バイオテロ関連病原体の消毒法

図1に,微生物を消毒薬抵抗性の強い順にならべるとともに,消毒薬の抗菌スペクトル(範囲)示した.また,図2には,熱(熱水,蒸気)の抗菌スペクトルを示した.以下に,芽胞,結核菌,炭疽菌や結核菌を除く細菌,真菌,ウイルス,寄生虫の順にこれらの消毒について述べる.

figure1図1 微生物の消毒薬抵抗性の強さ,および消毒薬の抗菌スペクトル

figure2図2 微生物の熱抵抗性の強さ,および熱の抗菌スペクトル
70〜100℃の熱水や蒸気は,芽胞以外の微生物に有効である.

なお,表1に次亜塩素酸ナトリウムの希釈例を示した.

表1.次亜塩素酸ナトリウムの希釈例
調製する濃度 用いる製品 希釈法
0.01%(100ppm) ミルトン 水1Lに対して10mL
ミルクポン
ピュリファンP
ヤクラックスD
ピューラックス 水1Lに対して2mL
次亜塩6%「ヨシダ」*
テキサント*
ハイター**
ピューラックス10 水1Lに対して1mL
ハイポライト10*
0.1%(1,000ppm) ミルトン 水1Lに対して100mL
ミルクポン
ピュリファンP
ヤクラックスD
ピューラックス 水1Lに対して20mL
次亜塩6%「ヨシダ」*
テキサント*
ハイター**
ピューラックス10 水1Lに対して10mL
ハイポライト10*
1%(10,000ppm) ミルトン 原液のまま使用
ミルクポン
ピュリファンP
ヤクラックスD
ピューラックス 5倍に希釈して使用
次亜塩6%「ヨシダ」*
テキサント*
ハイター**
ピューラックス10 10倍に希釈して使用
ハイポライト10*

*冷所保存が必要な製品
**ハイターは医薬品ではないので,濃度は確実なものではない

炭疽菌の芽胞

消毒のポイント

もっとも物理化学的抵抗性が強い微生物であり,アルコールや熱水(70〜100℃)は無効である.

消毒法

  1. 環境:0.5〜1%(5,000〜10,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムをしみ込ませたガーゼなどでの2度拭きを行う.
  2. 用具:0.3%過酢酸への10分間浸漬,0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの1時間浸漬,2〜3.5%グルタラールへの6時間浸漬などを行う.

留意点

  1. 次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性があり,またその蒸気(塩素ガス)は粘膜を刺激する.
  2. 過酢酸には金属腐食性があり,その蒸気は粘膜を刺激する.
  3. グルタラールの蒸気は粘膜を刺激する.

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結核菌

消毒のポイント

過酢酸,グルタラール,フタラール,次亜塩素酸ナトリウム,アルコールおよび両性界面活性剤などが有効である.また,70℃・10分間や80℃・1分間などの熱水も有効である.

消毒法

  1. 環境:血液や喀痰などの体液汚染箇所は,ガーゼなどで汚れを除去後に,0.5〜1%(5,000〜10,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムやアルコールをしみ込ませたガーゼで清拭する.2度拭きを行う.
  2. 用具:0.5%過酢酸への5分間浸漬や,2〜3.5%グルタラール,0.55%フタラール,アルコールまたは0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムなどへの30分間浸漬を行う.また,0.5%両性界面活性剤への1時間浸漬でもよい.一方,70℃・10分間や80℃・1分間などの熱水浸漬も有効である.

留意点

  1. 次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性があり,またその蒸気(塩素ガス)は粘膜を刺激する.
  2. アルコールには引火性がある.
  3. 過酢酸には金属腐食性があり,その蒸気は粘膜を刺激する.
  4. グルタラールやフタラールの蒸気は粘膜を刺激する.

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細菌(炭疽菌の芽胞および結核菌を除く)

消毒のポイント

いずれの消毒薬も有効である.また,70℃・10分間や80℃・1分間などの熱水も有効である.

消毒法

  1. 環境:ガーゼなどで汚れを拭き取った後に,アルコールをしみ込ませたガーゼなどで清拭する.2度拭きが望ましい.アルコールの代用として,0.01〜0.1%(100〜1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム,0.2%塩化ベンザルコニウム,0.2%塩化ベンゼトニウム,0.2%両性界面活性剤または0.2%クロルヘキシジンなどがあげられる.
  2. 用具:0.1%塩化ベンザルコニウム,0.1%塩化ベンゼトニウム,0.1%両性界面活性剤,0.1%クロルヘキシジンまたは0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムなどへの30分間浸漬や,アルコールでの清拭を行う.また,80℃・1分間などの熱水浸漬も有効である.

留意点

  1. アルコールには引火性がある.
  2. 次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性があり,その蒸気(塩素ガス)は粘膜を刺激する.

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真菌

消毒のポイント

アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどを用いる.また,70℃・10分間や80℃・1分間などの熱水も有効である.

消毒法

  1. 環境:0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムやアルコールをしみ込ませたガーゼなどで清拭する.2度拭きが望ましい.
  2. 用具:0.3%過酢酸への5分間浸漬や,2¬〜3.5%グルタラール,0.55%フタラール,0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムまたはアルコールなどへの30分間浸漬を行う.80℃・1分間などの熱水浸漬も有効である.

留意点

  1. 次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性があり,またその蒸気(塩素ガス)は粘膜を刺激する.
  2. アルコールには引火性がある.
  3. 過酢酸には金属腐食性があり,その蒸気は粘膜を刺激する.
  4. グルタラールやフタラールの蒸気は粘膜を刺激する.

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ウイルス

消毒のポイント

過酢酸,グルタラール,フタラール,次亜塩素酸ナトリウムおよびアルコールが有効である.また,80℃・10分間や90℃・1分間などの熱水も有効である.

消毒法

  1. 環境:汚れをガーゼなどで除去後に,0.5〜1%(5,000〜10,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムやアルコールをしみ込ませたガーゼなどで清拭する.2度拭きを行う.なお,汚れがなければ,次亜塩素酸ナトリウムの濃度は0.05~0.1%(500〜1,000ppm)としてもよい.
  2. 用具:0.3%過酢酸への5分間浸漬や,2〜3.5%グルタラール,0.55%フタラール,アルコールまたは0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムなどへの30分間浸漬を行う.また,80℃・10分間や90℃・1分間などの熱水浸漬も有効である.

留意点

  1. 次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性があり,またその蒸気(塩素ガス)は粘膜を刺激する.
  2. アルコールには引火性がある.
  3. 過酢酸には金属腐食性があり,その蒸気は粘膜を刺激する.
  4. グルタラールやフタラールの蒸気は粘膜を刺激する.

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寄生虫

消毒のポイント

クリプトスポリジウムやトキソプラズマのオーシストには消毒薬が無効である.熱による消毒を行う.

消毒法

クリプトスポリジウムやトキソプラズマのオーシストに対しては,70℃・10分間や80℃・1分間などの熱水消毒を行う.

住血吸虫セルカニアに対しては,70℃・10分間や80℃・1分間などの熱水や,0.1%塩化ベンザルコニウムや0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへの5分間以上の接触などが有効である.

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2007年03月21日 12時53分 改訂