保健医療科学 特集:障害者の就労を通じたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの再考―(2025年10月)

『保健医療科学』 2025 第74巻 第4号 p.331(2025年10月)
特集:障害者の就労を通じたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの再考― 

<巻頭言>

障害者の就労を通じたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの再考―

丸谷美紀
国立保健医療科学院生涯健康研究部

Reconsideration of diversity, equity, and inclusion through
the employment of persons with disabilities

MARUTANI Miki
Department of Health Promotion, National Institute of Public Health

<巻頭言>
 人が生きるとはどういうことか―障害者と言われる方々の就労支援に携わる中で浮かび上がった疑問である.

 就労は,全ての人の権利であり,健康の社会的決定要因でもある.日本においては,障害者の就労に関する政策は,「障害者の雇用の促進等に関する法律」及び「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に代表され,雇用施策と福祉施策の両面から推進されてきた.令和 7 年度には一部法改正により「就労選択支援」が施行され,障害者本人の希望や能力に沿ったきめ細かい就労支援を目指す.
 累次の法改正により,障害者の就労の権利が守られてきたが,就労の基盤を支える取り組み抜きには功を奏し得ない.即ち,移動・食事・排泄などの日常生活や,通院手段を含む療養生活を整えるためのフォーマルまたはインフォーマルな取り組みが,障害者と雇用者の努力を増幅したと考える.
 今般の法改正は,ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I:多様性,公正,包摂)の具現の一つと言える.本特集号では,法改正の折に狭義の障害者の就労支援を超えて,DE&Iについて再考し,新制度の効果的な推進に寄与したいと考える.
 まず,世界と日本の障害者の雇用・就労支援の理念とDE&Iを体系的に論述した上で,日本の障害者雇用・就労支援政策を解説する.続いて,障害を持ちながら就労継続する当事者と雇用者からの支援や配慮に関する報告,公衆衛生の場における障害者の就労生活を支える地域づくりの実践報告,及び障害者の就労生活を環境との相互作用の中で支える研究的な取り組みを報告する.最後にDE&Iという言葉すら不要な社会のあり方について論述する.

 これらの貴重な論文を通じ,冒頭で示した公衆衛生の原点ともいえる疑問に対し,些少なりとも示唆が得られることを願う.

障害者の就労を通じたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの再考―

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