サマリー
- 病原体の特徴
- ボツリヌス菌(Clostridium botulinum):偏性嫌気性のグラム陽性桿菌,芽胞を形成
- ボツリヌス毒素:神経伝達部位におけるアセチルコリン放出を抑制,熱や水道水中では不安定
- 分類と潜伏期間
- 潜伏期:数時間~8日間程度と幅広い.(曝露された毒素量,芽胞の量,感染経路などに大きく影響される)
- 感染経路
- 経口摂取:毒素,または芽胞が混入した食品,飲料水
- バイオテロ:毒素を散布する可能性が最も高い
- 臨床症状
- 消化管の障害
- 便秘,嘔気,嘔吐,腹痛,嚥下困難など
- 泌尿器系の障害
- 尿閉
- 視覚異常
- 眼筋の麻痺による複視,瞳孔散大, 対光反射の消失,めまい,眼瞼下垂
- 呼吸器の障害
- 呼吸筋麻痺,呼吸困難
- 運動筋の障害
- 四肢筋力の低下,歩行障害など
- 血圧調節障害
- 立ちくらみ(起立性低血圧)
- ※臨床的なボツリヌス症の診断には
- 1.眼筋の麻痺を伴う左右対称性の弛緩性麻痺
- 2.発熱を伴わない
- 3.触覚等の感覚は正常
- が重要なポイントとなる.
- 検体の種類および採取法
- 血清,腸管内容物,便,毒素の混入が疑われる食品など
- 毒素検出用の血清は10ml以上の量を提出
- 検体の輸送法
- 検体は凍結状態で輸送するのが望ましい.
- 水道水など塩素が入っていると毒素の失活が早い
- 微生物学的検査法
- 1.毒素の検出(マウスの腹腔内に接種)
- 2.PCR:ボツリヌス菌の毒素遺伝子を検出
- ※毒素の検出が困難な例も多いとされている.
- 患者の隔離や汚染器材等の管理
- ヒトからヒトへの感染はない(患者の隔離は不要)。
- ボツリヌス毒素は失活しやすいため、汚染器材は煮沸などで充分
- 大量に菌の存在が考えられる場合にはオートクレーブ処理を行う。
- 治療の要点
- 抗血清療法◦
- ボツリヌス毒素に対する抗血清の早期投与が第一選択
- 臨床的にボツリヌス症が疑われた場合は,確定診断を待たずに速やかに抗毒素療法を実施する.
- 10,000~20,000 単位を筋注あるいは静注
- 全身管理その他◦気管内挿管・気管切開による気道の確保
- 人工呼吸器による呼吸管理
- 胃洗浄や浣腸(消化管内の毒素を除去)
- 塩酸グアニジン投与(アセチルコリンの放出を促進)
- 抗血清療法◦
- 抗菌薬の予防投与
- 基本的に抗菌薬は無効
- 逆に体内に存在する菌が溶菌して毒素が放出されると,症状が悪化する危険性が指摘されている.
- 消化管の障害
2009年11月05日 07時57分 改訂
バイオテロが疑われる状況と対応