銃創患者に対する院内診療手順
2020/10/312021/3/29
救急隊からの患者受け入れ要請(アルゴリズム0)
救急隊あるいは現場、消防機関からの銃創患者受け入れ要請連絡を受けた場合、すみやかに関係スタッフ、システムのスイッチを入れ、病着前準備を開始する。多数傷病者で現場が混乱していたり、現場から病院までの距離が近い場合は、救急車搬送より先に直接来院する患者がいることもある。
病着前準備(アルゴリズム1)
銃創・爆傷患者の搬送前準備は、鈍的外傷と同様である。
ただし、鈍的外傷と異なり、銃創患者は緊急手術が必要になる可能性が高く、手術加療が予後に直結するため、常時麻酔科を含め迅速に緊急手術が施行可能な体制を整えておくべきである。 明確な基準はな いが、ショックを伴う銃創症例に対して手術室入室へ 10 分以上かかると死亡率が高くなるという報告もある1)。
自施設でどの段階まで診療が可能なのか想定し、追加処置が可能な専門施設をあらかじめ把握しておく。
活動性出血に対して,救急隊がターニケットを装着もしくは用手的圧迫をしてくる可能性がある。
初療室での処置(アルゴリズム2〜8)
原則は JATEC に則った診療を行う。
切迫心停止症例では、蘇生的開胸を行う。施行した症例では鈍的外傷よりも鋭的外傷の生存率が高く、必須の手技である(アルゴリズム2、蘇生的開胸術の詳細 )。
初期評価では E の評価、特に単純 X 線撮影での評価が重要である。全身観察をより注意深く行い、銃創の数、部位、活動性出血の有無などを確認する。創が奇数の場合、体内に弾丸が残存している可能性を 考える。銃創が複数ある場合、どこが射入口・射出口かは言及せず、銃弾の貫通経路はあらゆるパターンを考える。X 線撮影時には、創のマーカーとしてクリップなどを置く(アルゴリズム3)。
循環動態不安定な症例は、原則手術であり、必要最低限の処置および検査を行っている間に手術の準備 を整え、すみやかに手術の可能な部屋へ搬入する(アルゴリズム4)。
応急的な処置(アルゴリズム5): 創部局所止血±中枢側血流遮断 創部局所止血:ガーゼ圧迫、Foley カテーテル挿入による止血、止血剤 出血部の中枢側血流遮断:ターニケット、外科的血管確保、血管内バルーンカテーテル挿入
※ターニケット装着不可能な部位の出血に対しては、創部局所止血のみ施行し、すみやかに手術室へ移動する。
最小限の検査(アルゴリズム6): 頭部⇒ CT 体幹部⇒ FAST(FASTの詳細 )、単純 X 線撮影 (四肢⇒単純 X 線撮影)
ターニケットは途中で緩めてはならない。原則は、手術室など適切に対応できる環境下で外す。
循環動態の安定している症例も多くある。ただし、常に急変のリスクおよび緊急手術になるであろうことを念頭に、迅速に診療にあたる。
外出血なく、バイタルが安定している場合でも、むやみに初療室で創の検索は行わない。血栓や周りの組織による圧迫で一時的に止血されているようにみえるものの、実際には動脈の断裂があり、創の開放 とともに急激に出血することがある。
具体的な手術術式や手術適応については、部位別の項目を参照 (アルゴリズム7)。
専門施設への搬送(アルゴリズム8):自施設では不可能な検査、治療が必要な場合は、循環動態の安定化を図ったうえで、すみやかに専門施設へ転送とする。
【銃創症例全体の死亡率】
NTDB の 1996 ~ 2016 年の銃創 11,294 症例を分析、死亡率 14。6% 1)。
New Jersey Trauma Center の 12 年間の銃創 6,322 例の分析、死亡率 11% 2)。
JTDB に登録された 2004 ~ 2015 年の銃創症例は 80 件、手術は 46 件(51%)、死亡率 50% 3)。
【初療室ですべき診察、処置、検査】
⇒有用である可能性がある。
特に循環動態の安定している体幹部鋭的外傷(あるいは銃創のみ)を対象として、手術を行う必要があるかないかの decision making の一助となったり、損傷の有無・程度が明確になる可能性が示唆された報告が散 見される 1)- 4)。CT による開腹手術の必要性の予測に関して、感度 94。9%、特異度 95。38%、正診率 94。7% との報告もある 5)。ただし腸管損傷に対しては診断が困難であることが多い 6).
鋭的外傷に対する蘇生的開胸術の妥当性に関して
⇒鈍的外傷に対してよりも重要度が高く、必須の手技である。 ACSCOT のデータでは、Resuscitative thoracotomy(RT)を施行した症例の生存率は鋭的外傷で 11。2%、鈍的外傷で 1。6%であった 1)。鋭的外傷のなかでも胸部の刺創に対して有効で、銃創、腹部、多数 の刺創では有効度が下がる 2)。RT を施行した鋭的外傷で、生存率は刺創 vs 銃創で、14% vs 4%2)、鋭的 の心損傷に対する RT でも生存率は刺創 33% vs 銃創 5% 3)、刺創の方が銃創より 11 倍生存しやすいとい う報告もある 4)。 WTA は 2012 年に RT に関する、注釈付きの包括的アルゴリズムを作成し(図II- 1 – 2)、鋭的外傷では、 CPR を開始して 15 分に満たない症例にのみ RT 施行を考慮し、RT 施行したもののタンポナーデがないのに肉眼的に心臓の活動がない場合は蘇生処置を終了とし、肉眼的に心臓活動があるまたは解除すべきタン ポナーデがある場合は出血コントロールを行うべきとしている 5)。バイタルサイン消失からの時間が、米国軍ガイドラインでは 10 分以内、英国ガイドラインでは 5 分以内に施行可能な場合のみ、RT が推奨されている 6)。現場での心肺停止症例には推奨されない。 2015 年の EAST からのガイドラインでは、迅速な判断が求められるより臨床に即した状況として、初療室で脈拍蝕知不可となった場合に焦点を当てて検討している。72 の論文の計 10,238 症例を集積し、結論 として、生命兆候を認める胸部の鋭的外傷に対して初療室開胸を行うことを強く推奨し、生命兆候を認め ない胸部の鋭的外傷や、生命兆候のあるなしに関わらず胸部以外の鋭的外傷に対して初療室開胸を行うこ とを条件付きで推奨する、としている 7)。 誰が施行するかに関しては、外傷外科医が行うべきだが、体制上困難な場合もあり、救急医が行うことも可能で、そのためには訓練をすべきである 8)。タンポナーデ解除や大動脈遮断を行ったら、すみやかに 手術室に移動したり、専門外科医による追加処置に移行する。
1)
Asensio JA, et al : Working Group, Ad Hoc Subcommittee on Outcomes, American College of Surgeons- Committee on Trauma : practice management guidelines for emergency department thoracotomy。 J Am Coll Surg 2001 ; 193 : 303ー309.
2)
Hall BL, et al : A visual, timeline-based display of evidence for emergency thoracotomy. J Trauma 2001 ; 59 : 773ー777.
3)
Molina EJ, et al : Outcomes after emergency department thoracotomy for penetrating cardiac injuries : a new perspective。 Interact Cardiovasc Thorac Surg 2008 ; 7 : 845 – 848.
4)
Seamon MJ, et al : Emergency department thoracotomy for penetrating injuries of the heart and great vessels : an appraisal of 283 consecutive cases from two urban trauma centers。 J Trauma 2009 ; 67 : 1250 – 1257.
5)
Burlew CC, et al : Western Trauma Association critical decisions in trauma : resuscitative thoracotomy. J Trauma Acute Care Surg 2012 ; 73 : 1359 – 1363。
6)
Morrison JJ, et al : Resuscitative thoracotomy following wartime injury. J Trauma Acute Care Surg 2013 ; 74 : 825ー829.
7)
Seamon MJ, et al : An evidence-based approach to patient selection for emergency department thoracotomy : A practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma。 J Trauma Acute Care Surg 2015 ; 79 : 159 – 173.
8)
Fairfax LM, et al : Resuscitative thoracotomy in penetrating trauma. World J Surg 2015 ; 39 : 1343 – 1351.
FASTは循環動態不安定な鋭的外傷でも有用性に関して
⇒有用である可能性がある。
心嚢と腹腔内の液体貯留を評価し、心嚢FASTの感度92.3%、特異度 95.6%、腹部FASTの感度68.5%、特異度93.9%。刺創の群では心嚢FASTの感度は100%、特異度は刺創でも銃創でも高い(94.0%、97.5%)。腹部FASTの感度は、刺創でも銃創でも有意差なく(62.5%、 73.3%)、特異度は刺創で100%、銃創で80% 1)。 FASTは複数の受傷部位の可能性のある症例で、どのタイミングでどの部位から治療を始めるかの決定に有用である。 鋭的外傷では腹部FASTの感度はやや低く、体表創部から体外へ出血していることもあり、negativeでも 腹腔内出血は否定できない。
【鋭的外傷の初療での適切な輸液、輸血による蘇生】
鋭的外傷に焦点を当てた初期輸液蘇生に関するReview は限られている。 2013 年の Systematic review では、それぞれ鋭的外傷を 30%~ 94%含んだ 20 論文(計 12,154 症例)を検討している。ATLS や JATEC で述べられている1~2L の細胞外液による初期輸液急速投与ではなく、ダメージコントロール蘇生の一つとして、高比率 1:1:1 に近い比率で RBC:FFP:PLT の早期投与を行った方が、死亡率が改善したという報告が多かった(20 論文中 14 論文)1)。 特に鋭的外傷の割合の明記はないが、重症外傷に対するダメージコントロール蘇生について 37 論文を まとめた EAST のガイドラインでは、DCR(ダメージコントロール蘇生)の原則として、 (1) 低体温の回避 (2) 根本的止血までの低血圧の許容 (3) MTP の使用4最小限の晶質液の投与 などを挙げるとともに、死亡率減少のために MTP を軸とした DCR を行うことおよび1:1:1に近い比率での RBC:FFP:PLT の 輸血を行うことを推奨している 2)。
【鋭的外傷に対する REBOA/IABO の有用性、および開胸大動脈遮断術との比較】
現時点で十分な症例集積はされていないが、限られた数件の Review の報告および本邦での使用経験から、 鋭的外傷に対しての REBOA/IABO は安全で効果的である可能性がある。 JTDB を解析した報告では、REBOA/IABO は初療室で施行することを考慮できるものだが、留置に成功し たとしても、一刻も早く手術や IVR などの根本的治療を開始するべきであるとしている 1)。 対象に鋭的外傷症例を含む 7 件の報告をまとめた Review では、計 81 人の鋭的外傷症例に対して、主に心 肺停止切迫症例に対する出血コントロールおよび蘇生目的で使用されており、バルーンのインフレート時間の中央 値 63 分(33 – 88 分)、収縮期血圧上昇の中央値 51mm Hg(44 – 61mm Hg)、全体の死亡率は 35.4%であった 2)。 AORTA study では、鋭的外傷 43 例を含む 114 例の検討で REBOA/IABO と緊急開胸での比較がされており、 生存率に特に有意差は認めなかった(28.2% vs 16.1%, p=0.12)。特に致死的合併症は認めず、安全で効果的と結論付けている 3)。
KEY POINT
鈍的外傷と異なり、銃創患者は緊急手術が必要になる可能性が高く、手術加療が予後に直結するため、 常時麻酔科を含め迅速に緊急手術が施行可能な体制を整えておくべきである。
初期評価では E の評価、特に単純 X 線撮影での評価が重要である。
鋭的外傷に対する蘇生的開胸術は、鈍的外傷に対してよりも重要度が高く、必須の手技である。
鋭的外傷では腹部 FAST の感度はやや低く、体表創部から体外へ出血していることもあり、negative で も腹腔内出血は否定できない。
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