化学テロにおける病院前活動(患者対応者向け)

化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院前)活動に関する提言の目的 前文

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目次

I. テロに使用される化学剤の特性

1. 化学剤の分類

2. 物質の化学特性

3. 拡散の方法

4. 特殊な状況

5. 吸収について

6. テロとして使用される化学剤の特性

VI.除染(各種除染方法)

1. 除染とは

2. 除染に関するパラダイムシフト

3. 各論

3.1. 脱衣(Disrobing)

3.2. 即時除染(Improvised decontamination)

3.3. 放水除染(Gross decontamination)

3.4. 専門除染(Technical decontamination)

VII.(各員)防護と検知

1. 個人防護具(PPE)について

2. PPE のレベルについて

先遣隊におけるPPEについ

3. 検知について


VIII.ゾーニング

IX.現場医療

1. 現場で求められる救護技能

2. 曝露後早期の解毒剤投与の必要性

3. 化学テロにおける本邦医療チームの現状

4. 医療の早期介入に関する課題と対応策

I. テロに使用される化学剤の特性

・ 多数傷病者の生命危機を生じる可能性が高い物質で、使用の蓋然性が高く、救助者の対応の困難性が高い剤はサリンなどの神経剤である。
・ 経気道吸収の防護が重要である。
・ 現場対応では物質の検知に関して、神経剤か否かの判別を第一優先に行うことが、効率的な活動である。

1. 化学剤の分類

表 1 に作用機序による化学剤の一般的な分類を示す 1)2)。

表 1 化学剤の分類

分類作用機序
神経剤神経伝達を阻害サリンソマンタブンVXノビチョク
びらん剤皮膚、呼吸器、粘膜を直接障害マスタードルイサイト
血液剤 (シアン剤)細胞内ミトコンドリアの酸素利
用を阻害
シアン化水素塩化シアン
窒息剤肺胞を障害ホスゲンジホスゲン
無能力化剤中枢神経、末梢神経に作用して
一時的に行動不能化
3-キヌクリジルベンザレート (BZ)、オピオイド(フェンタニル)
催涙剤粘膜を刺激2-クロロベンジリデンマロノニトリル (CS)、クロロアセトフェノン (CN)、カプサイシン

2. 物質の化学特性

揮発性に関する物質の特性の違いによって、拡散や人体への影響の仕方が異なる(表 2)。

表 2 物質の化学特性

物質特性拡散の程度多数傷病者発生人体への影響
揮発性拡散しやすい高リスク付着後時間経過により消失しやすいサリン塩化シアン
不揮発性拡散しにくい低リスク消失せずに効果を発揮し続ける傾向びらん剤VX

3. 拡散の方法

剤を直接人体に塗布するなど、暗殺などの少人数殺傷に適するものとして、不揮発性の物 質がある。反対に、化学剤を広範囲に拡散させることができれば、多数傷病者の発生という 効果が発揮される。化学剤を拡散させるにはさまざまな方法がある。揮発性物質は剤を放置 するだけで効果を発揮するが、不揮発性物質の場合にはエアロゾル化する機器を用いること で可能になる。建物の屋外など開放系で剤が散布される場合(松本サリン事件など)と屋内 などの密閉系で散布される場合とでは拡散状況は変化する 3)。一概に屋外といっても市街地 など建造物の位置や気温、湿度、風、地理的条件や散布する物質の種類によって拡散状況と 健康被害の発生は複雑に変化する。シミュレーションによってこの拡散状況を解析する方法 が研究され、対応策の検討に利用することも示されている 4)5)。

  • 揮発性物質:剤を放置するだけで拡散効果を発揮する
  • 不揮発性物質:エアロゾル化する機器を用いることで拡散可能になる

* 化学剤を散布した場合には、種々の条件によって拡散状況と人体への影響は複雑に変化する。

4. 特殊な状況

爆発物による化学剤散布が行われたケースは過去あまりないが、国家間戦争としてミサイ ル弾頭に用いられることがある 1)6)。また、特殊な化学剤使用方法として、毒性の低い 2 種 類以上の前駆体を混合することで毒性の高い化学物質を発生させるバイナリー化学剤があり 1)、ミサイル弾頭に注入する化学剤として用いられる 1)。神経剤血液剤など異なる性質の 有毒化学物質を 2 種類以上散布することや、化学剤と放射性物質を混入することは、理論的 にはありうるが、事例報告はない。このような 2 種類混合は、相互作用の面で効果・出現す る症状、実効性の可能性などは不明な点が多い。

5. 吸収について

人体への有害性は経気道吸収と経皮的吸収によって生じる。有毒物質を吸い込むことによ る経気道的吸収は効果が早く、症状も強く表れる。経皮的吸収の場合、比較的吸収に時間を 要するものが多い。びらん剤は吸収による全身症状出現でなく、皮膚に対する直接的効果と 経気道吸入による呼吸器障害が問題となる。皮膚障害はその効果発現には数時間ないし半日 を要する。VXノビチョクは沸点が高く揮発性が低いので、経気道的吸収による障害は生 じ難い。一方で、液滴として少量皮膚に付着するだけで致死的となりうる 1)6)。揮発性物質 の場合には気道からの吸入を防ぐことで、一定時間は人体に対する有害性を防御することが できる 1)2)(「VII.防護と検知」の「米国での科学的検討と実証実験」を参照)。

6. テロとして使用される化学剤の特性

一般に化学剤の毒性の指標は、LCt50(50%致死曝露量)と Ct(曝露量)とを用いる 1)7)。

  •  LCt50:経気道吸収される剤の毒性を示す方法として有用であり、防護具を付けない集団 が一定の分時換気量での呼吸および一定の曝露時間状況下で、蒸気またはエアロゾルを 吸入曝露した際に半数が死亡する化学剤の曝露量を指す。
  •  Ct:蒸気・エアロゾル状の化学剤濃度(mg/m3 )と曝露時間(分)の積で求められる。

LCt50 は化学剤の特性として固有のものであり、数値が低い剤の危険性が高い。それに対 して Ct は数値が大きい場合に危険性が高く、濃度や曝露時間は、現場状況によって変化する。つまり、空間の広さや密閉性と避難行動の可否などに影響される。よって、Ct に着目した場合、(1)無色、無臭など、散布されていることに被災者が気付き難いこと、(2)剤が広い空間に短時間で拡散しやすいこと、(3)すぐに症状が出現すること、(4)被災者に生命的危機が生じること、などの条件をもつ化学剤が散布された場合に危険性が高いと言える。

よって、表 3 のように危険性を分析することができる。

上述したように、毒性比較にかかわる項目すべてにおいて神経剤、特に揮発性のサリンなどの危険性が問題である。よって、テロ行為として最も利用される蓋然性が高く、最も安全
対策が難しいものとして、神経剤に対する対処法を前提とした体制を構築すること、特に経
気道吸収対策を講じることが重要である。

従来、化学剤の特性や危険性については、救護上のリスクの大きさに関して十分な検
討がなされず、画一的な対応策が構築されてきた。しかし、各々の化学剤は物質特性が
大きく異なり、それを考慮した防御態勢を構築する必要がある。救護の観点で問題にな
る大量殺傷効果が高い揮発性物質を想定すると、単位時間あたりの吸収効果の観点で
は、経気道吸収の防御に重点をおいた対策を見直す必要がある。

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VI.除染

・ 種々ある除染方法を事案や傷病者によって選択するのではなく、階層化した線形アルゴリズム(順番に進める考え方)によって行動を単純化した。
除染は 1脱衣⇒2即時除染⇒3放水除染⇒4専門除染の順で進める。
・ 一刻も早く脱衣すること(10 分以内)が重要である 13)。
・ (1)脱衣と(2)即時除染までで、99%の汚染が除去できるので、多くの場合は除染終了と考えてよい 13)。
・ 一刻も早く除染を実施すべきである。
・ 専用の資機材準備が未完であることを理由に、除染の実施が遅れてはいけない。
・ やれることから何でもやる=資機材準備のために除染の開始が遅れてはならない
・ 時間の概念をもつことが重要である。
・ 除染後の汚水処理は可能な範囲で考慮するが、汚水回収体制構築のために人命救助が 遅延することは許容すべきでない。

1. 除染とは

除染とは有害性のある物質を除去すること、または無害化することを指す。一般的には有害物質に汚染された衣類を脱ぐことや、体表に付着した物質を拭き取りや水洗いなどの方法
で物理的に除去することを指す。近年は有毒物質を中和など、化学的に変化させることで無
害化する方法もある。

2. 除染に関するパラダイムシフト

従来の除染手法 9)21)には、以下の3つの課題があった。第一は乾的除染水除染のいずれ かの判断を、現場で初期対応する消防隊員に求めることは容易ではない。多くの研修会にお いて消防隊員に訓練を行ってきたが、習得は容易でなく、記憶の維持も困難であった。第二 は乾的除染に脱衣が包含されているため、最も簡便かつ重要な脱衣の実施が遅れる傾向があった。第三は特別な専門装備の使用を前提とする水除染の準備が完了するまで、一切の除染 行為が開始されない運用であるために、傷病者の救助開始も遅れた。揮発性の化学剤は時間 経過によって皮膚汚染部の除染効果が急速に失われることが判明しており、皮膚に付着した サリンでは 60 分経過すると、もはや除去効果はない 22)。よって、一刻も早く脱衣を含む除 染を開始するとともに、乾的除染水除染かという従来の二者択一的判断から、段階的にや れることから開始してステップアップする線形アルゴリズムの概念へ転換が必要である。
【線形アルゴリズムに基づく除染

行動を単純化して、資機材の有無を問わず迅速に行動を開始するためには、脱衣を含めて、線形アルゴリズムに基づいて、行動を促し、順次高レベルな除染を追加する方法が有用であると考えられる。

従来、大型の除染設備など消防機関等が所有する専用資機材による除染が、必須の除染体制として扱われてきた。その結果、除染体制が確立しなければ救助活動も開始されず、生命的危機に瀕した傷病者の救助は開始されず、実動訓練においては、結果的に多くの被害者が生命を落とすことが推定されるという結論が導かれた。
また、厚生労働省の委託を受けた日本中毒情報センターの「NBC災害・テロ対策研 修」や MCLS-CBRNE などの研修を通して、乾的除染水除染と同等の有用性があることを教育し訓練を行ってきた。多くのケースで大型の装備を必要としない乾的除染の選 択を強調した経緯がある。しかし、水除染乾的除染のどちらを選択すべきかに関する選別(トリアージ)が必要であることと、両方法が並列しているために、結局、水除染 体制が構築されてからでないと、両者の選別も除染行為も開始されず、時間的改善がみられなかった。
今回の提案において重要なことは、選別することなく「待たずに、やれることからやる」という基本コンセプトに基づいたことと、放水除染(Gross decontamination)に示すような、一般消防放水機能を活用した除染を組み込んだ点である。

3. 各論

3.1. 脱衣(Disrobing)

曝露後、10 分以内を目指して、可能な限り早く脱衣させる。
目的:
衣類の直接浸透による経皮吸収の低減と、衣類に付着した揮発物の吸入を低減することが目 的である。揮発性物質はかなり長時間衣類から揮発し続けることが判明しているので、汚染 された衣類を脱がない限り、長時間呼吸として有毒物質を吸い続けることになる 23)24)。15 分以内の脱衣を推奨する報告もあるが 16)、脱衣の有効性は、時間経過とともに低下すること が報告されている 25)ことから、10 分以内を推奨する海外報告が出されている 13)。本邦における消防機関の現場到着の早さを鑑みても、10 分以内を目指して脱衣を促すように時間概 念を設定することが可能であると考える。
脱衣の重要性は、非常に単純で迅速に行える行動であり、90%の除染が可能であるという有用性にある 13)。

方法:
脱衣では顔に付かない、吸い込まないなど、上手に実施する必要がある。
・ ボタンやジッパータイプの着衣は開けて、そのまま袖を抜いて脱ぐ。 ・ セーターなどの衣類は浮かせるように持ち上げて、裏返さずに脱ぐ。
・ 顔に触れないように脱ぐ。
・ 閉眼・息を止めて、目や気道からの汚染を防止する。
・ 可能なら衣類を切って、頭部を通さずに脱衣することが勧められる。

注意:
プライバシーの保護が必要である。特に女性は心理的ブレーキにより脱衣が遅れることが 懸念される。
・ 男女を分ける。
・ 衝立など遮蔽物を準備 ・・・ ブルーシート、既存の建物、専用車両なども考慮。
・ 一時的に着るリネンや衣類を用意。
・ 脱衣なくシャワーなどの水除染を実施しない!・・・有害性が大きく、効果が低い 13)。
・ 大きなビニール袋を用意し、脱衣後の衣類などを保管 ・・・有毒物質の拡散防止と私物管理。

事前準備:
平時からの市民への啓発は、有事の行動を変える可能性がある。発災後に被災者に対し
て、わかりやすい指示ができるように準備する。
・ 平時から脱衣の重要性を啓発

→ どの程度の周知をするのか、方法などについては検討を要する。

・ アプリ・ビデオ・パネルなど図示や現場での実演などで被災者へわかりやすく伝える

→ 例)ボタン外す、顔に触れない、裏返さない、など。

3.2. 即時除染(Improvised decontamination)

その場で使えるものをなんでも活用して可及的速やかに実施する方法である。揮発性の物質では時間の経過に伴って皮膚に付着した物質の除去効果が急速に失われるので 22)、使える もので、拭き取ったり、水ですすいだり流したりする。水を使う方法を水除染と呼び、水を 使わない方法を乾的除染と呼称するが、曝露状況によって適する方法で選別することにこだ わらずにどちらでも実施しやすい方から開始すべきである。汚染物は一般的に水を使用した 方が除去しやすい。危険性の回避の観点から、除染行為は露出部(頭部・手)を中心に頭から足方向へ進める 13)16)。

乾的除染
最も基本的な方法であり、いわゆる「拭き取り」である。
ティッシュペーパー、ペーパータオル、布、おしぼり、粉、草などなんでも使えるものを使う。液体や粒子の除去がしやすい。拭き取りの方法による差異はあまりない。この方法では除去しにくいものがあるが、禁じられるものもないと考えてよい。水除染に比して寒冷地でも実施しやすい利点がある。
※ 特に適している剤:非腐食性液体*、水に反応する物質**、蒸気やガス * :びらん剤、ギ酸、フッ化水素など腐食性物質以外 。
** :ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、セシウムなどの金属。

水除染
’rinse-wipe-rinse’ method 水ですすいでこすり洗いして、またすすぐ方法である。水以外にスポンジやタオルでこすり洗いできると有用性が増す。水に反応するごく稀な化学物質以外はすべてに有用性があり、汚染物を除去しやすい。
●プールのシャワー、スプリンクラー、ボトルの水などで実施可能。
※ 特に適している剤 :微粒子、腐食性(びらん剤、ギ酸、フッ化水素など)液体

➡早期の実施が重症化を阻止する

びらん剤水除染をすべきである。

重要!
脱衣の項で示したように即時除染まで実施すれば、汚染物質は 99%除去され、残留は 1% だけである 13)。ここまでの即時行為がいかに重要であるかを示すものである。しかし、これ 以降の除染方法も有用性があり、実施を否定するものではないので、以下の要素に照らして 状況が許すならば必要に応じて実施を判断する 17)18)。

*反応性皮膚除染ローション(Reactive Skin Decontamination Lotion; RSDL)について
化学剤が皮膚に付着した場合に、少量の薬液を塗布することで、化学剤を中和してその毒 性を消失させる除染ローションとして RSDL がある。カナダで開発された後、米国、カナ ダ、ヨーロッパ、オーストラリアなど各国・地域でクラスIIの医療機器として承認され、軍 を中心に広く世界中で普及しているが、本邦では未承認である。サリンソマンVX など の神経剤びらん剤マスタード、T-2 毒素(カビ毒)、有機リン系農薬(欧州のみ適応あ り)に対する有効性が確認されている。スポンジに液体を滲み込ませパックに包装したもの で、必要時に迅速に使用可能なキットとなっている。パックから取り出して薬液が滲み込ん だスポンジを腕、首、顔などの皮膚へ直接塗布することで化学剤を無害化できる。薬液を塗 布した後に水を入手することができれば洗い流すことで容易に洗い流せる 26)。事前に必要数を購入して準備しておく必要があるので、国際会議での要人対応用に有用性が高いが、不特定多数の傷病者用に保有することは不効率な面がある。しかし、ファーストレスポンダーである消防官や警察官用に保有することで、前述したように迅速な救助活動を
展開する際に非常に有効性を発揮する可能性がある。

3.3. 放水除染(Gross decontamination)

消防機関が除染専用資材を準備、使用する前に、多数傷病者に対して通常消防装備を用い て構成した除染法である。消防の放水機能を用いて水除染を実施する。後述するような専門 の機材の到着を待つことなく救助を開始する必要性も想定される。その際に傷病者や救助者 の除染手段として大いに活用すべき手法である。米国、英国など海外では標準的手法として マニュアル化されている 16)17)18)。

Ladder-Pipe System (図 1)
・ 2台の消防車とはしご車で3方向から消防放水するトンネルを構成する。
・ 脱衣を済ませた被害者は顔を上に向け、両手を挙げて、両足を広げ、皮膚をこすりながら、90 度または 360 度回転してトンネルを通り抜ける。
・ しかし、全身に水をかけるので寒冷状況下では実施すべきでない。
水圧
50~60psi(科学的根拠はない)程度に調整して強すぎないようにする。
水温
低体温症対策として 25°C以上が求められるが、冷水しかなければ待たずに実施すべきである。
洗浄時間
自力で動ける成人は 1 人 90 秒程度で実施する。適正な洗浄時間に関してはさまざまな報 告があり、定まった推奨時間はない。しかし、多数傷病者に対応する場合には全体として の有効性を発揮するために 30 秒程度を推奨する考えを示した報告がある 27)。
石鹸・洗剤の使用
遅れなければ使用を考慮する:特に油性汚染に有用性が高いが、そのために実施が遅れてはいけない。

★ Active drying 積極的な拭き取り
布類で液体成分を吸収させて拭き取ること 13)。
水除染と組み合わせると有効性が高くなる。
きれいなタオルですぐに拭き取ることで、残存汚染の除去および体温喪失対策になる16)。
・ 目、鼻、口周辺の拭き取りが重要である 17)。
・ 使用したタオルは汚染物として扱う。
除染の一過程なので、ウォームゾーン内として扱う。
・ 積極的拭き取り(active drying)と併用するなら、Ladder-Pipe System は 15 秒程度の短時間でも効果的である。

3.4. 専門除染(Technical decontamination)

化学剤対応の専門部隊による専門機材(専用の個人防護具(PPE)除染機材など)を用い た除染である。救助者、機材、施設の二次汚染が可能な限り生じないレベルまで汚染を取り 除くことを目的にしている。1脱衣、2即時除染、3放水除染に引き続いて実施する。
・ 生命危機が迫っている傷病者に実施することは適さない。
PPEを装着したスタッフの指示に従って大型機材で行うので、確実性がある一方で、準備に手間取り、正確な手順で実施しないと効果が減弱する点に注意が必要である。
・ 石鹸や洗浄剤準備を含め、設備準備や汚水処理のために除染の実施を「待たせる」あるいは「遅れさせる」ことは、除染行為自体の有用性を損なうことなので、避ける必要があるということを強調する。
除染行為の最中に心肺停止などの生命危機に至ることがあるので、注意すべきである。

びらん剤に関して
・ 付着した直後に症状発現がなく気づきにくい。
・ そのために時間が経過することが想定される。
・ 多くのびらん剤は粘稠性が高い液滴の特性があることと、明確に有効な拮抗薬が存在しないことも鑑みて、できる限り皮膚浸透性を軽減する観点から実施すべきである 18)。
・ 大量あるいは油性の曝露の際には、石鹸や洗浄剤を用いるとよい 18)。

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VII.防護と検知

・ すぐにレベル B個人防護具(PPE)を装着できる場合には装着したうえで、直ちに活動を開始する。
レベル BPPE などの専用装備がない先着隊の場合、全面空気呼吸器マスクと通常の防火衣の装着で活動を開始する。
・ 明らかに生存している被災者がいる現場、または生存者がいる可能性を探索すべき現場では、迅速に活動を開始する必要があるので、NBC 専用 PPE がない場合には、全面空気呼吸器マスクと防火衣を装着して活動を開始する。
・ 通常装備で活動を開始した場合には、活動時間の制限に関して時間測定し、救助者の 身体所見に配慮する。
・ NBC専用PPEが到着した場合には、即座に切り替える。
・ 検知活動が救助活動より優先することはない。
レベル APPE はすべての救助活動に必ずしも適しているとは言えない。

1. 個人防護具(PPE)について

化学テロに対応する個人防護具(Personal Protective Equipment;PPE)についてレベル A から D までの分類がある 1)9)。

化学テロに対応する PPE の比較

??備種類,呼吸保??具,安全性,可動性,??着
レベルA,スーツ内で全面空気呼吸器マスクを??着,非常に高い,悪い,困難
レベルB,全面呼吸器付マスクを外に??着,高い,比??的??好,中等
レベルC,吸着缶付き防毒マスク,限定,比??的??好,中等
レベルD,N95またはサージカルマスク,低い,??好,容易

レベル A
化学剤の浸透性を遮断した特殊素材のスーツで、隙間なく全身を覆うことでほとんどの化 学物質から身を守ることができる。外界から遮断されたスーツの中で全面空気呼吸器マスク を装着するので、呼気ガスによってスーツ内が陽圧になってより安全性が高まる。しかし、 可動性が悪い素材を使用しており、重量が重く、グローブは非常に作業がしにくい。さら に、装備の脱着には手間がかかり装着する空気ボンベの使用可能時間に制約されて実質的活 動時間は 20 分程度と短くなる。暑熱環境下では内部環境は悪く、休憩と水分補給が必要 で、連続装着は困難である。

レベル B
レベル APPE と同様に化学剤の浸透性を遮断した特殊素材のスーツで全身を覆うが、顔面を全面空気呼吸器マスクで覆う。マスクと空気ボンベは PPE スーツの外に装着する。 レベル APPE に比して活動性が高く、脱着も早い。

レベル C
化学剤に対して防御性のある素材のスーツを装着するが、呼吸に関しては空気ボンベを使用することはなく、吸収缶を通して外界の空気を吸い込む防毒マスクを装着する。吸収缶が対応できる種類の化学剤を対象にする必要がある。比較的薄く活動しやすいスーツであるが、グローブやブーツとの境界面はテープによる目張りが必要である。

レベル D
職種ごとに日常の標準的な防御性の被服を装着し、ゴーグルなどによる目の保護と N95 マスクまたはサージカルマスクによる粒子吸い込みに対する防御を行う。揮発性化学剤の気道防御性はない。

2. PPE のレベルについて

・ ホットゾーンとなる汚染地域へ進入する際には原則としてレベルB以上のPPEを装着 して活動を開始する。
レベルAPPEPPEは脱着や除染を含めて空気ボンベの使用可能時間に制限されるうえ に、緊急使用と活動の機敏性の面で劣るので、救助活動には不向きである。
レベルAPPE防護能力は、適正使用下でのレベルBPPEと差異がない。そのため、レベル APPE は化学剤の曝露濃度が高いことが想定される剤の検知や回収を目的に限って使用すべきである。
・ 発災初期では化学テロ・災害発生を把握することが必ずしも容易ではない。そのため、初期対応においてはNBC専用 PPEだけでなく、通常装備のレベルの PPE の使用を許容することで、活動初期段階において化学テロであることが不明の現場(多くの現場はそうであると考えられる)での活動継続が可能になる。

先遣隊におけるPPEについて
先着隊が即座にレベル BPPE で活動できるのならば、その装着が推奨される。
・ しかし、迅速に専用装備による救助活動が困難であるならば、一刻も早い避難誘導と救助のためには全面空気呼吸器マスクと通常の防火衣装着での活動開始が必要である。防火衣は手袋などのつなぎ目を、ガムテープなどで目張りすることを勧める 13)15)。
即座に侵入し救助活動すべき状況として以下がある。

(1)明らかに生存している被災者がいる現場
(2)生存者がいる可能性を探索すべき現場

・ テロに使用される化学剤はサリンなどの神経剤の蓋然性が高い。サリン現場に生存者がいる状況下では 30 分間活動が可能であることが示されている 15)。
・ 生存者がいない現場であった場合には、3 分以内に現場を離脱すべきである 15)。
救助隊員になんらかの症状が出現した場合には、すぐに離脱すべきである。

⇒ 専用装備以外での救助活動後には迅速に脱衣し、消防放水等を用いて除染を行う。

・ 一緒に救助した傷病者に対しても迅速に除染する。
・ 通常装備としてレベル BPPE を保有している場合は、初期救助活動に使用すべきである。
・ NBC専用PPEが到着した場合には即座に切り替える必要がある。

3. 検知について

検知活動は、救助活動と併行して実施する行為であり、検知結果の判明を救助活動の開始条件とすることは、迅速な救助の妨げになりうる。前述の防護装備による救助活動は、検知結果によらず開始できるものである。
検知は「神経剤か否かの判定」を優先し、検知器で剤が特定され、対応している剤であることが判明した場合には、レベル CPPE へ積極的に切り替えて活動することで、機動性 を高めることができる。

従来、救助活動開始時にはレベル APPE の装着が前提であるかのように考えられてきた。しかし、近年の諸外国における全面空気呼吸器マスクと防火衣を用いた実証実験 に基づく科学的知見に基づけば、迅速な救助や常時使用できる体制の実現には、レベル BPPE や全面空気呼吸器マスク+防火衣装着での初期救助計画を持つことが適当と考えられる。また、救助活動と検知活動は併行して実施されるべきもので、検知結果を待つことなく救助活動を開始することが望まれる。

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VIII.ゾーニング

ゾーニングにおいて絶対的な囲い込みや区域分けは不可能である。
・ 完全なゾーニングの優先度は低く、最低限コールドゾーンの設置に注力すべきである。
・ 建物の構造や風向きの変化などを鑑みた、距離に関する基準設定は不可能である。
・ 屋外では希釈が進み、致死的濃度に至りにくいことを理解する必要がある。

自力移動が可能な被災者は、現場活動する消防隊員や警察官の指示を受ける前に自分の意 思で行動している。また、前述したように先着した部隊や施設管理者が被災者に対して、よ り遠方への避難を指示・誘導する。よって、汚染されている被災者が存在する域をウォーム ゾーンと定義した場合には、ウォームゾーンは限りなく広範囲となり、囲い込むことは現実 性がない。結果的に、ゾーンの境界はファジーであることを許容する必要が生じる。従来の ように初期活動として完成度の高い囲い込みのゾーニングを目指すことは、避難や脱衣など の除染のように、より優先して行うべき活動を遅延させうる。完全なゾーニングを目標とせ ず、最低限コールドゾーンの設定に注力することで活動が迅速化する。ゾーニングに過剰な リソースを振り向けることは慎むべきである(図 7 参照)。
距離をどのように設定するのか基準は明確化しにくい 29)。化学物質は風の力で拡散するの で、風下では距離が長くなる。また、有毒物質が自然に揮発する散布法ではなく、ファン機 能付きの機器で積極的に散布した場合には広範囲の拡散が生じる。安全域を長距離に設定す れば救助者の安全は確保されるが、反対に動線が長くなり、救助活動に大きな支障をきたす ことに留意すべきである。

これまで、高レベルの PPE を装着して検知活動の結果に基づいてゾーニングを完了した 後に、救助活動を開始していたが、この活動手順の見直しが必要である。前項で述べたよ うに救助活動を先に開始して検知活動は同時併行または後から実施されることが前提であ るので、正確なゾーニングを実施することの意義は乏しい。
従来、軍事教書に示されたゾーニングの距離を参考に一般市街におけるゾーニングが例示されてきた。しかし、軍事教書で想定されるシナリオは、世界大戦の経験に基づく野戦を前提とした考え方であり、市街での化学災害やテロ行為にそのまま適応することは適切ではない。戦争で使用される条件との違いを考慮して現実的なゾーニングを実施する必要がある。

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IX.現場医療

・ 医療従事者に限らず、縮瞳や涙・鼻汁などの分泌亢進症状から原因物質の推定をする ことは可能である。
・ 自動注射器を活用して早期に傷病者に対して解毒剤を投与する必要がある。
・ 化学テロ・災害に対して安易に災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team; DMAT)の出動要請をすることは慎むべきである。
・ 海外のように、防衛当局の医療部門(自衛隊衛生部隊)の派遣を求める必要がある。
・ 危険地域で救助活動する専門部隊の隊員が解毒剤を早期に使用できる体制を検討するべ きである。

1. 現場で求められる救護技能

・ 医療従事者に限らず、以下のような神経剤等の特徴的な徴候の把握に努めることで早期 に原因物質を推定できる可能性がある。

縮瞳*(被災者は暗く、視界が狭いことを自覚)、眼痛*、分泌亢進*(流涎、流涙、鼻汁)、線維束攣縮、呼吸困難、徐脈、低血圧
*特に神経剤では縮瞳や分泌亢進、眼痛などが出現しやすい。

・ 一方で、化学剤の濃度が高い区域内で被災者の徴候を厳密に確認することは困難である。全面空気呼吸器マスクを装着した救助者にとって被災者徴候を確認することは容易 ではないためである。自力で避難した被災者にも症状が出現するので、確認しやすい人 の徴候を活用することを考慮する。
重篤な外傷に対する止血は優先されるため、避難・救助段階でタ-ニケットによる止血 など救命処置を実施する必要がある。

2. 曝露後早期の解毒剤投与の必要性

急性に症状が出現する神経剤は、曝露量と曝露経路によって症状出現の仕方が異なるとさ れ、症状出現が速いほど重症であるとされる 1)。自力で現場から避難できない状態に陥った傷病者は、早期に症状が出現したことを示しており重症患者であるといえる。また、化学剤に曝露された傷病者が避難できずに現場にそのままとどまった場合、有毒物質を吸収し続け ることになり、時間経過とともにさらに危険性が増す。これに対応するためには、早期の救出と早期の医療的介入が必要である。早期の救出に関しては既に述べたとおりであるが、早期の医療的介入として解毒剤投与が重要である。神経剤による症状は、神経筋接合部のアセチルコリン過剰により、縮瞳、鼻汁、発汗、悪心・嘔吐、全身脱力、気管支攣縮が発生し、 意識消失、呼吸停止、全身痙攣が生じて死に至る 1)6)9)12)。特に呼吸筋の麻痺や気道分泌物の 著明な増加によって呼吸不全、呼吸停止が起きるため、神経筋接合部におけるアセチルコリ ン過剰状態を拮抗させることが最も重要である。
このような神経剤の症状に対して有用性が示されている解毒剤はアトロピンとオキシムである。アトロピンは神経筋接合部に大量に放出されたアセチルコリンの効果を遮断する。よって、動けない状況の傷病者に早期に解毒剤を投与して症状の進行を阻止・改善させること で救命できる可能性を高めることが期待される。また、神経筋接合部においてアセチルコリ ン分解酵素(コリンエステラーゼ)に結合した神経剤を遊離させるオキシムが有用である が、コリンエステラーゼと神経剤の結合は時間経過とともに強化され、オキシムの効果が急 速に失われる。これをエイジング(aging)という。半分のコリンエステラーゼのエイジングが 完成する時間はサリンで 5 時間、ソマンでは 2 分とされる 30)。早期の投与ができないと解毒剤としての効果が失われることからも、早期の解毒剤投与は非常に重要である(図 8)。

3. 化学テロにおける本邦医療チームの現状

汚染地域(ホットゾーン)や準汚染地域(ウォームゾーン)で医療活動をするためには、 PPE や解毒剤などの専門的装備とトレーニングが必要である。我が国の災害派遣医療チー ム(DMAT)は地震などの自然災害や大規模交通災害などを対象として構築されてきた。よって、現在の日本 DMAT 隊員養成研修、DMAT 技能維持研修では化学剤対応の十分な研修 は行われておらず、標準資機材の中にも化学テロで対応しうる PPE は入っていない。つまり、化学剤による多数傷病者発生現場に安易に DMAT などの医療チームの出動を要請することは有用性がないばかりか、危険性を高めることになりうる。化学テロにおけるホットゾーンやウォームゾーンでの対応は、専門教育を受け、日常的な訓練を実施し、業務手順に習 熟し、平時から緊急出動ができるように準備がなされた専門部隊が行う必要があることを強調する。

4. 医療の早期介入に関する課題と対応策

米国では州兵の大量破壊兵器市民支援チーム(Weapons of Mass Destruction- Civil Support Team ; WMD CST)31) 米国連邦危機管理庁(Federal Emergency Management Agency;FEMA)の危険物質対応チーム(HAZMAT response team)32)、英国では危険地域対応 チーム(Hazardous Area Response Team;HART)33) など、化学テロ発生時に派遣される専 門部隊がある。現場での医療判断と応急処置にも対応するメンバーを含み、汚染地域(ホットゾーン)や準汚染地域(ウォームゾーン)での危険作業に従事する専属部隊で、軍など公 的な機関において整備され、日常的に訓練を実施し、迅速な出動態勢を敷いている。非常に 危険性の高い現場で、他の消防隊員らと協働して医療対応するためには日常的な専門訓練に よる技能習得と業務手順の習熟が必要である。明確な指揮命令権の下で危険活動を実施する 必要があることを考慮すると、平時において医療機関での通常の医療に従事している民間医 療従事者を現場派遣した場合に安全を確保することは困難である。結果的に派遣したとして も十分な機能を果たさない可能性がある。
適切な医療を実施するための要件は、1日常的に救助対応する部隊として訓練を実施し、業務手順に習熟していること、2指揮命令下に本来業務(公務)として危険行為に従事すること、などが挙げられる。
自衛隊の衛生部隊はこの要件を満たす可能性があるが、現場に到着する時間を考慮すると、ファーストレスポンダーとして医療的介入の役割を全面的に担うのは難しいと考えられる。また、日常的な緊急対応を担う消防機関に属する救急救命士の活用も候補になると考えられるが、救急救命士による医療行為は、個別の症例ごとに医師の指示(メディカルコント
ロール)の下に特定行為を実施することが前提であり、多数傷病者に対する包括的な指示は認められておらず、たとえ解毒剤投与を特定行為として認めたとしても、現実的には、化学テロ時において、メディカルコントロールを前提とした運用を行うことには課題がある。

よって、現実的な対応として、下記のような検討が求められる。
・ 警察官や消防隊員、自衛隊員、海上保安官等のホットゾーンやウォームゾーンで活動する特殊部隊による解毒剤投与の実施
・ 迅速かつ早期の救護活動のため、神経剤に対する解毒剤の自動注射器の使用

ホットゾーンやウォームゾーンにおける解毒剤の投与は、医師法の定める「医行為」に該 当する可能性があり、医師や看護師等の医療従事者ではない特殊部隊員が実施することには ハードルがある。しかし、このようなエリアには医師や看護師等が容易に入ることができな いという特殊性がある一方で、解毒剤をいち早く投与しなければならないという緊急性が存 在する。このような点においては、一定の条件下で医療従事者以外の使用が認められている 自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator; AED)などと同様に非医療従事 者による使用の条件を検討する方策が考えられる。
また、早期の救出のために、PPE除染体制などに関して専門的設備に依存せずに対応することの重要性に関しては前述したが、自動注射器によって解毒剤を隊員が自らや同僚の 隊員に対して使用できる環境を整備することは、万が一の際の医療的介入の利用可能性の確保による安心感の醸成につながり、迅速な活動開始の推進に役立つと考えられる。
神経剤解毒剤の自動注射器は、現在日本国内で薬事承認がなされたものは存在しない。早期の薬事承認に向けた取り組みを行うとともに、喫緊の課題である化学テロへの対応の緊急性を考慮すると、未承認の医薬品であっても、緊急事態においては使用できる体制を整備することが望まれる。

早期の医療的介入の必要性に関しては普遍的な整合性がある。しかし、恒常的な教育訓練と専従部隊化されていない民間の医療従事者を安易に活用する考えでは化学テロや災害には対処できない。専門的に日常的な訓練を実施し、指揮命令系統に基づいた部隊による対応を前提に体制構築を検討する必要がある。ホットゾーンやウォームゾーンにおける解毒剤の早期投与は、被災者の救命率向上において極めて重要である。自動注射器を用いて、そうした危険地域で活動する特殊部隊の隊員が解毒剤を投与できるようにすることは、市民の命、そしてファーストレスポンダーの命を守るために必要不可欠である。必要な議論と手続きがなされることが期待される。

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