銃弾の扱い・弾道学の基礎

弾道の扱い 弾道学の基礎

弾道の扱い

①銃創が1ヵ所でもある場合は、必ず全身を注意深く診察し、X線撮影などの画像検査を行い、銃弾が遺残しているかどうか、銃弾が体内のどこを通過したか評価する. ※1発の銃弾でも体内で複数に分裂することがある. ※射創管は直線とは限らない.

②遺残した銃弾は、図の銃弾摘出の適応にあてはまる場合以外摘出する必要はない.ただし、摘出の適応にあてはまる場合であっても、アプローチが困難であったり、より大きな合併症が危惧される場合はこの限りではない¹)²). ※状態が安定しており、遺残した銃弾が、皮下、筋肉内、あるいは射入口・射出口の近傍に触知可能な場合は、外来で局所麻酔施行下の摘出を考慮してもよい. ※銃弾を摘出した場合、その処理に関しては警察に確認を行う.

③可及的に、受傷から6時間以内には創洗浄を行う.
④抗菌薬投与の適応としては、骨折を伴う場合、ショットガンによる銃創、治療開始まで時間の経過している場合、汚染が高度な場合、糖尿病の既往がある場合などで考慮する(後述). ※射入口、射出口は早期には閉鎖せず、一定期間感染徴候がなければ閉鎖可能である(後述). ※破傷風ワクチン接種歴を必ず確認する¹).

【体内の遺残した銃弾やその破片を除去する必要性、遺残した場合の鉛中毒のリスクに関して】

 すべての銃創を検索またはデブリードマンする必要はない.血管損傷や大きな血腫を伴わない軟部組織や筋肉だけを通過した単純な銃創は経過観察できる.創洗浄の遅延が感染の大きなリスクとなるため、6時間以内に洗浄する¹).銃弾除去は通常不要で、それだけで手術適応とはならない.違和感を訴えても皮下にあるようにみえても特に必要ない.唯一鉛中毒のリスクとなる可能性があるのは、滑膜液や脊髄液と接触している銃弾による³)⁴).銃弾と鉛の血中濃度の量的関係も、鉛の血中濃度と中毒リスクの大きさも、明らかではない⁵).また、腸を貫通してそのまま骨に埋まりこんだ銃弾は骨髄炎のリスクとなるため、アプローチが困難でなければ除去する.軟部組織に遺残した銃弾の破片が原因と思われる鉛中毒の報告はある⁶).

【銃創による外傷に対する抗菌薬投与】

 感染のリスクが高いと考えるべきであり、細菌学的な確証が得られずとも広域抗菌薬の静脈内投与はやむを得ないことが多い. 抗菌薬投与の適応としては、骨折を伴う場合、ショットガンによる銃創、治療開始まで時間の経過している場合、腸管を通過しているなど汚染が高度な場合、糖尿病の既往がある場合などである⁷).また、腸を貫通してそのまま骨に埋まりこんだ銃弾は骨髄炎のリスクとなり、銃弾の除去が不可能な場合は、射創管の洗浄に加えて最低10日間の広域スペクトラムを有する抗菌薬の静脈内投与を考慮する.軟部組織や 筋肉だけを貫通した単純な銃創の場合、感染のリスクは2%以下であり、経静脈的な抗菌薬投与は必要ない¹).

【銃弾の射入口、射出口は閉鎖するべきか】

 汚染物の付着の可能性あり、射創管の洗浄のため早期には閉鎖する必要はない.一定期間感染徴候がなければ閉鎖可能である(Expert opinion).

1)Asensio JA, et al : Current therapy of trauma and surgical critical care. 2nd ed. Amsterdam : Elsevier 2016.
2)Dienstknecht T, et al : Indications for bullet removal : overview of the literature, and clinical practice guidelines for European trauma surgeons. Eur J Trauma Emerg Surg 2012 ; 38 : 89-93.
3)Begly JP, et al : Systematic lead toxicity secondary to retained intraosseous bullet. A case report and review of literature. Bull Hosp Jt Dis 2016 ; 74 : 229-233.
4)Dillman RO, et al : Lead poisoning from a gunshot wound. Report of a case and review of the literature. Am J Med 1979 ; 66 : 509-514.
5)Magos L : Lead poisoning from retained lead projectiles. A critical review of case reports. Hum Exp Toxicol 1994 ; 13 : 735-742.
6)Weiss D, et al : Severe lead toxicity attributed to bullet fragments retained in soft tissue. BMJ Case Rep 2017 Mar 8 ; 2017.
7)Bruner D, et al : Ballistic injuries in the emergency department. Emerg Med Practice. 2011 ; 13.

弾道学の基礎Ballistics

 銃創の症例が搬入されてきた場合,原則は目の前の受傷者そのものの状態を臨床的に評価することであって,銃器や銃弾の種類や速度,撃たれた距離などによって治療方針の大枠が変わることはないため,そういった情報を得るための時間を無理にさく必要はない.  ここでは弾道学の最小限の項目のみ提示し,銃器による損傷をよりイメージしやすくし,より詳細な評価につながれば幸いである.

原則
・銃弾による創がどのようになるかは以下の3つの大因子によって決まる¹).
 i)銃弾:直径,重量,形状,ジャケット(装甲),小粒,火薬の量・類
 ii)銃器:銃身長,連射型・単発型,自動式・半自動式,携帯性
 iii)受傷者の因子:体位,銃器からの距離,創の部位,損傷組織

銃弾の威力は何で決まるか?
・銃弾の威力は運動エネルギーの法則に則る.発射された銃弾の運動エネルギー量(KE:kinetic energy)は,銃弾の質量(M)と銃口速度(V)により決定し(KE=1/2 MV²),より重い弾丸がより早い速度で撃ち出されるとエネルギー量は大きくなる=威力は大きくなる.銃口速度は,上述のi)銃弾およびii)銃器の性質により決定される²).

銃の口径・弾丸の質量・放出速度による威力の違い3)
・低速弾:秒速 2,000 フィート(681m/ 秒)未満
・高速弾:秒速 2,000 フィート(681m/ 秒)以上

弾丸の動き4)
・体内に入った銃弾は,揺れ(yaw)や回転(tumble),変形(deformation)や断片化(fragmentation)を伴って複雑な動きで進んでいくため,銃弾そのものによる組織損傷とともに,銃弾の径より何倍も広い範囲の組織を損傷している(空洞形成=cavitation).高速弾ほどcavitationは大きく,弾道から離れた組織も損傷を受ける.射入口と射出口を結んだ直線状の損傷のみ想定すればいいわけではない.

損傷の程度は何で決まるか?
・損傷させる力(WE:wounding energy)は,体内に射入したときの速度(Ventry)と体内から射出したときの速度(Vexit)の差が大きくなること,つまり体内で大きく減速すると,大きくなる³).

銃器の種類それぞれの特徴1)5)6)

・拳銃:ライフルよりエネルギー量は劣り,命中率も低い.逆に拳銃による創を認める場合は,10m前後の比較的近い距離から受傷した可能性がある. ・狩猟用ライフル:苦痛を与えず仕留めることを目的としており,狩猟用弾丸は軍用では禁止されている殺傷能力のより高い形態をしているため,偶発的に受傷した場合,遠くから命中した場合でも重篤な組織損傷を伴う.皮膚表面は残存していても,内部組織が破壊されていることもあり,より広範囲のデブリードマンや追加切除が必要になる.
・軍用ライフル:高速弾であり,拳銃よりもエネルギー量や命中率は高い.Cavitationのサイズは拳銃の数倍になる.防弾チョッキなどで弾丸による直接損傷を受けなくてもそのエネルギーにより鈍的損傷をきたす場合がある(behind armor blunt trauma;BABT).以前より口径が縮小してきている傾向があり,狩猟用ライフルの創よりも組織破壊は少ない.
・散弾銃:10-15m距離があれば致命傷にならないが,1-2m以内の距離では85%が致命的となる. 低速弾.飛散した小球がそれぞれ組織を損傷する.すべての弾丸片の摘出は困難.

1)Asensio JA, et al : Current therapy of trauma and surgical critical care. 2nd ed. Amsterdam : Elsevier 2016.
2)Dienstknecht T, et al : Indications for bullet removal : overview of the literature, and clinical practice guidelines for European trauma surgeons. Eur J Trauma Emerg Surg 2012 ; 38 : 89-93.
3)Begly JP, et al : Systematic lead toxicity secondary to retained intraosseous bullet. A case report and review of literature. Bull Hosp Jt Dis 2016 ; 74 : 229-233.
4)Dillman RO, et al : Lead poisoning from a gunshot wound. Report of a case and review of the literature. Am J Med 1979 ; 66 : 509-514.
5)Magos L : Lead poisoning from retained lead projectiles. A critical review of case reports. Hum Exp Toxicol 1994 ; 13 : 735-742.
6)Weiss D, et al : Severe lead toxicity attributed to bullet fragments retained in soft tissue. BMJ Case Rep 2017 Mar 8 ; 2017.
7)Bruner D, et al : Ballistic injuries in the emergency department. Emerg Med Practice. 2011 ; 13.

廣江 成欧


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