5.ボツリヌス症 – botulism

サマリー

  1.  病原体の特徴
    • ボツリヌス菌(Clostridium botulinum):偏性嫌気性のグラム陽性桿菌,芽胞を形成
    • ボツリヌス毒素:神経伝達部位におけるアセチルコリン放出を抑制,熱や水道水中では不安定
  2. 分類と潜伏期間
    • 潜伏期:数時間~8日間程度と幅広い.(曝露された毒素量,芽胞の量,感染経路などに大きく影響される)
  3. 感染経路
    • 経口摂取:毒素,または芽胞が混入した食品,飲料水
    • バイオテロ:毒素を散布する可能性が最も高い
  4. 臨床症状
    1. 消化管の障害
      • 便秘,嘔気,嘔吐,腹痛,嚥下困難など
    2. 泌尿器系の障害
      • 尿閉
    3. 視覚異常
      • 眼筋の麻痺による複視,瞳孔散大, 対光反射の消失,めまい,眼瞼下垂
    4. 呼吸器の障害
      • 呼吸筋麻痺,呼吸困難
    5. 運動筋の障害
      • 四肢筋力の低下,歩行障害など
    6. 血圧調節障害
      • 立ちくらみ(起立性低血圧)
      • ※臨床的なボツリヌス症の診断には
        • 1.眼筋の麻痺を伴う左右対称性の弛緩性麻痺
        • 2.発熱を伴わない
        • 3.触覚等の感覚は正常
        • が重要なポイントとなる.
    7. 検体の種類および採取法
      • 血清,腸管内容物,便,毒素の混入が疑われる食品など
      • 毒素検出用の血清は10ml以上の量を提出
    8. 検体の輸送法
      • 検体は凍結状態で輸送するのが望ましい.
      • 水道水など塩素が入っていると毒素の失活が早い
    9. 微生物学的検査法
      • 1.毒素の検出(マウスの腹腔内に接種)
      • 2.PCR:ボツリヌス菌の毒素遺伝子を検出
      • ※毒素の検出が困難な例も多いとされている.
    10. 患者の隔離や汚染器材等の管理
      • ヒトからヒトへの感染はない(患者の隔離は不要)。
      • ボツリヌス毒素は失活しやすいため、汚染器材は煮沸などで充分
      • 大量に菌の存在が考えられる場合にはオートクレーブ処理を行う。
    11. 治療の要点
      • 抗血清療法◦
        • ボツリヌス毒素に対する抗血清の早期投与が第一選択
        • 臨床的にボツリヌス症が疑われた場合は,確定診断を待たずに速やかに抗毒素療法を実施する.
        • 10,000~20,000 単位を筋注あるいは静注
      • 全身管理その他◦気管内挿管・気管切開による気道の確保
      • 人工呼吸器による呼吸管理
      • 胃洗浄や浣腸(消化管内の毒素を除去)
      • 塩酸グアニジン投与(アセチルコリンの放出を促進)
    12. 抗菌薬の予防投与
      • 基本的に抗菌薬は無効
      • 逆に体内に存在する菌が溶菌して毒素が放出されると,症状が悪化する危険性が指摘されている.

2009年11月05日 07時57分 改訂

バイオテロが疑われる状況と対応

 

chart_200911130157452009年11月13日 01時57分 改訂