病原体の特徴
西部ウマ脳炎は、トガウイルス科アルファウイルス属に属する西部ウマ脳炎ウイルスにより引き起こされる疾患である。北アメリカの西部に分布しており、その他にカナダや南アメリカでも分布が認められている。自然界では、イエカと鳥の間で感染環が維持されており、ウイルスを保有している蚊にヒトが刺咬されることでヒトに感染する。
主な臨床像
ウイルスを保有している蚊に刺咬された場合でも、成人の場合には0.1%程度しか発症せずほとんどは不顕性感染となる。小児の場合には発症率がやや高く、2~10%が顕性感染となる。症状は、5~10日間の潜伏期間の後に、発熱・頭痛・全身倦怠感・筋肉痛・関節痛・咽頭痛などの一般的な感冒様症状が出現する。他には下痢や嘔吐などの消化器症状を認めることもある。ほとんどは上記の症状のみで回復するが、上記の症状や頭痛が数日続いた後に脳炎を発症することがあり、乳幼児や高齢者で多いとされている。脳炎を発症した場合には、痙攣や意識障害が出現し、乳児では経過が急激で、より死亡率も高く、回復しても60%以上で脳に障害が残る。年長になるほど回復は早く、通常は5~10日で回復する。
臨床検査所見
特異的な所見はない。
確定診断
血液あるいは髄液中のPCR法によるウイルス遺伝子の検出、あるいはIgMの検出、またはペア血清による中和抗体の上昇を確認する。
治療
特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。
予防(ワクチン)
流行地では、蚊に咬まれないようにする。ウマ用のワクチンは開発されているが、ヒト用のワクチンは実用化されておらず一般的ではない。
バイオハザード対策
患者の隔離
標準予防策を徹底する。西部ウマ脳炎ウイルスの取り扱いは、P3実験施設BSL3の取り扱い基準に従って実施することになっている。(国立感染症研究所規定より)
参考文献
- 東京都福祉保健局、西部ウマ脳炎、東京都新たな感染症対策委員会 監修、東京都感染症マニュアル、p276-7、2009
- 大松 勉 高崎智彦 倉根一郎、感染症法改正で新たに追加された急性脳炎をおこす4類感染症、IASR Vol. 28 p. 350-351: 2007年12月号、http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/334/dj3347.html
- 感染症診療スタンダードマニュアル 羊土社 P.219-220
- CDC ,Fact Sheet Western Equine Encephalitis, http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/arbor/weefact.htm
- 杉浦 健夫. “ウマ脳炎” 木村 哲,喜田 宏 編集, 人畜共通感染症 2004, 医薬ジャーナル,P71-2,
- 永田 典代, 佐多 徹太郎. “ウマ脳炎” 神山 恒夫, 山田 章雄, 動物由来感染症 2009, 真興交易医書出版部,P83-7.
- 国立感染症研究所、国立感染症研究所病原体等安全管理規定、http://www.nih.go.jp/niid/Biosafety/kanrikitei3/kanrikitei3_0904.pdf、2009年4月
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項および第14条第2項に基づく届け出の基準について、厚生労働省健康局結核感染症課長通知、2006年3月