病原体の特徴
デングウイルスは、フラビウイルス科に属するウイルスで、1〜4 型まで 4 種類の異なる血清型が存在する。一度感染した血清型に対しては終生免疫を獲得するが、異なる血清型に対しての交差免疫は時間経過とともに消失するため、他の型に感染しうる。また、2 回目以降の感染では、重篤なデング出血熱を発症する危険性が増すことが知られている。本病原体は、主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)に媒介することが知られている。2014 年には日本国内における感染例が確認されたが、この年の報告数は国内感染例162例、国外感染例179例の合計341例であった。2015年以降は海外からの輸入例のみであり、国内感染例は見られない。しかし、今後も国内発生の可能性はあるため、監視を継続している。
主な臨床像
- デング熱
デングウイルスに感染した者のうち、20~50%が3~7日の潜伏期(最大2~14日)を経て、発熱や発疹などの症状を呈する。随伴症状として頭痛(眼窩痛を伴うことが多い)、関節痛、筋肉痛を認める。消化器症状や呼吸器症状も時に認められる。発疹は解熱時期に生じることが多く、点状出血や淡い紅斑 (図1)など多彩である。一般的に臨床症状は、青年や成人と比較して、小児のほうが軽度である。 - 重症型デング
一部の症例において、重度の出血傾向、血漿漏出症状などを示す場合があり、これらを「重症型デング」と呼ぶ。このうち、著しい血小板減少(100,000/µL以下)、血漿漏出(血管透過性亢進)、出血傾向を伴うものを「デング出血熱」と呼び、特にショック症状を伴うものを「デングショック症候群」と呼ぶ。重症型デングは適切な治療が行われないと、死に至る場合もあるため、厳重な注意が必要である。
臨床検査所見
デング熱では、白血球減少や血小板減少が多く認められる。血小板が100,000/µL以下になる例は、16-55%と報告されている。また、軽度の肝酵素上昇(正常上限の2-5倍)を伴うことが多いが、時に著明に上昇(正常上限の5-15倍)することもある。
確定診断
デング熱は、流行地域への渡航歴( 図2参照)、臨床症状や検査所見から疑い、病原体診断もしくは血清学的診断にて確定する。病原体診断には、血液(全血・血清・血漿)や尿を用いた、RT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出やウイルス分離がある。血清学的診断には、特異的IgM抗体の検出、または中和抗体の検出がある。ウイルス非構造タンパク(NS1)抗原の検出も有用である。これらの検査は、地方衛生研究所または国立感染症研究所で実施可能である。詳細は蚊媒介感染症の診断ガイドライン第5版(2019年2月)を参照。
治療
デング熱に対しての特異的な治療法は存在せず、解熱鎮痛剤や補液などの対症療法が中心となる。解熱鎮痛剤としては、アセトアミノフェンが推奨される。アスピリンは出血傾向やアシドーシスを助長するため使用すべきでない。また、イブプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)も胃炎あるいは出血を助長するため使用すべきでない。デング出血熱やデングショック症候群は、血管透過性亢進により血管外に血漿漏出を起こすため、速やかに十分量の補液(生食や乳酸リンゲル液などの等張液輸液)が重要である。バイタルサイン、水分バランス、血液データ(ヘマトクリット値、血小板数など)を注意深く観察し、全身管理が必要となる。
予防
- 肌を露出しないように、長袖・長ズボンを着用
- 十分な蚊対策が施されている宿泊施設を利用
- DEET(N,N – diethylmetatoluamide)を含有する昆虫忌避剤を使用
- 蚊が繁殖するための場所(例;水がたまりやすい容器など)を排除
バイオハザード対策
デングウイルスは、感染症法では四種病原体等に指定されている。四種病原体等では届け出は不要であるが、施設基準、保管、使用、運搬、滅菌等の基準の遵守が求められている。基準に対する違反が判明した場合には、改善命令や立入検査等が行われる。また、本ウイルスは、バイオセーフティレベル(BSL)2に指定されており、病原体等安全管理区域運営規則を遵守することが求められている。
感染症法における取り扱い
デング熱は、感染症法では四類感染症に定められており、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届ける必要がある。我が国における近年のデング熱患者報告者数を 図3に示す。報告基準は以下の通りである。
- 診断した医師の判断により、症状や所見からデング熱が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたものとされている。
- 病原体の検出(例;血液などからのウイルス分離)
- 病原体の遺伝子の検出(例;RT-PCR法など)
- 病原体に対する抗体の検出(例;血清中のデングウイルス特異的IgM抗体の検出、ペア血清による抗体の陽転化もしくは4倍以上の上昇など)
- 上記に基準に加えて、下記の4つの基準を全て満たした場合には、デング出血熱として報告する
- 臨床症状
- 2~7日持続する発熱(時に2峰性のパターン)
- 血管透過性の亢進(以下の血漿漏出症状のうちの一つ以上)
- ヘマトクリットの上昇(補液なしで同性、同年代の者に比べ20%以上の上昇)
- ショック症状の存在
- 血清蛋白の低下あるいは、胸水または腹水の存在
- 血小板の低下
- 100,000/mm3以下
- 出血傾向
- Tourniquetテスト陽性
- 点状出血、斑状出血あるいは紫斑
- 粘膜あるいは消化管出血、あるいは注射部位や他の部位からの出血
- 血便
- 臨床症状
参考文献
- CDC ホームページ: http://www.cdc.gov/Dengue/
- WHOホームページ: http://www.who.int/topics/dengue/en/
- 国立感染症研究所情報センターホームページ: http://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.html
- 蚊媒介感染症の診療ガイドライン第5版(2019年2月)