうる濃度のヒスタミンを検出したこと、有症者を診断した医師から食中毒の届出があったことから、同保健所は当該給食を原因とする食中毒と断定し、3カ所の給食の調理施設に対して2~3日間の営業停止を命じた。
地研間の連携:
第111回日本食品衛生学会・学術講演会(平成28年度)において事例発表し、情報の共有に努めた。
国及び国研等との連携:
上記、学術講演会にて国立医薬品食品衛生研究所等との情報共有に努めた。
事例の教訓・反省:
2015年5月のヒスタミン食中毒事例の際にヒスタミンの検査体制を整えていたので、今回の事例には迅速に対応できた。この教訓を水平展開し、別の食中毒事例が起きた際にも迅速に検査が行えるよう体制を整えていきたい。
現在の状況:
検査担当者:3名
ヒスタミン分析が可能な機器:(定量)HPLC、 UPLC (確認試験用)LC/MS/MS
今後の課題:
近年、加工された魚介類を摂食した事によるヒスタミン食中毒事例が多い。加工すれば、加熱処理、塩分濃度増加や水分活性減少により、ヒスタミン生成菌を制御できるため食材として安全と考えがちだが、一旦生成したヒスタミンは加熱処理などで分解されない。魚介類の保管状況が悪いとヒスタミンが生成されやすい環境となるため、漁獲段階から製造工場における保管に至るまで一括して適切に管理がなされるよう行政的な監視・指導及び啓発が望まれる。
問題点:
特になし
関連資料:
・奈良県保健研究センター年報(2016)
・内閣府食品安全委員会ファクトシート(ヒスタミン)
・藤井建夫、 微生物性食中毒としてのアレルギー様食中毒、 食品衛生学雑誌; 47(6): J343-J348(2006)