詳細
(1)基本的処置
・患者を新鮮な空気の下へ移送する(救助者は適切な保護具を着用する)。
・汚染された衣服や靴は注意深く脱がせ、密封し、有毒廃棄物として処理する。
・理論上、気体に曝露されたのであれば、
水除染の必要性は低いと思われるが、国際的なガイドラインでは。曝露した皮膚を石けんと水で十分洗い、曝露した眼は温水で15~20分以上洗浄するよう推奨している。
B.シアン化水素への曝露が疑われるようであれば、直ちに純酸素の投与を行う。
呼吸不全を来していないかチェック。心肺停止であっても、口対口人工呼吸は、曝露経路に関わらず、決して行ってはならない。
C. 排泄促進
血液透析: 血液透析はコントロールしにくいアシドーシスを補正し、またチオ硫酸ナトリウムにより生成したチオシアン酸を除去できることから、理論的には有効な方法といえるが、エビデンスに欠けており、シアン中毒の標準的治療法とは考えられない。
血液吸着:現時点ではシアン化水素中毒の標準的治療とは考えられない報告例でも有用性は認められていない。
(2)対症療法
A.酸素投与:直ちに100%酸素投与を開始する。必要であれば気管挿管し気道を確保する。気管支痙攣が起きているときはβ遮断薬を吸入させる。
B.アシドーシス対策:炭酸水素ナトリウム投与
C.痙攣対策:ジアゼパム等ベンゾジアゼピン系薬剤を投与
D.不整脈対策:心電図モニター、一般的な不整脈治療
E.血圧低下対策:ドパミン、ノルエピネフリンの投与
F.肺水腫の有無を確認:曝露後24~72時間まで発現が遅れることがある。
G.電解質バランス調整:大量輸液用の静脈路の確保
(3)特異的処置
解毒剤として日本で医薬品として市販され、シアン中毒の適応がある解毒剤は、ヒドロキソコバラミン、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸アミルである。
1)ヒドロキソコバラミン
薬剤名 :シアノキット(R)注射用5gセット (メルクセローノ)
構成 :ヒドロキソコバラミン注射用5g 1バイアル、
日本薬局方生理食塩水(200mL)1本、
溶解液注入針1個、輸液セット(22ゲージ翼付注射針付き)
1セット、23ゲージ翼付注射針1セット
作用機序 :
ヒドロキソコバラミン分子の三価のコバルトイオンに結合している水酸イオンがシアンイオン(CN-)と置換することにより、無毒のシアノコバラミンが形成され、尿中に排泄される。ヒドロキソコバラミンは血液脳血管関門を通過するため、直接中枢神経系で効果を示す。
用法・用量 :
ヒドロキソコバラミンとして5 g(1バイアル)を生理食塩液200 mLに溶解して必要量を投与する。
・初回投与
成人:通常、ヒドロキソコバラミンとして5 gを、日本薬局方生理食塩液200 mLに溶解して、15分間以上かけて点滴静注する。
小児:通常、ヒドロキソコバラミンとして70 mg/kgを、15分間以上かけて点滴静注する。ただし、1バイアル(ヒドロキソコバラミンとして5 g)を超えない。
・追加投与
症状により1回追加投与できる。
追加投与にあたっては、まずヒドロキソコバラミン初回投与量(成人:5g、小児:70mg/kg)を点滴静注しながら、十分なモニタリングを行い、被災者の臨床症状、たとえば神経・心血管状態が安定するか否かによって、追加投与が必要かを判断する。
適応に従って15分間~2時間かけて点滴静注する。
使用上の注意:
・投与後、皮膚や血清、尿、粘膜に赤色の着色を認めることがある。この着色のため、血液検査、尿検査のデータに影響を及ぼす。この影響は2-3日間続く。
・チオ硫酸ナトリウムとの併用について
IPCSの資料では、重症患者にはヒドロキソコバラミンとチオ硫酸ナトリウムと投与すべしと記載されている。同時投与は避け、同時に投与しなければならない場合には、同じ静脈路から投与しないこと。本剤とチオ硫酸ナトリウムとを混合するとチオ硫酸-コバラミン化合物を形成し、ヒドロキソコバラミンが遊離シアンと結合できなくなり、解毒作用が低下する。
2)チオ硫酸ナトリウム
チオ硫酸ナトリウムは実際には亜硝酸ナトリウムの後に投与されているが、亜硝酸ナトリウムによる治療の開始と同時に投与してもよい。データは少ないが、ヒトでのシアン中毒にチオ硫酸ナトリウムの単独療法が有効であることを示唆する事例報告がある。
薬剤名 :デトキソール(R)静注液2 g<日医工株式会社>(2014年11月現在)
作用機序 :ミトコンドリア内酵素rhodaneseにより、本剤がシアンイオン(CN-)と反応し、毒性が弱く尿中に排泄しやすいチオシアン酸塩(SCN)を生成させる。解毒を促進するために、本剤を静注し補給する。
細胞内のシアンに対しても有効である。これを応用して、遺伝子組
み換えで作成したrhodanese を治療に使おうという試みもある。
用法・用量 :
・成人:通常、1回12.5~25 g静注(増減)。
一般に、10%チオ硫酸ナトリウム125 mLを10分間で静注する。
年齢、症状により適宜増減する。
・初回量;デトキソール(R)注は10%溶液で1バイアル20 mL(2 g)となっているので、成人では125 mLを投与する。
・反復量;1時間後に臨床症状が再発または持続する場合、初回量の1/2を再投与する。
・小児:・412.5 mg/kgまたは7 g/m2体表面積を0.625~1.25g/min.の割合で静注。最大投与量:12.5 g
・体重25kg以下の小児では、50 mg/kgを10分間で静注する。
使用上の注意:
・静脈内投与時、注射の速度をできるだけ遅くする
・腎不全があると、チオシアン酸塩の排泄が減少し毒性が増大する。
・連用した場合に効果が漸次低下する傾向にあるため、投与が7~10回に達した場合、適宜休薬することが望ましい。
・ヒドロキソコバラミンとの併用による有効性および安全性は確立していない。
同時投与は避け、同時に投与しなければならない場合には、同じ静脈路から投与しないこと。
3)亜硝酸塩療法:亜硝酸アミル吸入・亜硝酸ナトリウム静注・チオ硫酸ナトリウム静注
亜硝酸ナトリウムの静注が直ちに可能な場合は亜硝酸アミルを吸入する必要はない。
作用機序 :
亜硝酸塩を投与し、メトヘモグロビンをつくると、チトクロームオキシダーゼのFe3+と結合していたシアンイオン(CN-)が遊離してメトヘモグロビンのFe3+と結合しシアンメトヘモグロビンとなり、チトクロームオキシダーゼを保護する。
処置開始基準:
状況証拠とともに、意識障害、痙攣、アシドーシス、バイタルサインの異常等のシアンによる中毒症状がある中等症~重症症例に使用する。
但し、シアン化水素吸入により昏睡状態に陥っても、曝露がごく短時間で、来院時に意識が回復し、アシドーシスやバイタルサインの異常がみられない場合、投与は必要ない。
3)-1 亜硝酸アミル吸入
薬剤名 :亜硝酸アミル「第一三共」
適応基準 :シアンによる中毒
用法・用量 :
・自発呼吸がある場合、1回1管(0.25 mL)を被覆を除かずそのまま打ち叩いて破砕し、内容をガーゼ等の被覆にしみ込ませて、鼻孔に当てて吸入させる。43)55)
・自発呼吸がない場合バッグマスク等の呼吸器経路内に、1回1管(0.25 mL)を、被覆を除かずそのまま打ち叩いて破砕したアンプルを投入し内容を吸入させる。
亜硝酸ナトリウムの準備ができるまで、100%酸素と交互に30秒間/分吸入、2~3分毎に新しいアンプルを使用する。アシドーシスが認められた場合、炭酸ナトリウム静注により補正を行う。
中止の基準 :亜硝酸ナトリウム静注の準備ができれば中止する。
3)-2 亜硝酸ナトリウム静注
薬剤名 :日本に医薬品の市販製剤はない。
試薬(特級)の亜硝酸ナトリウムを用い3%注射液を院内製剤化し、医師の責任の下に使用する。
用法・用量:
・成人:
初回投与:3%溶液10 mLを3分間で静注する。
再投与:亜硝酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムの投与でも効果がなければ、重大な合併症(血圧低下、過剰のメトヘモグロビン血症)がない場合に限って、亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを初回の半量投与する。
・小児:亜硝酸ナトリウムとして10 mg/kg(3%溶液として0.33 mL/kg)を3分間で静注する。
使用上の注意:
・投与速度が速いと、血圧低下を起こしやすいので、注意深く頻繁に血圧をモニターしながら投与する。血圧低下がみられた場合、投与速度を遅くする。
・チアノーゼ、メトヘモグロビン血症、溶血性貧血、血圧低下、呼吸困難、頻脈、痙攣等の副作用報告がある。
調整法(非市販品の場合):
試薬(特級)の亜硝酸ナトリウムを用い3%溶液に調整する。
注射用蒸留水20 mLに亜硝酸ナトリウム0.6gを入れて製する。
ろ過滅菌し、アンプルに充填する。
3)-3 チオ硫酸ナトリウム静注
亜硝酸ナトリウムの静注に続いて、本剤の静注を行う。
予後
全身症状が回復するのは通常、速やかである。しかし高率に中枢神経系に障害が残ると考えられる。
*経皮の場合
(1)基本的処置
A.
除染:汚染された衣服は脱ぎ、曝露した皮膚を石けんと水で十分に洗浄する。
洗浄後も刺激感や疼痛が続くなら、医師の診察が必要。
B.シアン化合物は皮膚から吸収されて全身症状を引き起こすことがあるので、
注意深く観察する。
(全身症状が出現するのは通常、重篤な熱傷を起こしている場合か、シアン
化合物溶液に全身が浸漬されている場合のみである)
(2)対症療法
必要ならば、吸入・経口の場合に準じて治療する。
経過観察
・軽度の曝露で無症状の患者は4~6時間経過を観察する
・重症患者(昏睡、痙攣、ショック、代謝性アシドーシス、不整脈等)および解毒剤を投与した患者はすべての症状が改善するまで、または少なくとも24時間は入院させ、集中治療室管理を行う。
・迅速に治療が開始された場合、通常、速やかに回復するが、まれに遅れて中枢神経症状が出現することがあるため、数週間~数ヵ月間隔でフォローする。