チクングニア熱

病原体の特徴および疫学

トガウイルス科アルファウイルス属に分類されるチクングニアウイルスが病原体であり、ネッタイシマカやヒトスジシマカにより媒介される。デングウイルスとは異なり、単一血清型のウイルスである。疫学的特徴としては、アフリカ、南アジア、東南アジアを中心に認められる1)。日本では流行地域からの輸入症例が2006年末に確認され2)、2011年以降は年間10~14例の報告があるが、いずれも海外での感染事例であり、国内感染例はない(2019年3月時点)。

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主な臨床像

チクングニアウイルスが感染した場合、20~25%の患者で2~12日(多くは3~7日)の潜伏期間を経て症状を呈する。発熱、頭痛、倦怠感、嘔気、嘔吐、筋肉痛、発疹、関節痛が主な症状である。急性期の有熱期間はフラビウイルス科の疾患であるデング熱やウエストナイル熱と同様2、3日~2、3週間である。中には倦怠感が数週間持続することもある。 また、生活に支障が出る程度の関節痛や関節炎が数週から数ヶ月間遷延することがある。このような遷延する関節症状はデング熱では見られない。関節痛は80%以上で認められ、四肢に強く、対称性であり、頻度は手首、足首、指趾>膝>肘>肩の順に多く、数ヶ月から数年にかけて関節痛が遷延することがある3,4,5)。発疹は40-50%で認められる4)。原則として重症化することは少ない。

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臨床検査所見

急性期では、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇などが認められるが、デング熱に比べて軽微であることが多く、14日以上経過した症例では、血液検査では異常を認めなかったと報告されている6)。

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確定診断

流行地域への渡航歴と潜伏期間、および現地での流行状況などの病歴と臨床症状を伴う際に考慮する。
検査は急性期に血清からのウイルス分離、RT-PCRによる遺伝子検出、およびIgM、IgGの抗体検査が行われる。
RT-PCRは病初期のウイルス血症を呈している時期である、発病から0~7日の時期が有効である。急性期の診断として、IgMは平均的には2日後から陽性となる。IgMは数週から3ヶ月後まで陽性が持続する。一方IgGは15日後から数年にかけて陽性が持続するため、発病時の抗体価との比較による上昇で診断する。IgM,IgGはデング熱などのほかのアルファウイルスとの交差反応による疑陽性もありうる4)。これらの検査は、地方衛生研究所または国立感染症研究所で実施可能である。詳細は蚊媒介感染症の診療ガイドライン第5版(2019年2月)を参照7)。

治療

安静、輸液、アセトアミノフェンなどによる対症療法が中心となる。チクングニア熱では出血症状を呈することは稀であり、成人の症例においてはロキソプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症薬の使用は許容される。関節痛が数ヶ月に渡って遷延することがあり、適宜、対症療法を行う。

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予防(ワクチン)

現段階ではされているワクチンはない。しかし、米国陸軍研究所を中心にphaseⅢの臨床研究が行われている4)。

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バイオハザード対策

防蚊対策が中心である。現在日本国内では輸入症例のみであるが、媒介するネッタイシマカは分布していないものの、ヒトスジシマカは沖縄から秋田、岩手県まで分布しており、罹患者の周囲にウイルスが伝播する可能性は否定できない。 従って、渡航歴などから本症例の可能性が極めて低い集団で多発した場合は、媒介となる蚊などを含めた調査が必要となる。また、感染者は最初の数日は蚊に刺されないように防御することが望ましい。

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感染症法における取り扱い

チクングニア熱は感染症法で4類感染症全数把握疾患であるため、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある7)。

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参考文献

  1. CDC,2008, http://www.cdc.gov/ncidod/chikungunya
  2. 水野泰孝:遷延する関節痛より確定診断に至ったチクングニヤ熱の本邦発症例. 感染症学雑誌, 2007, 81(5), 600-601
  3. 高崎智彦:チクングニヤ熱.感染症の話, IDWR, 2007, 19
  4. Gilles Pialoux: Chikungunya, an endemic arbovirosis. Lancet infect Dis. 2007;7:319-27
  5. 国立感染症研究所 ウイルス第1部, 2009, http://www.nih.go.jp/vir1/NVL/Aiphavirus/Chikungunyahtml.htm
  6. Winfried Taubitz: Chikungunya Fever in Travelers: Clinical Presentation and Course. Clin Infec Dis. 2007;45:e1-4
  7. 蚊媒介感染症の診療ガイドライン第5版(2019年2月)

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2012年07月06日 15時46分 改訂
                           2019年3月改訂