3.野兎病 – Tularemia

サマリー

  1.  病原体の特徴
    • 起炎病原体:野兎病菌(Francisella tularensis
    • 形態:グラム陰性の多形性を示す桿菌
    • 保菌動物:ノウサギ,野生げっ歯類など
  2. 分類と潜伏期間
    • 7つの病型に大別される
    • 潜伏期: 2-14日
  3. 感染経路
    • 保菌動物からの直接的な感染
    • マダニなどを介した間接的な感染
    • バイオテロ:菌のエアロゾル化による散布および菌で汚染した飲料水による感染拡大の可能性
  4. 臨床症状
    1.  リンパ節型
      • 四肢の感染に伴う腋窩のリンパ節の腫脹が多い
      • 菌侵入部位の潰瘍は認めない
    2. 潰瘍リンパ節型
      • 所属リンパ節の腫脹,化膿,潰瘍に加え,
      • 菌侵入部位の壊死や潰瘍を認める
    3. 眼リンパ節型
      • 激しい結膜炎症状(流涙,眼瞼浮腫)を訴える
      • 耳前部や頚部リンパ節の腫脹を伴う
    4. 鼻リンパ節型
      • 鼻粘膜のジフテリア様の痂皮形成
      • 顎下,頚部リンパ節のリンパ節腫脹を伴う
    5. 扁桃リンパ節型
      • 膿苔,膿疱を伴った扁桃腫脹
      • 顎下,頚部リンパ節の腫脹を伴う
    6. 肺炎型
      • 日本では現在まで報告はない
      • 胸痛を伴う肺炎症状を認める
    7. チフス型
      • 発熱,意識障害,髄膜刺激症状
      • リンパ節の腫脹は認めない臨床症状                    ※バイオテロの場合は主に肺炎型からの発症が予想されるが,エアロゾルによって散布された菌の侵入部位によっては他の病型も取りうる.
    8. 検体の種類および採取法
      • 血液、リンパ節穿刺吸引物、喀痰、胃液,生検組織等            ※ただし血液培養の陽性率は低い
    9. 検体の輸送法
      • 喀痰,吸引採痰等は冷蔵状態にて輸送
      • 血液はカルチャーボトルで保温状態で輸送
    10. 微生物学的検査法
      1. 菌の分離・同定
      2. 抗原の検出◦組織片スタンプの蛍光抗体染色
        • 病理切片の免疫染色など
      3. 遺伝子学的検査
        • PCR法
      4. 血清診断
        • バイオテロにおいては血清診断の有用性は低い
      5. 感染症における取り扱い
        • 野兎病は、感染症法において4類感染症に分類
      6. 患者の隔離や汚染器材等の管理
        • ヒトからヒトへの感染はみられない
        • 汚染材料は焼却あるいはオートクレーブ滅菌
        • 野兎病が疑われる検査材料はバイオセーフティ・レベル2の取り扱い
      7. 治療の要点
        • 野兎病菌はβ-ラクタム系抗菌薬には耐性
        • 【推奨される薬剤】
          • アミノグリコシド系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬、クロラムフェニコール、マクロライド系抗菌薬
          • 投与例
          • ストレプトマイシン 20mg/kg im(最大量1g)+ ミノサイクリン 2〜4mg/kg/日 分2経口 (最大量 200mg) 14日間
    11. 抗菌薬の予防投与
      • バイオテロによる事件に遭遇した場合は、抗菌薬の投与による予防が推奨される.

                       2009年11月09日 14時54分 改訂             2018年11月 改訂

バイオテロが疑われる状況と対応

      • chart_20091113020432

        2009年11月13日 02時04分 改