6.ペスト – plague

サマリー

  1.  病原体の特徴
    • 起炎病原体:ペスト菌(Yersinia pestis)
      グラム陰性の多形形態を示す桿菌(安全ピン様の形態)
      主にマウスなどの齧歯類が保菌し、ノミを介して感染
  2. 分類と潜伏期間
    • 腺ペスト、敗血症ペスト、肺ペストに大別される
    • 潜伏期:腺ペスト(3~7日),肺ペスト(2~3日)
  3. 感染経路
    • 腺ペスト:ノミの刺し口より感染
    • 肺ペスト:飛沫感染
    • バイオテロ:菌のエアロゾール化による散布の可能性
  4. 臨床症状
    • 腺ペスト
    • 局所症状
      • リンパ節腫脹および疼痛など
    • 全身症状
      • 急激な発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、悪寒、倦怠感、嘔吐、筋肉痛など
    • 敗血症ペスト
      • 腺ペストから敗血症への移行
      • ショックおよびDIC
    • 肺ペスト
      • 腺ペスト末期や敗血症ペストの経過中に起こる(二次性肺ペスト)
      • 高度な頭痛、嘔吐、高熱、呼吸困難、血痰
      • 重篤な肺炎への急速な進行.
      • ※バイオテロの場合は肺ペストの状態から発症(原発性肺ペスト).
  5. 検体の種類および採取法
    • 血液、リンパ節穿刺吸引物、喀痰、生検組織等
    • ※血液培養は,抗菌薬投与前に3回検体を採取する.
    • (1回目と3回目の採取の間隔は1時間程度開ける)
  6. 検体の輸送法
    • 喀痰,吸引採痰等は冷蔵状態にて輸送
    • 血液,髄液はカルチャーボトルで保温状態で輸送
  7. 微生物学的検査法
    1. 菌の分離・同定
    2. 抗原の検出◦菌体抗原に対する蛍光抗体法など
    3. 遺伝子学的検査◦PCR法
    4. 血清診断◦血清抗体価(抗Fraction 1抗原)
  8. 感染症における取り扱い
    • ペストは、感染症法において1類感染症に分類(直ちに最寄りの保健所に届ける)
    • 地域の特定感染症指定医療機関、もしくは第1種感染症指定医療期間への入院措置が行われる.
  9. 患者の隔離や汚染器材等の管理
    • 肺ペストはヒトからヒトへの感染を起こす (患者は隔離の対象)
    • 汚染器材等の消毒には次亜塩素酸ナトリウム溶液など
  10. 治療の要点
    • 肺ペストでは抗菌薬の病初期からの投与が必須
    • 【推奨される薬剤】
    • •アミノ配糖体系(硫酸ストレプトマイシン筋注、ゲンタマイシン筋注又は点滴静注)
    • テトラサイクリン系(ドキシサイクリン内服)
    • ニューキノロン系(シプロフロキサシン点滴静注,スパルフロキサシン内服,レボフロキサシン内服)
  11. 抗菌薬の予防投与
    • バイオテロによる事件に遭遇した場合は、抗菌薬の投与による予防が推奨される.
    • ドキシサイクリン100mg 1日2回内服、またはシプロフロキサシン500mg 1日2回内服

2018年3月 改訂

バイオテロが疑われる状況と対応

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2009年11月13日 01時56分 改訂