病原体の特徴
ウイルス性出血熱は、フィロFilo、ブニヤBunya、アレナArenaおよびフラビFlaviという4つのウイルス科に属するウイルスによって起こされる発熱と出血を主症状とする疾患の総称で、数多くの疾患が含まれる。ここでは特にバイオテロの観点から、ヒトからヒトへの感染が起こり、かつ、致死率が高く、バイオセイフティレベル4(BSL-4)に分類されている、エボラ出血熱(エボラウイルス病)、マールブルグ出血熱(マールブルグ病)、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱の5つの疾患、および、BSL-3に分類されているオムスク出血熱,キャサヌル森林病,リフトバレー熱の3疾患の病原体の特徴について記載する。
エボラウイルスはフィロウイルス科(Filoviridae) に属する。短径が80〜100nm 、長径が700〜1,500 nm のひも状、ゼンマイ状等の多形性を呈する1本鎖RNAウイルスである(図1)。ザイール、スーダン、アイボリーコースト、ブンディブギョ、レストンの5種があるが、レストン種はヒトには病原性を示さないとされている。自然界における宿主は現在も不明であるが、コウモリの一種が自然宿主であることが推定されている。レストン種を除きアフリカ中央部~西部に分布している。
マールブルグウイルスはエボラウイルスと同じフィロウイルス科である。抗原性は異なり交差しないが、電子顕微鏡上の形態は酷似している。ウガンダで捕獲されたコウモリ(Fruit batの一種Rousettus aegyptii)からウイルスが検出されており、自然宿主と推定されている(Towner 2009 Plos Pathogens, Amman 2014 Emerg Infect Dis)。アフリカ中東南部に分布している。
クリミア・コンゴ出血熱ウイルスはブニヤウイルス科(Bunyaviridae)に属する。粒子径90〜110 nm の球形を呈する、1本鎖RNAウイルスである。自然界では野生、家畜などの哺乳動物(ウシ、ヤギ、ヒツジなど)が自然宿主で、ダニ(Hyalomma属)が媒介する。ウイルスはダニ−ダニ間、および、動物−ダニ間でも維持されている。アフリカ全土、中近東、中央アジア、インド、東欧、中国(新疆)に分布している。
リフトバレーウイルスはクリミア・コンゴ出血熱と同じブニヤウイルス科に属する。ウシ、ヒツジ、ヤギなどの家畜とヤブカとの生活環の中でウイルスは維持されている。
ラッサウイルスはアレナウイルス科(Arenaviridae)に属する。粒子径110〜130 nm の球形を呈する、1本鎖RNAウイルスである。ヒトに出血熱を起こすアレナウイルス科のウイルスは、南米で出血熱を起こす新世界アレナウイルスと、アフリカで出血熱を起こす旧世界アレナウイルスに大別される。新世界アレナウイルスには、マチュポ(ボリビア出血熱)、フニン(アルゼンチン出血熱)、グアナリト(ベネズエラ出血熱)、サビア(ブラジル出血熱)、チャパレウイルス(チャパレ出血熱Delgado 2008 Plos Pathogens)などが知られており、これらの出血熱を総称して南米出血熱と呼ぶ。ヒトに出血熱を引き起こす旧世界アレナウイルスにはラッサウイルスの他に、2008年にザンビア共和国のルサカで発生し、南アフリカ共和国のヨハネスブルグの病院で院内感染患者から分離されたLujoウイルスがある(Briese 2009 PlosPathogens)。ラッサウイルスの自然宿主は野ネズミ(マストミス)であり、西アフリカ一帯に分布している。マストミスは輸入禁止対象動物に指定されている。
オムスク出血熱ウイルスとキャサヌル森林病ウイルスはフラビウイルス科に属する。前者はシベリア西部オムスク地方に生息するげっ歯類(マスクラット)、後者はインド南西部カルナカタ州に生息するげっ歯類が宿主であり、それぞれマダニとの生活環の中で維持されている。
これらの出血熱ウイルスはすべてエンベロープを持ち、消毒薬抵抗性は高くない。0.05%(500 ppm)次亜塩素酸ナトリウムなどで速やかに失活される。自然界での安定性などについては不明である。
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* 空気感染による事例はないが、実験レベルではエアロゾルの空中散布によっても高い感染力がみられることが報告されている。
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主な臨床像
エボラ出血熱
自然界からヒトへの感染経路は不明である。ヒトからヒトへの感染は血液、体液、排泄物等との直接接触によりおこる(汚染された手指から、目や口へ入るルートが最も一般的)。空気感染による事例はないが、実験レベルではエアロゾルの空中散布によっても高い感染力がみられることが報告されている。潜伏期間は3~21日で、平均1週間であるが、針刺しによる場合は短く、接触感染の場合は長い。潜伏期間にも他への感染力があるかどうかはわかっていない。発症は突発的で症状の進行も早い。初期症状は発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛、咽頭痛などのインフルエンザ様症状がほぼ100%にみられ、衰弱も強い(図2)。次いで下痢、嘔吐、腹胸部痛が続く場合もある。一過性の皮膚発疹、結膜炎(red eyes、図3)、滲出性の咽頭炎、黄疸、浮腫(図4)などが見られる場合もあるなど症状は多彩で、初期症状から本疾患を疑うことはかなり難しい。発症3日後から出血傾向が見られる。点状出血、躯幹部出血に続き、消化管出血があらわれる(図5)。死亡例の90%以上で重篤な出血が見られているとの報告もあるが、2000年のウガンダ(グル地区)におけるアウトブレイクでは呼吸不全による死亡が多く、終末期に出血症状を示したのは20%程度であった。致死率は50~90%、平均約70%と極めて死亡率が高い。
マールブルグ出血熱
オオコウモリの一種(Rousettus aegyptii)が自然宿主と考えられており、コウモリとの接触及び、その他の感染動物との接触によりヒトへの感染が始まると考えられる。西ドイツマールブルグ、フランクフルトおよびユーゴスラビアのベオグラードにおける計31名の集団発生(1967年)においては、ウガンダからのアフリカミドリザルの血液や組織との接触によるものであったが、アフリカ(ジンバブエ、ケニヤ等)での発生例にはサルは無関係であった。ヒトからヒトへは血液、体液、排泄物との濃厚接触及び性的接触によりおこる。空気感染による事例はないが、実験レベルではエアロゾルの空中散布によっても高い感染力を示すことが報告されている。潜伏期間は2-21日間である。発症は突発的で、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感などで始まる。発症5日目頃より、躯幹(胸部、背部)優位の斑点状丘疹が出現し、咽頭痛や嘔気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状がみられる場合もある。重症化すると鼻口腔・消化管出血が見られ、多臓器不全となる。致死率は90%程度である。
クリミア・コンゴ出血熱
1944~45年、旧ソ連クリミア半島の陸軍兵士に発生した出血熱と、1956年アフリカコンゴでの別ウイルスが同一のものであることをCasalo博士(米エール大)が証明しこの名がついた。自然宿主は野生および家畜などの哺乳動物で、ダニが媒介する。ヒトへの感染は、ダニによる媒介以外にも、感染動物の血液や組織との接触や、患者の血液、体液との接触によってもおこる。血液と体液は感染力がきわめて強い。空気感染による事例はない。潜伏期間は、ダニ咬傷による場合は1~3日間で最長9日間であるが、接触感染による場合は通常5~6日間で最長13日間である。発症は通常突発的で、発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状、腹痛、嘔吐がみられ、2~3日後より咽頭痛、結膜炎、黄疸、羞明及び種々の知覚異常(めまい、不穏、興奮、傾眠など)などが現れる。肝腫大やリンパ節腫脹もみられる。この頃より粘膜および皮膚の点状出血がみられ、進行すると大紫斑も生ずる。重症化するとさらに全身出血、血管虚脱を来し、死亡例では消化管出血が著明である。肝・腎不全も出現する。死亡は通常第2週病日目におこる。致死率は10~40%である。
ラッサ熱
自然宿主であるマストミスによる咬傷や、その糞尿や血液から直接(傷口から侵入、エアロゾルを吸入など)もしくは間接的(汚染された食物を食べるなど)に感染する。ヒトからヒトへの感染は血液、体液、排泄物等との直接接触によりおこるが、咽頭部からの飛沫による感染もおこりうる。潜伏期間は2~21日で、発熱(稽留熱もしくは間歇熱)や全身倦怠感から突発的に発症し、比較的緩徐に進行する。3~4日目に大関節痛、咽頭痛、咳、筋肉痛、次いで心窩部痛、後胸部痛、嘔吐、悪心、下痢、腹部痛などがみられる。重症化すると顔面頚部の浮腫、粘膜(消化管)出血、心嚢胸膜炎、脳炎、ショックなどがみられる。妊婦は重症化しやすく、胎児死亡率は約95%である。治癒後に、ろう(難聴)を示すことが25%以上ある。通常のラッサウイルス感染では約80%が軽症あるいは不顕性感染となり、残りの20%が重篤な病態に陥る。ラッサ熱による入院患者の約15%が死亡するが、全体的な死亡率は約1%である。しかし、不定期な流行時には、死亡率が50%におよぶ場合もある。
南米出血熱
ウイルスを含んだげっ歯類の排泄物を吸入することで感染する場合が多いと考えられている。潜伏期は7〜14日間で、倦怠感、頭痛などから徐々に発症し、1〜2週間で回復する急性発熱性疾患である。結膜充血、顔面や頸部の浮腫、腋窩や口腔内の点状出血が出現する。重症例では、出血傾向、ショック、乏尿、昏睡、けいれんなどが見られる。白血球減少や血小板減少を認めることが多い。ラッサ熱より神経学的徴候(不穏、深部反射の低下、舌や手の振戦など)の出現する頻度が高い。治療を受けない患者の死亡率は15-30%である。
オムスク出血熱・キャサヌル森林病
感染したマダニの刺咬により感染し、潜伏期は3〜8日間である。突然の発熱、頭痛で発症し、第3病日までに嘔吐や下痢などの消化器症状を認めることが多い。1〜2週間で解熱するが、しばしば2峰性の発熱を認める。解熱から1〜2週間後に中枢神経症状が出現することもある。重症例では消化管出血などの出血傾向、低血圧、ショックを認める。致死率は1〜10%と報告されている。
リフトバレー熱
感染したヤブカの刺咬により感染し、潜伏期は2〜6日間である。突然の発熱、頭痛で発症し、1週間以内に回復留ことが多い。患者の2%に網膜炎、1%に髄膜脳炎、1%未満に出血傾向、低血圧を認める。致死率は1%程度であるが、肝炎を合併した場合予後は悪い。
臨床検査所見
血液生化学検査
ウイルス性出血熱に特徴的な血液生化学検査所見はないが、初期の好中球増加、リンパ球減少、肝機能異常(GOT、GPT上昇)、LDH上昇、血小板減少や凝固時間の延長などDICの徴候を示す凝固系異常などがみられる場合がある。
画像検査その他
ウイルス性出血熱に特徴的な画像所見等はないが、クリミア・コンゴウイルス出血熱では肝腫大が、ラッサ熱では胸水や心嚢水貯留がみられる場合もある。エアロゾル曝露による感染が起こった場合に、肺野に異常陰影が出現するかどうかについてはわかっていない。
確定診断
検体の採取、輸送、保存など
医師が臨床的にウイルス性出血熱を疑った場合、国立感染症研究所 ウイルス第一部または感染症疫学センター(電話03-5285-1111)へ相談する。臨床症状や臨床検査所見からは、ウイルス性出血熱の確定診断はできないため、確定診断には実験室診断が必要となる。国内では、国立感染症研究所(ウイルス第一部)でのみ対応可能である。また、バイオテロ以外でこれらに感染する可能性は、流行地での感染以外には考えにくいため、これらの地域への渡航歴の有無は、重要な情報となる。なお、急性期の患者の血液中には、大量のウイルスが含まれるため検体の取り扱いには十分注意する。使用した注射器等は直ちにオートクレーブ等によりウイルス不活化を行う。
検体:
1.全血、血清、咽頭ぬぐい液、尿などが検査対象となる。急性期の血液には多量の感染性ウイルスが含まれるため、全血を国立感染症研究所に送付することが望ましいが、すでに血清分離した場合には血清も合わせて送付する。なお、PCRによるウイルス遺伝子の検出を行う場合には、ヘパリン処理は避ける。
2.検体の包装等:通常、臨床検体の輸送は国連規格に適合するカテゴリーB容器(UN3373)が用いられるが、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱が疑われる臨床検体の輸送は、WHOの「感染性物質の輸送規則に関するガイダンス2017-2018版」http://www.who.int/ihr/publications/WHO-WHE-CPI-2017.8/en/)に順じ、これらの原因ウイルスの輸送と同じ基準で行う。これらの輸送には、包装基準P620に準拠したカテゴリーA容器(UN2814/UN2900)を用いる。詳しくは、国立感染症研究所のバイオセーフティ―管理室のホームページ https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-biosafe.html を参照。血清などの臨床検体を入れる容器やチューブ(一時容器)はスクリューキャップで密閉性のあるプラスチック容器を用いる。二次容器には一時容器から万が一検体が漏えいした場合に、内容物を吸収できる吸収剤を入れる。二次容器内は密閉度が非常に高い容器であるため、二次容器にはドライアイスを絶対に入れてはならない。ドライアイスが必要な場合には、二次容器と外装容器の間に収納し、外装容器からは炭酸ガスが漏れるように梱包する。輸送方法については国立感染症研究所の指示に従う。
微生物学的検査法
確定診断のための検査は、いすれも特殊な研究施設でしか実施できない。本邦では、国立感染症研究所において、RT-PCR法、抗原検出ELISA法、抗体検出法(ELISA, 間接蛍光抗体法)を整備している。急性期には、RT-PCR法や抗原検出ELISA法により病原ウイルスの遺伝子や蛋白を検出する。回復期には、ウイルスが消失し抗体が上昇するので抗体検出法(ELISA, 間接蛍光抗体法)により抗体の有無を測定する。抗体検査には、急性期と回復期のペア血清が必要である。 詳細は「病原体検出マニュアル」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html を参照。
これらの検査で、次のいずれかが満たされた場合、「出血熱ウイルス感染症」とする。
- 被験検体から出血熱ウイルスが分離された(BSL-4実験室要)。
- 被験検体からRT-PCR法で出血熱ウイルス遺伝子が検出された。
- 被験検体から抗原検出ELISA法で、出血熱ウイルス蛋白が検出された。
- 抗体検出法で判定された急性期と回復期に採取されたペア血清の出血熱ウイルスに対する抗体価が、有意に(4倍以上)上昇した。
次の場合、「出血熱ウイルス感染」を疑う。
- IgM-capture ELISAで,EBO-NPに対する特異的IgM抗体が検出された。
治療
薬物療法(抗菌薬療法)
エボラ出血熱
補助的治療として体液喪失に対する補液(経口あるいは経静脈的)と電解質異常の補正が重要である。承認されているエボラウイルスに対する治療薬や、曝露後予防薬は存在しない。しかし、2014年の西アフリカでの大規模流行において、いくつかの実験的な治療薬がcompassionate useとして患者に投与されており、その効果について現在検証中である。実験的なウイルス特異的治療薬としては、核酸アナログのFavipiravir (アビガン)、 GS-5734、BCX4430や、モノクローナル抗体カクテルのZMapp、オリゴヌクレオチド等(AVI-7537など)があり、今後の臨床試験の結果が待たれる。また、回復期血清および回復患者からの全血輸血も、2014年の西アフリカアウトブレークの患者治療に一部使用されており、WHOが暫定ガイダンス(http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0011/268787/Use-of-Convalescent-Whole-Blood-or-Plasma-Collected-from-Patients-Recovered-from-Ebola-Virus-Disease-for-Transfusion,-as-an-Empirical-Treatment-during-Outbreaks-Eng.pdf)を公表している。
マールブルグ出血熱
エボラ出血熱と同様に、補助的治療として、体液喪失に対する補液(経口あるいは経静脈的)と電解質異常の補正が重要である。エボラウイルスと同様に、いくつかの実験的な治療法が動物モデルで研究されているが、ヒトでの有効性は確認されていない。
クリミア・コンゴ出血熱
効果が立証された特異的な治療薬はなく、基本的には対症療法が中心となる。ただし、リバビリンがクリミア・コンゴウイルスの増殖を抑制することや、実際に患者に投与されて効果が認められたとする症例報告があるため、本疾患に対しては、リバビリンを使用する意義はあると思われる(下記のラッサ熱に対する用量・用法を参照)。回復期患者血清の使用も報告されているが、明らかな効果は証明されていない。
ラッサ熱
リバビリンが有効である。発病後6日以内に開始すれば死亡率を1/10に減らすことができると報告されており、発病後はできるだけ早期に投与開始する。国内には経口薬しかないため、まず初回10錠(2 g)、その後5錠(1g)/回を1日4回(6時間ごと) 4日間、次いで5錠(1g)/回を1日3回(8時間ごと) 6日間経口投与する(静注が使用できる場合:初回量として30mg/kg静注に続き、15mg/kgを6時間毎に4日間、その後さらに7.5mg/kgを8時間毎に6日間投与する)。接触者に対する発病予防の場合は、初回10錠~12錠(上限35mg/kg)を内服し、その後5錠(1g)/回を1日3回(8時間ごと) 10日間内服する。リバビリン使用中は、溶血性貧血などの重篤な副作用の出現に注意する。また、催奇形性が報告されており妊婦には投与禁忌となっているが、ラッサ熱が妊婦では重症化しやすいこと、胎児死亡率が高率であることを考慮して治療適応を決める必要がある。
南米出血熱
アルゼンチン出血熱(フニンウイルス)では、患者回復期血清を発症後8日以内に使用すると致死率を1%未満に下げることができる。ラッサ熱と同様にリバビリンは有効と考えられるため、同様に使用する。
オムスク出血熱・キャサヌル森林病
特異的な治療薬はなく、対症療法のみである。
リフトバレー熱
特異的な治療薬はなく、対症療法のみであるが、動物実験では、リバビリンの有効性が示されている。インターフェロンや患者回復期血清の有効性も示唆されている。
その他治療上の留意点
ウイルス性出血熱を疑った場合には、患者の隔離が必要となる。接触者についても厳重な監視下におく。感染者の診察および、血液、体液、排泄物の取り扱いには必ず手袋、マスク(空気感染は証明されていないが、N95マスクを使用する)、ゴーグル、ガウン、長靴などを使用し、接触感染を防ぐ(図6)。患者の使用物、接触物はすべて病室から出す前にオートクレーブ、薬液消毒などの処理を行う。症状が改善した後も、尿中や精液中などに長期間(~発病3ヶ月後)ウイルスが検出されることがあり、隔離の解除はこれらが陰性になったことを確かめてからおこなう必要がある。対象療法としては、輸液・電解質補正、輸血、DIC対策、2次感染予防のための抗生物質の投与のほか、酸素投与、血圧維持などの補助的療法も必要となる。
バイオハザード対策
患者の血液や体液、分泌物、排泄物などから容易にヒトに感染する。患者の隔離、手指衛生の徹底、標準・接触・飛沫感染対策、個人用防護具(PPE)の適切な使用、およびエアロゾルが発生する手技の際には空気感染対策も必要である。前室のある部屋に患者を隔離し、患者を担当する医療従事者を制限し記録する。個人用防護具(PPE)は、手袋二重装着、防水性ガウン、キャップ、シューズカバー、ボディースーツ、保護メガネ、フェイスシールド、N95 マスクを用いる。個人用防護具(PPE)の使用について研修を行う。個人用防護具の着脱時には、よく訓練された観察者を配置し、適切に個人防護具の着脱が行われているかを確認する。患者への接触後は適切な消毒液に手袋を装着した手を頻繁に消毒する。また、個人防護具を長時間使用することによる医療従事者の疲労、脱水に留意し、十分な休憩時間と水分補給を行う。感染対策と個人用防護具の使用法については以下の「ウイルス性出血熱診療の手引き」、CDCおよびWHOのガイドラインを参照する。
https://www.dcc-ncgm.info/resource/
http://www.cdc.gov/vhf/ebola/hcp/infection-prevention-and-control-recommendations.html
www.who.int/csr/resources/publications/ebola/filovirus_infection_control/en/
感染症法における取り扱い
エボラ出血熱、マールブルグ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱は一類感染症、その他の疾患は四類感染症に指定されるため、診断した場合は、直ちに最寄りの保健所に届け出る。一類感染症は疑似症でも届け出る。いずれのウイルスも特定病原体に指定されており、エボラ出血熱、マールブルグ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱の起因ウイルスは一種病原体、その他のウイルスは三種病原体に分類されている。
参考文献
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- 谷口清州, 新興再興ウイルス感染症:現状と病態 1.ウイルス性出血熱(エボラ、マールブルグ、ラッサ), 日本内科学会雑誌 2004, 93 (11), 2303-8.
- Feldman, H., & Kiley, M. P. Classification, structure and replication of filoviruses.Current Topics in Microbiology and Immunology,2000, 235, 1-19.
- APHA. Control of Communicable Diseases Manual 18th Edition.
- Clinical Management of Patients with Viral Haemorrhagic Fever: A Pocket Guide for the Front –line Heath Worker. WHO 2014.
- Mandell, Douglas, Bennett’s. Principles and Practice of Infectious Diseases 8th 2015.
2018年03月 改訂