病原体の特徴
回帰熱の病原体は、ダニやシラミによって媒介されるスピロヘータの一種、ボレリア(Borrelia)属細菌である。ボレリアは長さ8-30μm、幅0.2-0.5μmの運動性をもつ、らせん菌である。
- 分類:媒介動物により2種類にわかれる。シラミ媒介性のほうがダニ媒介性よりも重症となりやすい。
- ダニ媒介性:アフリカ大陸、アメリカ大陸、欧州や中近東の一部の自然環境中に見いだされる軟ダニの一種、Ornithodoros属ダニ(ヒメダニの一種)により媒介される。ダニ媒介性のボレリアには15種類以上が知られている(表1)。ダニは洞窟、洞穴、げっ歯類、鳥類の巣などに住み、行動範囲は50m以下に限られる。人の住む環境には主にげっ歯類により運ばれる。ボレリアはダニの唾液腺に移行するため吸血の際にヒトに感染する。
- シラミ媒介性:Borrelia recurrentisのみである。全世界に分布する(表1)。ダニ媒介性と異なりシラミの唾液腺には移行しない。シラミの排泄物中に排菌されたボレリアは、皮膚の微細な傷、粘膜を通じて感染する。ボレリアを保有するシラミをつぶすことでも感染する。
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(図1)
主な臨床像
潜伏期は7日(4-18日)。発熱期と無熱期を繰り返すのが特徴であり、回帰熱と呼ばれる所以である。発熱・無熱はダニ媒介性では2-3回繰り返すうちに治癒するが、時に10回以上繰り返すこともある。シラミ媒介性では1回のエピソードで治癒することもある。
発熱期(2-7日,平均3日)は、突然の悪寒、発熱、筋肉痛、関節痛、頭痛を主症状とする。頭痛を訴える例が95%と多い。熱型は弛張熱であり40度を超える。またこの時髄膜炎、点状出血、紫斑、結膜炎を認めることがある。
発熱期を過ぎると急速に解熱して無熱期(4-14日,平均7日)となる。この時期、発汗、倦怠感、血圧低下、斑状丘疹を見ることがある。抗菌薬による治療を行わない場合、5-7日で再び発熱期に入る。発熱期の症状は繰り返すごとに軽くなる。
身体所見としては、発熱、頻呼吸、低血圧、肝脾腫、発疹、呼吸性雑音、リンパ節腫脹、黄疸、昏睡、ベル麻痺などの脳神経障害がみられる。
合併症には、肺胞出血、消化管出血、脳出血、肝炎、心筋炎、ARDS、脾臓破裂などがある。
抗菌薬使用しない場合の致死率は5-10%といわれている。
臨床検査所見
血液生化学検査
- 貧血、血小板減少、白血球数は正常が多い
- PT,APTT が上昇することが多い
- 肝酵素上昇、ビリルビン上昇
画像検査その他
- 肺合併症を見るための胸部写真
- 肝脾腫を見るための腹部超音波検査
- 心電図(QT時間延長を起こすことがある)
確定診断
- 直接法:有熱期の血液をWright-Giemsa染色しスピロヘータを観察する (図2)。
- 生体試料からの分離培養:有熱期の血液、髄膜炎患者からの髄液から分離を行う。
- PCR: 有熱期の血液、髄液を材料とする。ほぼすべてのBorrelia種でDNA検出が可能。
輸送方法は、血清、髄液などを滅菌容器にいれ密栓したものを4℃で輸送する。
治療
抗菌薬治療が必須であるが、抗菌薬開始後、Jarisch-Herxheimer反応が見られるので注意が必要である。治療開始後3時間以内に発熱、悪寒、頻脈、血圧上昇または低下、発疹がみられる。出現頻度は30-50%と高く、特にシラミ媒介性に多くみられる。出現時には輸液、解熱剤を使用しながら注意深い観察が必要である。
第一選択:テトラサイクリン系薬剤。
例)ドキシサイクリン 200mg/day 5-10日間。
代替治療:ペニシリンGまたはエリスロマイシン
予防(ワクチン)
ダニ媒介熱の流行地域ではドキシサイクリンで予防する。
ドキシサイクリン:初期投与量 200mg, 維持投与 100mg/day 4日間
ダニの忌避が重要である。
予防を目的としたワクチンは開発されていない。
バイオハザード対策
ヒトからヒトへの感染はないが,発熱期には菌血症をおこしているため血液の扱いには注意が必要である。標準予防策で対応する。環境の消毒が必要な場合は,0.1~0.5w/v%両性界面活性剤,0.1~0.5w/v%第四級アンモニウム塩を使用する。リネン類は熱水消毒(80℃・10 分間),もしくは0.05w/v%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウム溶液に30 分間以上浸漬して消毒する。
感染症法における取り扱い
感染症法では四類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。
- 報告のための基準
診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。- 病原体の検出
例、発熱期の血液からの分離培養
暗視野顕微鏡下鏡検での病原体の確認など - 病原体の抗原の検出
例、スメアの観察(蛍光抗体法)など
- 病原体の検出
参考文献
- 国立感染症研究所感染症情報センター, 回帰熱 relapsing feverhttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_41/k02_41.html
- Centers of Disease Control and Prevention(CDC) Relapsing feverhttp://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/RelapsingFever/index.html
- Principles and practice of Infectious Disease Mandell,Douglas,and Bennett’s, 7th edition 3067-69
- Dworkin MS; Schwan TG; Anderson DE Jr; Borchardt SM. Infect Dis Clin North Am. 2008 Sep;22(3):449-68, viii.