3次救急・災害医療体制が整備された救急医療機関における化学テロ対応標準初動マニュアル改訂版(患者対応者向け)
目次
補足として、一般医療機関用マニュアルのための用語集を参照。
Ⅴ サーベイ(SURVEY)
• 目的・ポイント- 放射線測定を実施する(早期に放射線(R、N)の関与を判断する)。
- トキシドロームから原因物質を推定する。
- 但し気道確保、体表の活動出血に対する止血のほか、神経剤曝露(縮瞳・分泌亢進、線維束攣縮の存在から判断)に対する硫酸アトロピン投与は容認される。
1.準備
人員 資器材- 個人防護衣(PPE)、レベルD(+)2〜3着
- 放射線測定器(表面汚染測定器(サーベイメーター))1個、線量率測定器(空間線量計)1個、個人警報線量計(アラーム付)ポケット線量計2個
- ホワイトボード(患者記録や患者への伝達などに使用)、ホワイトボード用ペン
- 通信機器(無線機など)
- 拡声器
- 案内掲示板
2.手順
受け入れまでの準備- サーベイエリア責任者はサーベイエリアスタッフの役割分担(サーべイ実施者、搬送要員、誘導要員)の決定を行う。
- サーベイ エリアは汚染区域(ウォームゾーン)であることから、PPEを着用する。
- サーベイエリア の位置は、車両の動線、車両の停車位置、患者の受け入れ場所、除染エリアとの位置関係を考慮に入れて設置する。
- 患者の状況によって、ストレッチャー搬送、車いす、独歩可能患者のルートを分けて、除染エリアに誘導する。
- 現場除染が十分か不十分か:救急車など消防または警察車両で搬送され、現場で除染が確認でき、かつ搬送に関与した人員(救急隊など)に症状の訴えがない場合、現場除染が「十分」と判断する。それ以外は「不十分」とする。
- サーベイメーターを使用し全身を放射線検知(適宜最初の数人に対して)する。放射線が検知された場合には「放射線検出時の場合の手順」に進む。
- 歩行可能か不可能か、介助必要か否か、担架搬送が必要か否かの判断を行う。
(注意点)
- PPE着用のため患者とのコンタクトはとりにくい。説明などは掲示板を利用する。
- サーベイ実施者は患者が汚染されている可能性を考え、原則、触れてはいけない。しかし意識障害などで自力では動くことが不可能な場合はこの限りではない。
- 患者が化学剤を吸入する危険が高いと判断された場合、簡易呼吸避難防護具を患者に装着させる。
- 神経剤曝露が判断(縮瞳、分泌亢進、線維束攣縮)された場合は必要に応じて硫酸アトロピンを投与する。その対応のために硫酸アトロピン(プレフィルドシリンジ)をあらかじめ準備しておく。
Ⅵ 除染(DECONTAMINATION)
• 目的・ポイント- 除染とは汚染物質(汚染された衣服を含む)の除去により汚染物質を可能な限り院内に持ち込まないことを目標とする。
- 患者に対して迅速に乾的除染(脱衣と露出部の拭き取り)を院外で行う。
- 必要な患者にはABCの確保と拮抗薬の投与を除染と同時に行う。
- 衣服汚染の皮膚への浸潤、皮膚刺激症状があれば局所の拭き取り、水除染を追加する。
- 水除染は院外で行うことが理想であるが、院内の除染設備の使用も許容する。
- 除染にはPPEの着用が必要である。レベルCが理想であるが、レベルD(+)も許容する 。
- 水除染を介助する場合は、耐浸水性を有したレベルCのPPEを推奨する。
- プライバシーの保護を考慮しつつ除染の動線や場所、資器材を平時から事前に計画し訓練しておかなければならない。
除染における注意点
- 除染責任者は作業前に現場で環境温・湿度の測定を行う。PPEを着用する要員は相互に簡単な健康チェックを行い、何らかの異常を認めた場合には責任者に報告する。作業前には十分な飲水を心がける
- 個人防護衣(PPE)着用での除染作業は易発汗性、易疲労性の作業環境にあり、作業の継続は個人差があり、個人の体調、環境温、湿度にも左右される。一般には作業継続可能な時間は30分程度といわれ、交代チームを編成し、適宜交代する必要がある。
- PPE脱着の際にはペアで着用を助け合う。着用時にはマスク、手袋、作業靴の密閉性をお互いに確認し合う。密閉のため、通常、手袋と袖との間、作業靴と裾との間、正中の合わせ目(ファスナー)、襟元、マスクとフードとの間などに幅広い耐水性のテープを使用する。
- マスクの吸収缶の正確な装着、蓋の開放、マスクに接続される送気部品の接続と電源の確認もペアで確認し合う。
- 手袋着用の原則は3枚で、まん中が耐化学剤性能を有するもので、最内側は日常用いる使い捨て用手袋で、最外側は炭素入りなどの滑りにくい材質の手袋が望ましい。PPEを脱ぐ際には、最後に最内側の手袋を外す。
- 電池を用いマスク内を送気するPPEでは送気が電池エネルギーに依存するため、電池エネルギーの喪失により送気が停止する。送気の停止は作業者の生命にかかわる事態故、このような型のPPEにおいては補充用電池の確保が必須となる。これは電池を用いる機器(喉頭鏡、SpO2モニターなど)全てに共通する。
- 被災者のプライバシー保護に注意する。
- 被災者のバイタルサイン、神経剤曝露の判断(縮瞳、分泌亢進、線維束攣縮)を忘れない。特に爆傷においては鼓膜損傷による難聴が生じる可能性がある。
- 汚染された衣類、拭き取った布類を安全に収納・管理する。
- 汚染中においても緊急処置(蘇生)を優先する。その際、視診、聴診、触診に著しい制限がある。平時よりPPEを着用し定期的な訓練が需要である。
- PPEを着用しての除染は視野、聴覚の制限と情報伝達の制限、巧緻性の低下が必至であり、白板などの伝言板、説明文、音声案内、身振りなど工夫を有効に利用する。
- 水除染ではテープ類の固定力が著しく低下する。気管挿管実施時の気管チューブの固定は、チューブホルダー(トーマス®ホルダー)の使用が望ましい。
- 除染の際に使用する薬剤はプレフィルドシリンジを用いることを推奨する。
準備物品
1.基本物品- PPE(レベルC又はレベルD(+))
- 最内側用、最外側用のプラスチックやラテックスなどの手袋
- 筆記用具(白板用マジック、油性マジック)
- 情報伝達用白板(携帯用を含む)
- 除染エリア全体の案内に必要な機材、順路掲示板(適所に)
- 大量の大きなビニール袋
- 大量のタオル、毛布、スリッパ
- 電池、電源ならびに電源ドラム(各エリア)
- ストーブと燃料
- 患者搬送用ストレッチャーとバックボード
- 掛け時計(各エリア)
- 廃棄用ゴミ箱
- 医療資機材
- 薬剤(硫酸アトロピン、ジアゼパム)、シリンジ、注射針、医療廃棄物入れ
- 気道管理資器材(バッグバルブマスク(BVM)、喉頭鏡と電池、気管チューブ、チューブホルダー、スタイレット、シリンジ、酸素ボンベ)
- 環境測定用の温度計、湿度計
- 外側手袋除染用消毒剤(5%家庭用塩素系漂白剤)とバケツ
a.自己除染または要介助者に対する除染エリア(誘導、介助で男性・女性それぞれ2〜4名)
- エリア掲示板と情報伝達用白板
- 男女別エリア表示
- エリア案内と除染方法アナウンス用データと出力機器(テープレコーダーなどの音声再生機)
- 筆記用具(白板用マジック、油性マジック)
- 持ち物、脱衣を入れる透明なビニール袋(必要量)
- 荷札もしくはトリアージタグ(名札用)
- 簡易服(病衣、術衣、ディスポガウン、不透明ビニールで作成した衣服など)
- 毛布
- ハサミ
- 椅子
b.臥位乾的除染エリア(要員例:脱衣2名、処置2名、搬送2~3名)
- エリア掲示板と情報伝達用白板
- エリア案内と除染方法アナウンス用データと出力機器(テープレコーダーなどの音声再生機)
- ハサミ3つ以上
- 筆記用具(白板用マジック、油性マジック)
- 持ち物、脱衣を入れる透明なビニール袋(必要量)
- 荷札もしくはトリアージタッグ(名札用)
- 簡易服(病衣、術衣、ディスポガウン、不透明ビニールで作成した衣服など)
- 毛布
- ストレッチャー
- 廃棄用ゴミ箱
- 除染エリア掲示板(男女別区分も含む)と白板
- 水除染エリア案内板と除染方法アナウンス用データと音声出力機器
- 筆記用具(白板用マジック、油性マジック)
- 男女区別表示
- 水除染用シャワー(院内の水除染設備使用を許容する)、あるいはバケツ・ペットボトルの水、ホースや蛇口からの水を使用
- スポンジ(必要量)
- 石鹸(ボデイソープ)
- 透明ビニール袋(必要量)
- 薬剤(硫酸アトロピン、ジアゼパム)、シリンジ、注射針、医療廃棄物入れ
- 気道管理資器材(BVM、喉頭鏡、気管チューブ、チューブホルダー、スタイレット、シリンジ、酸素ボンベ)
- 時計
除染の実際
1.脱衣の実際(立位)- 脱衣は汚染部位ならびに着衣の外側を内側に丸め込むように脱衣する。逆向きに丸め込むと汚染を拡大するので注意が必要である。
- 頭部をくぐらなければ脱衣できない場合はハサミで前後に着衣を裁断し、顔面・頭部への汚染を防止する。
- 特に冬場で、重ね着している場合は外套のみの脱衣を許容する。
- 衣服の裁断を原則とする
- 裁断した衣服は、汚染部位ならびに着衣の外側を内側に丸め込むように脱衣する。逆向きに丸め込むと汚染を拡大するので注意が必要である。
- 着衣裁断の際は身頃、袖、襟、肩の前後を分ける左右の外側線を中枢から末梢へ向かってハサミで切り、前後2枚に裁断する。外側を内側に丸め込むように脱衣し、ビニール袋に収納する。
- 仰臥位では着衣裁断後、腹側を脱衣した後、ログロールもしくはフラットリフトにて背側を脱衣する。
※ ハサミで患者ならびに職員を傷つけないよう十分注意する。
4.乾的除染の実際- プライバシーの保護をしつつ、汚染された衣類を脱衣所で注意深く脱がせる、あるいは担当者がハサミで裁断する。
- 除去した衣類、所持品、身体に装着されたすべてのものをはずし、貴重品と廃棄できる衣服を別々にしてビニール袋に入れ、口をしっかり縛る。
- 脱衣が完了した後、簡易服を着衣所で着衣する。
- トリアージエリアへ移動する。
- 明らかに露出部位に汚染を認めた場合には脱衣所にてこれを拭き取っておく。
- プライバシーの保護をしつつ、汚染された衣類を注意深く脱がせる、あるいはハサミで裁断する。
- 除去した衣類、所持品、身体に装着されたすべてのものをはずし、ビニール袋に入れ、口をしっかり縛る。
- 脱衣が完了した後、歩行可能な被災者は自ら、歩行不能な被災者は除染担当者が露出部や汚染部位を中心に適切な温度の水でスポンジを用い洗う。皮膚を傷つけるほどスポンジで皮膚を強くこすらないように気をつける。開放創は最優先に洗浄する。洗眼もこのときにしっかり行う。次いで備えつけの洗剤を用いて露出部や汚染部位を中心に洗った後、洗い残しのないよう。十分にすすぎを行う。洗い残しが多い部位は指間、腋窩、背面、特に臂部などである。
- バックボードなどの搬送器具も十分洗浄する。
- 除染後は着衣所にて低体温防止のために水分をしっかり除去し、新しい着衣を付け、毛布にて保温に努める。
- 拭き取り後、トリアージエリアへ移動する。
- 除染中の緊急処置には以下が含まれる。
- 気管挿管を含む気道確保
- 痙攣時のジアゼパム10mgの筋注
- 神経剤曝露の判断(縮瞳、分泌亢進、線維束撃縮)による硫酸アトロピン1~2mg筋注がある。
- 除染作業では必ず交代が必要になる。
- 現場責任者もしくはエリア責任者から交代の合図とともに交代する。また、作業中になんらかの問題が生じた場合も責任者の判断のもと、同様に交代する。
- 【耐浸水性の防護衣を着用している隊員限定】洗浄される者は両上肢を45度程度外転し、頭を垂れ、雨傘のような体勢をとる。その状態で第三者がシャワーを用い頭側からPPEを十分に洗浄する。
- 洗浄終了後、PPE脱衣の前に3枚目の最外側の手袋を外し、5%家庭用漂白剤でまん中の手袋を洗浄し、次いで水で洗い流す。これを3回繰り返す。同様に作業靴を洗浄する。
- 脱衣したPPEを収納するビニール袋の口を広げ、その中に立つ。脇に脱衣後に使用する靴を用意する。
- PPEに貼付した密閉用テープをすべて外す。
- まん中の手袋を外す。
- PPEの脱衣は上述した脱衣の基本と同様で、外側を丸め込むように脱衣する。手順としてはフードを外し、正中のファスナーを開放し、両袖を袖口付近まで外す。
- 両袖口を外さないまま、身頃、下肢へと脱衣を進め、作業靴を脱いで、両袖を脱ぐ。
- マスクのストラップを開放し、マスクを外す。
- 脱衣したPPEをビニール袋に収納する。
- 最内側の手袋を外す。
- 休息と飲水などの後、再度除染作業に入る場合には洗浄したPPE、もしくは新しいPPEを同様に装着し作業する。
- 院内災害対策本部もしくはエリア責任者から撤収の合図とともに作業を開始する。
- 除染の作業により汚染されたと考えられる場所、器材を大量の水で洗浄する。
- 特異的な除染剤・中和剤などがあれば併用する場合もある。
- 洗浄が完了したら上述の脱衣の方法により脱衣する。
- 明らかに皮層に汚染を認めた場合には脱衣所にてこれを拭き取る。
- その後は乾的除染に準ずる。
→除染の最終段階で、放射線検知を行う。
- 局所で放射線検出されない場合トリアージエリアへ移動する。
- 開放創などのため十分な除染が実施できず、局所で放射線検出される場合局所拭き取り除染を行い、局所放射線汚染部を被覆(被覆材・ラップやガーゼなどで覆い、包帯などでずれないように巻く)して汚染拡大を防止しトリアージへ移動する。トリアージ・診察の結果、迅速な治療が必要と判断されれば、これを優先的に実施する。優先治療不要な場合や優先治療終了時、養生など汚染拡大防止準備済みの部屋で、局所放射線汚染部を十分な麻酔下に大量の生理食塩水による洗浄や汚染組織のデブリードマンなどを実施して除染する。
- 放射線源となっている可能性のある金属片などが刺さっていて容易に除去できる場合には除去する。除去した異物の管理は注意する。
Ⅶ トリアージ(TRIAGE)
- 除染が終了した患者について治療の優先順位を判断するものである。
- START式トリアージをベースにしているが、シアン(CN)、神経剤(N)などでは、呼吸停止であっても、拮抗薬の使用によって状態が改善する可能性があるため、致命的外傷患者でない限り安易に黒に判定しない。
1.準備
1.人員- トリアージエリアには責任者1名、実施者(1~2名)を配置。
- エリア内搬送要員[個人防護衣(PPE)非着用] 3~4名。
- トリアージ後、患者を各トリアージ区分(赤・黄・緑・黒)のエリアへ移動させるための搬送班も必要数待機させる。
- 除染の後に行うので、PPEを着用する必要はない。但し、外傷患者の血液や体液で汚染されないように、標準予防策に準じた、マスク・手袋などの着用は必要である。
- 体温低下を防ぐための毛布などを準備しておく。
- 神経剤の場合は迅速な治療が必要となることがあるため、以下のような蘇生のための医療器材一式は、すぐに使える状態にしておく必要がある。
- 解毒・拮抗薬
- 神経剤に対し→硫酸アトロピン
- 痙攣に対し→ジアゼパム
- 気道確保
- 気管挿管
- 外科的気道確保
- 呼吸
- バッグバルブマスク(BVM)あるいはジャクソンリース回路
- 酸素
- 解毒・拮抗薬
2.手順
- 患者が歩行可能であり、かつ化学剤による症状が認められない場合、「緑」とする。歩行不能、あるいは化学剤による症状が疑われれば次に進む。
- 呼吸が感じられない場合、直ちに気道確保を行う。
- 呼吸が確認できたら、呼吸回数で次の判定を行う。
- 橈骨動脈の触知を行う。
- 簡単な命令に従うかをチェックする。
1)気道確保を行っても呼吸が感じられない場合
1 蘇生が困難と考えられる重症外傷を認めた場合「黒」とする。
2 それ以外の場合は、「赤」と判定し、人工呼吸を行うとともに、神経剤を疑う所見がないかをチェックし、必要に応じ解毒・拮抗薬を投与する(この点が、通常のSTART式トリアージと異なっている)。
1)呼吸数が毎分9回以下、あるいは30回以上なら「赤」と判定する。
2)呼吸数が毎分10回から29回であれば次に進む。
1)橈骨動脈が触れない場合「赤」と判定する。
2)橈骨動脈を触知できれば次に進む。
1) 命令に応じなければ「赤」と判定する。
2) 命令に応じる場合「黄」と判定する。
Ⅷ 評価と診療(EVALUATION AND CARE)
• 目的・ポイント- PRIMARY SURVEY (PS)
- 生理学的危機を探知し蘇生する(バイタルサインの安定化)。
- 化学テロ災害患者特有の病態CN-N(CN:シアン、N:神経剤)を認知し適切な蘇生および拮抗薬投与を行う。
- SECONDARY SURVEY (SS)
- 曝露原因物質の推定を進めながら詳細な身体観察・検査・処置。
- 化学剤の特性を念頭に、詳細な発災状況把握と身体観察から原因別の対処を行う。
1.準備
1.場所設定- 診療場所は、院内災害対応マニュアルに準じる。
- 区分I(赤)、区分Ⅱ(黄)、区分Ⅲ(緑)、区分0(黒)のエリアを設定する。その際に配慮すべきこととして、
2)ボトルネックとなりやすいX線撮影や手術室、アンギオ室との動線が交差せずスムーズであるか否かを確認する。
- 診療エリアの責任者1名、補佐役1~2名
- 事務職員数名
- 診療を行う医療チーム(医師、看護師):基本的には院内災害対応マニュアルに準じる。
1)区分I(赤)エリア:(医師1名十看護師2名)×2チーム以上
2)区分Ⅱ(黄)エリア:医師1名十看護師2名以上
3)区分Ⅲ(緑)エリア:医師1名、看護師数名
- 個人防護衣(PPE)は不要。スタンダードプレコーションに準じる、皮膚を露出させないように留意
- サージカルマスク、ゴーグル、ガウン、ビニールエプロン、ディスポ手袋、ディスポキャップ。
- 通常の診療資器材に加え以下の物品を用意。
- ホワイトボード、拡声器
- 筆記用具、ハサミ、密閉用ビニール袋、ガムテープ、廃棄物箱
- 通信機器(無線、院内PHSなど):本部、病棟、手術室、放射線科などとの連絡
- 一般診療資器材
- 特殊薬剤(PAM、硫酸アトロピンなど)
2.手順と注意点
1.受け入れ- 診療責任者は役割分担をする。
- 診療責任者は診療エリアの場所を設定し、資器材の確認を行わせる。
- ベッド作成
- 除染終了患者を境界線まで迎えに行く。
外傷診療の第一印象(ABCD評価*)に加え、PSPS**の有無を見てCN-N(シアン、神経剤)を素早く探す。
*(A:気道、B:呼吸、C:循環、D:意識を素早く15秒程度で評価する手順)
**(P:縮瞳、S:鼻汁などの分泌亢進、P;肺・呼吸、S:皮膚・筋所見)
b. 詳細なABCDEアプローチ(通常の外傷診療の手順に加え)- Airway:
- Breathing: 呼吸の評価と安定化
- Circulation: 循環の評価と安定化
- Dysfunction of CNS: 中枢神経の評価と安定化
- Exposure and Environmental control:除染後の衣類除去と環境管理
1)必要なら気管挿管。分泌が多い場合は、神経剤を疑い、吸引。硫酸アトロピン1~2mg筋注。
1)頸部・胸部の観察、酸素投与、胸部X線
2)SpO2低下のない呼吸困難ではシアンを疑い、気管挿管と100%酸素投与。
1)皮膚所見、脈の触知、輸液路確保・輸液
1)意識レベル確認、瞳孔所見
2)痙攣コントロールにはジアゼパム5mg静注または10mg筋注投与
3) 瞳孔正常、分泌亢進なし、線維束攣縮なしの痙攣ではシアン中毒を疑う。
1) 外傷の合併、皮膚病変評価、保温
2) 切迫するシアンを疑ったらSECONDARY SURVEYの最初に確定のための情報収集に努める。
PRIMARY SURVEYの中でシアン中毒を疑った場合、迅速に以下のことを実行。
- 動・静脈血液ガス分析(説明できない乳酸アシドーシス、静脈血中の高酸素分圧)
- 情報収集(現場物質簡易検知結果、日本中毒情報センターなど)
- その結果、確定的と判断した場合は早急に拮抗薬を投与する。シアン中毒の拮抗薬投与はStep 5 参照。
- Information: 情報(現場、中毒情報センター)
- Symptoms: 自覚症状
- Analysis, Antidote and Allergy: 分析結果、解毒剤、アレルギー歴
- Meal: 最終経口摂取時間
- Place: どこで?
- Last action: いつ、何をしていたか?
- Event: どのような状況で曝露された?
重要! 「NBCテロその他大量殺傷型テロ対処現地関係機関連携モデル」に基づき消防本部を介して現地の物質検知情報、日本中毒情報センターの情報を収集し、総合して評価・診療をする。また、患者診療の結果、得られた臨床情報を、消防本部および日本中毒情報センターへフィードバックする。
*個々の医師、機関からの問い合わせによる回線輻輳に注意。
- 状況から曝露が疑われる徴候をみた場合化学テロの発生を疑う。
- 瞳孔(P)、分泌(S)、呼吸・肺(P)、皮膚(S)をチェック:いずれかの物質に合致しない場合、PSPSの陽性所見を重視して、複数の物質曝露を考慮する。
- 神経剤:血清ChE低下
- シアン化合物:説明できない乳酸アシドーシス、静脈血中の高酸素分圧
- びらん剤:
- 放射線(急性放射線症):
- 前駆症状(悪心、嘔吐、下痢、頭痛、意識障害、発熱)(被曝直後消失する)
- リンパ球数減少(被曝2時間後から)
- 神経剤・ 硫酸アトロピン2~4mg(筋注)・・ 分泌が落ち着くまで3~5分ごとに繰り返す・ PAM1g: 20分以上かけて静注
- シアン化合物・ ヒドロキシコバラミン5g+注射用蒸留水100m/静注(シアノキット(R))・ 直後なら亜硝酸アミル吸入5分ごとに5~6回・ 3%亜硝酸ナトリウム10ml 5~15分かけて・ 10%チオ硫酸ナトリウム125mL 10分以上かけて
- びらん剤:ルイサイトならBAL(R)2〜4mg/kg 4〜12時間毎 筋注を考慮する
- 窒息剤:特になし
- オピオイド:ナロキソン塩酸塩0.2mg静脈内投与(反復投与が必要)
- 急性放射線症:特異的な治療なし。合併する外傷などの治療を優先する。
- 放射性物質汚染:合併する外傷などの治療を優先する。安定化の後、局所除染、下記キレート剤投与を考慮する。
- 外傷の場合,詳細な全身観察と根本治療を実施する。