病原体の特徴
SFTSは、マダニが媒介するSFTSウイルス(SFTSV)による感染症である。SFTSVは**フェヌイウイルス科・バンダウイルス属(Dabie bandavirus)**に分類される一本鎖RNAウイルスである。主に中国、韓国、日本で報告されており、日本では2013年に初めて患者が確認された。従来は西日本で多く発生していたが、2025年8月には北海道で初の患者が公式に確認され、東日本への拡大は国の公的機関でも明記されている。
中国ではフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)およびオウシマダニ(Rhipicephalus microplus)からSFTSV遺伝子が検出されている。一方、日本では患者に付着していたマダニとしてフタトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ(Amblyomma testudinarium)などが報告されている。
日本分離株の遺伝子解析では、中国株とは独立したクラスターを形成しており、日本株は独自の進化を遂げていると考えられる。(図2)。
自然界では、マダニと哺乳動物がSFTSVの宿主である。SFTSVは成ダニから幼ダニへ経卵性に伝搬し、さらにマダニから哺乳動物へ感染する。逆に、感染した哺乳動物からマダニがウイルスを獲得することもある(図3)。
感染経路
主な感染経路は、SFTSVを保有するマダニによる刺咬である。空気感染は想定されないが、血液・体液との接触によりヒト−ヒト感染が成立することがあり、日本国内でも医療従事者の感染例が報告されている。医療現場では標準予防策および接触予防策を基本とし、体液が飛散する可能性がある処置では飛沫予防策も推奨される。
また、SFTSVに感染した動物からの感染も報告されている。ネコからヒトへの感染はゲノム同一性で裏付けられた確実な事例が複数あり、獣医療従事者などで発生している。一方、イヌからヒトへの感染は咬傷後の発症が推定経路とされた症例があり、「疑い例」とされている。
予防
現在、有効なワクチンは存在しない。したがって、マダニが多く生息する草むらや藪に入る際には、長袖、長ズボン、帽子、手袋を着用し、肌の露出を避けることが推奨される。リスクは春から秋にかけて高く、とくに初夏〜秋に注意が必要である。また、感染動物との接触にも注意を要する。
主な臨床像
発熱、消化器症状(吐気、嘔吐、腹痛、下痢など)、出血所見(吐血、歯肉出血など)が認められる。神経症状が出現する場合は予後不良の兆候とされる(表1)。
表1:各種症状およびその発生頻度(Lancet Infect. Dis. 2014;14:763–772. doi: 10.1016/S1473-3099(14)70718-2.)
Symptom | 患者数 (n) | 症状あり (n, %) |
Fever | 614 | 609 (99%) |
Fatigue | 606 | 561 (93%) |
Anorexia | 606 | 540 (89%) |
Malaise | 337 | 274 (81%) |
Nausea | 594 | 459 (77%) |
Myalgia | 599 | 423 (71%) |
Abdominal pain / tenderness | 335 | 183 (55%) |
Vomiting | 588 | 308 (52%) |
Headache | 601 | 308 (51%) |
Chill | 508 | 316 (62%) |
Lymphadenopathy | 331 | 166 (50%) |
Diarrhea | 607 | 279 (46%) |
Arthralgia | 328 | 80 (24%) |
Cough | 572 | 165 (29%) |
Confusion | 93 | 24 (26%) |
Sputum production | 503 | 123 (24%) |
Throat congestion | 81 | 10 (12%) |
Conjunctival congestion | 90 | 10 (11%) |
Apathy | 69 | 6 (9%) |
Petechiae / skin rash | 328 | 30 (9%) |
Coma | 69 | 4 (6%) |
Slurred speech | 69 | 4 (6%) |
臨床検査所見
末梢血では白血球減少および血小板減少が認められる。生化学検査ではAST、ALT、LDHの上昇、消化器症状に伴う電解質異常がみられる。尿検査では血尿や蛋白尿が高頻度で出現する。重症例では骨髄検査において細胞低形成やマクロファージの血球貪食像が確認されることが多い。
表2.血液検査所見(New Engl. J. Med. 2011;364:1523–1532. doi: 10.1056/NEJMoa1010095.)
Result | Normal level no./total no. (%) |
Increased level no./total no. (%) |
Decreased level no./total no. (%) |
Platelet count | 4/73 (5) | 0/73 | 69/73 (95) |
White-cell count | 8/74 (11) | 2/74 (3) | 64/74 (86) |
Neutrophil count | 0/12 | 0/12 | 12/12 (100) |
Lymphocyte count | 2/12 (17) | 0/12 | 10/12 (83) |
Alanine aminotransferase | 11/64 (17) | 53/64 (83) | 0/64 |
Aspartate aminotransferase | 4/63 (6) | 59/63 (94) | 0/63 |
Ratio of albumin to globulin | 11/63 (17) | 0/63 | 52/63 (83) |
Alkaline phosphatase | 39/53 (74) | 3/53 (6) | 11/53 (21) |
Lactate dehydrogenase | 1/51 (2) | 49/51 (96) | 1/51 (2) |
Creatine kinase | 21/49 (43) | 25/49 (51) | 3/49 (6) |
Creatine kinase MB fraction | 19/47 (40) | 28/47 (60) | 0/47 |
Activated partial-thromboplastin time | 7/12 (58) | 5/12 (42) | 0/12 |
Proteinuria | 7/43 (16) | 36/43 (84) | 0/43 |
Hematuria | 19/46 (41) | 27/46 (59) | 0/46 |
Fecal occult blood | 15/19 (79) | 4/19 (21) | 0/19 |
確定診断
急性期血液からのVero細胞等を用いたウイルス分離・同定、あるいはRT-PCR法によるウイルス遺伝子の増幅が不可欠である。**尿や咽頭ぬぐい液からの遺伝子検出が有用である場合もある。**また、急性期と回復期における抗SFTSV IgG抗体価の有意な上昇を確認することも診断に有用である。
国立感染症研究所および全国の保健所ではRT-PCR検査体制が整備されている。また、一部施設では間接蛍光抗体法やELISA法による抗体測定も可能である。死亡例では組織免疫染色法により、リンパ節などの臓器からSFTSV抗原を検出して診断することも可能である。SFTS疑い例を診察した場合には、保健所に相談するとよい。
治療
ファビピラビルが2024年6月にSFTSへの適応で国内承認された。リバビリンやステロイド投与、血漿交換療法の有効性については症例報告があるが、現時点ではエビデンスは限定的である。詳細は**『重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 診療の手引き』**を参照することが推奨される。
バイオハザード対策
国立感染症研究所では、SFTSVはバイオセーフティレベル3(BSL-3)に分類されている。
感染症法における取り扱い
SFTSは感染症法に基づく四類感染症(全数把握疾患)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出なければならない。SFTSVは三種病原体に指定されており、施設基準や保管・使用・運搬・滅菌の基準を遵守する必要がある。また、所持後7日以内に厚生労働大臣への届出を行い、施設外へ運搬する場合には公安委員会への事前届出が義務付けられている(感染症法第56条の16)。
参考文献
- Yu X.J., et al. Fever with thrombocytopenia associated with a novel bunyavirus in China. New Engl. J. Med. 2011;364:1523–1532. doi: 10.1056/NEJMoa1010095.
- Xu B, et al. Metagenomic analysis of fever, thrombocytopenia and leukopenia syndrome (FTLS) in Henan Province, China: discovery of a new bunyavirus. PLoS Pathogens 7: e1002369, 2011.
- Gai, ZT, et al. Clinical Progress and Risk Factors for Death in Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Patients. J Infect Dis 206:1095-1102, 2012.
- Cui F, et al. Clinical and Epidemiological Study on Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome in Yiyuan County, Shandong Province, China. Am. J. Trop. Med. Hygiene 88:510-512, 2013
- Takahashi T., et al. The first identification and retrospective study of severe fever with thrombocytopenia syndrome in Japan. J. Infect. Dis. 2014;209:816– doi: 10.1093/infdis/jit603.
- Liu Q., et al. Severe fever with thrombocytopenia syndrome, an emerging tick-borne zoonosis. Lancet Infect. Dis. 2014;14:763–772. doi: 10.1016/S1473-3099(14)70718-2
- Kim U.J., et al. Hyperferritinemia as a diagnostic marker for severe fever with thrombocytopenia syndrome. Dis. Markers. 2017;2017:6727184. doi: 10.1155/2017/6727184.
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重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 診療の手引き
画像
図1 SFTSVのヒトへの感染に関わるマダニ[A. フタトゲチマダニ、B. タカサゴキララマダニ]
国立感染症研究所昆虫医科学部
図2 SFTSV日本株および中国株の遺伝子塩基配列に基づく系統樹解析結果
図3 SFTSVの自然界における存在様式(生活環)